モバイル向け「Ryzen PRO 6000」はどのくらい“高速”なのか? AMDが解説:Microsoft Pluton対応
モバイル(ノート)PC向け新型APU「Ryzen PRO 6000シリーズ」が改めて発表された。それに合わせて、AMDが同APUの優位性を解説する説明会を開催したので、その様子を簡単にまとめる。
AMDの新型モバイルPC向けAPU「Ryzen PRO 6000シリーズ」を搭載するノートPCが、2022年第2四半期(4〜6月)に登場する。このAPUは「Ryzen 6000シリーズ」をベースとして企業向けの管理/セキュリティ機能「AMD PRO」と、Microsoftが提唱する新しいセキュリティプロセッサ「Microsoft Pluton」に対応したものだ。
Ryzen PRO 6000シリーズを搭載するノートPCの発売を前に、AMDは報道関係者を対象に同APUを改めて説明する機会を設けた。その概要をお伝えする。
Ryzen PRO 6000シリーズ(と、Ryzen PRO 5000シリーズの追加モデル)のラインアップ。この表の中には、Lenovoにのみ供給される「Ryzen 7 PRO 6860Z」が含まれていない
「Zen 3+ CPU」性能と「RDNA 2 GPU」でライバルと勝負!
Ryzen PRO 6000シリーズのCPUコアとGPUコアは、先行するRyzen 6000シリーズとおおむね同じ構造となっている。
CPUコアは6nmプロセスの「Zen 3+アーキテクチャ」を採用している。消費電力当たりの処理パフォーマンスとプロセッサの面積当たりの処理パフォーマンスの2点を意識したアーキテクチャで、Ryzen PRO 5000シリーズの「Zen 3アーキテクチャ」と比べると最大で1.3倍のパフォーマンス改善を果たしている。
GPUコアは6nmプロセッサ化した「RDNA 2アーキテクチャ」を採用している。演算ユニット(CU)の数に応じて「Radeon 660M(CU6基)」または「Radeon 680M(CU12基)」を名乗るのはRyzen 6000シリーズと同様で、先代の「GCN(Graphics Core Next)アーキテクチャ」ベースのGPUと比べて最大2倍のパフォーマンス改善を実現した。
問題は、これらの改善が処理パフォーマンスにどのような影響を与えるかである。AMDの自社調査によると、Ryzen 7 PRO 5850U(1.9GHz〜4.4GHz、8コア16スレッド)を基準とした場合、Ryzen 7 PRO 6850U(2.7GHz〜4.7GHz、8コア16スレッド)のパフォーマンス改善効果(平均値)は以下の通りとなったという。
- 15W稼働時
- CPUパフォーマンス:1.1倍
- GPUパフォーマンス:1.5倍
- 28W稼働時
- CPUパフォーマンス:1.3倍
- GPUパフォーマンス:2.1倍
Ryzen 7 PRO 6850UとRyzen 7 PRO 5850Uのパフォーマンス比較。同じ消費電力だとCPUのパフォーマンス改善はそれほど大きくないが、消費電力を28Wに高めるとCPUパフォーマンスの改善効果も大きくなる
Ryzen PRO 6000シリーズでは、TDP(熱設計電力)を15W〜28Wの範囲で調整できるようになっている。最大消費電力は、競合の第12世代Coreプロセッサ(開発コード名:Alder Lake)のPシリーズの基本消費電力とちょうど重なる。そのこともあり、AMDはRyzen 7 PRO 6860Z(8コア16スレッドであること以外の詳細は不詳)とCore i7-1260P(Pコア4基8スレッド+Eコア8基8スレッド)と比較したテスト結果を提示した。
それによると、CPUベンチマークである「CINEBENCH R23」ではシングルコアのスコアこそわずかに劣るものの、マルチコアのスコアは約25%高速だったという。「全てが“パフォーマンスコア”」であるZen 3+アーキテクチャの優位性をアピールした格好である。
GPUコアの力がモノをいう3DMarkでも、Ryzen 7 PRO 6860Zの方が良好なスコアを残したという。Core i7-1260Pが搭載する「Iris Xe Graphics」も内蔵GPUとしては性能が良好な部類だが、“現行の”RDNA 2アーキテクチャにはかなわないということなのかもしれない。
総合ベンチマークテスト「PASSMARK」では、全体スコアが約1.5倍にもなったそうだ。その他のベンチマークテストでも、UL Procyonの一部テストを除きRyzen 7 PRO 6860Zの方がスコアが良好だったという。
ULのベンチマークでは、PCMark 10では総合スコアとProductivity(生産性)スコアでは優位に立ったものの、UL ProcyonのOffice Productivity(オフィス生産性)テストでは僅差で敗れている
しかし、僅差で敗れたUL ProcyonのOffice Productivityテストを「Microsoft Teams」のビデオ会議をしながら行うと、最大で17%高速になるという。率直にいうと、ここまでして勝ちたいのかという疑問はある
バッテリー持ちも良好
Ryzen 7 PRO 5850Uを基準として「消費電力当たりのパフォーマンス」を比べると、Ryzen 7 PRO 6850Uはビデオ会議で最大35%、Webブラウジングで最大17%、ビデオのストリーミング再生で最大32%の消費電力を削減できたという。単純なビデオ再生であれば、最長で29時間再生できたそうだ。
Teamsを使ったビデオ会議におけるバッテリー駆動時間をRyzen 7 PRO 6860Zの搭載PC(50Wh)とCore i7-1260Pの搭載PC(57Wh)で比べると、Ryzen 7 PRO 6860Z搭載PCは最大45%長くなるという。競合がよく使う「MobileMark 2018」のバッテリー駆動時間テストでも、Ryzen PRO 6850Uは長い時間の稼働を確認できたという。
関連記事
- “6nmプロセス化”だけではない! AMDがモバイル向け「Ryzen 6000シリーズ」の進化を力説
AMDが、CES 2022で披露したモバイル向けRyzen 6000シリーズプロセッサの詳細を解説するイベントを2度に渡って開催した。競合のIntelが製品の競争力の面で復活しつつある中、弱点を徹底的につぶした上で強みをより強化することで再び優位性をアピールできるAPU(GPU統合型CPU)に仕上がった。【訂正】 - AMDがモバイル向け「Ryzen 6000シリーズ」APUを発表 外部GPUなしでRTを実現
AMDが、モバイル向けの新型APUを発表した。CPU部分は6nmプロセス化された「Zen 3+アーキテクチャ」、GPU部分は「RDNA 2アーキテクチャ」とすることとでパフォーマンス向上を図った他、各種バス/ポートの近代化も行っている。【更新】 - セキュリティプロセッサ「Pluton」と2021年のWindows PC
TPMを置き換えるものとなる「Microsoft Pluton」とは何か。今後のPCやWindowsに大きな影響を与えることになるプロセッサについて考察する。 - 新デザインと新カラーを採用 Lenovoが新型Ryzenプロセッサ搭載の「ThinkPad Zシリーズ」を5月に発売
Lenovoが、ThinkPad Zシリーズを“復活”させる。新しいZシリーズは、AMDの最新APU「Ryzen PRO 6000シリーズ」を搭載し、より広いビジネスユーザーに訴求すべく、従来のThinkPadからデザインの一部を変更すると同時に、環境配慮も盛り込んでいる。 - 「第12世代Coreプロセッサ(Alder Lake)」にモバイル向け製品登場 デスクトップ向け追加ラインアップも
Intelの第12世代Coreプロセッサに、モバイル向け製品が登場する。ハイエンド向けの「Hプロセッサ」、省電力重視の「Uプロセッサ」の中間として「Pプロセッサ」が新設されたことが特徴だ。その他、アンロック非対応のデスクトップ向け製品も順次発売される。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.