「デジタル時代に新たな花の文化を開かせる」――東信氏AMKKの滑らかなDX化と新たな挑戦:デジタルで新しい「花」の姿を表現し続けたフラワーアーティスト(1/4 ページ)
Apple製品を使い、これまでにない表現を続けるフラワーアーティストの東信(あずま まこと)氏。林信行氏が、花とデジタルツールとの融合や、制作にかける思いを聞いた。
フラワーアーティスト「東信」(あずま まこと)は、花や植物のみが有する神秘性を表現し、植物の存在価値を高める活動を続けている。一輪の花も置かないフルオーダーメイドの花屋として、顧客一人一人のリクエストに合わせたオートクチュールの花束を作り続けてきたことが世界的にも注目を集めた。
ニューヨークで個展が開かれたり、世界のセレブが集ったパリのセレクトショップ「コレット」(現在は閉業)のショーウィンドウを手掛けたり、カルティエ現代美術財団でのアートパフォーマンスを行ったりと、南米を含む欧米や中国大陸など世界を股にかけて活躍を続けている。
2021年末は、「第72回NHK紅白歌合戦」メインステージのフラワーアートをプロデュースして話題になったが、日本以上に海外でその名を聞くことが多い。実はAppleも、これまで度々、米国市場向けの自社製作ビデオ映像に、東氏を出演させインタビューなどを披露していて気になっていた。
花とデジタルツール――今回、機会を得てインタビューをしてみると、東氏は、この一見、対局にあるような2つをうまく融合させたことで、これまでになかった花の新境地を斬り開いてきたのだと納得させられた。そんな東氏に、この15年の間に一気に進んだ自身のデジタルトランスフォーメーション(DX)から、これから取り組むというNFTの全く新しい活用方法への提案などについて話を聞いた。氏の話からは、一般の企業にも相通じるDX化の理想を垣間見ることができる。
デジタルで花をデザインする
花とデジタルツール、なかなか想像がつきにくい取り合わせだが、東氏はこの2つをどのようにつなげているのか。
「花は朽ちて無くなりゆくもの。だからこそ我々の記憶に残るし、それが花の魅力の1つとも言えます。しかし、時代の変化とともに、その様子を映像、画像といった形で記録し発信することが増えてきました。一方で、こういった最新のデジタルツールを使うことで、それまでにできなかった新しい表現や活動が可能になってきました」と語る。
東氏はこれまで、誰も見たことのない花の作品を次々と創造している。
例えば花の咲かない不毛の地に花の作品を届ける「In Bloom」というプロジェクトでは、砂漠に始まり、深海、さらには宇宙(成層圏)にまで花の作品を持っていき、誰もが想像すらしなかった花の映像作品を仕上げている。
「In Bloom project #3 SEPHIROTHIC FLOWER:Diving Into The Unknown」。2017年、駿河湾で撮影。地球上の全ての生命が誕生した海。まだまだ未知なところも多い深海に花を沈めて新たな美を探った作品
「EXOBIOTANICA」。根、土、重力といった生命の繋がりを断つことで生まれる「美」とは何かを探求した作品。2014年、上空3万m、摂氏−50度の宇宙へ盆栽と花を打ち上げ、回収した花をネットで販売。The Washington PostやNew York Times、CNNを筆頭に欧米のメディアでも大きく取り上げられた
作品のアイデアが浮かんだ時、東氏はまずそのイメージのスケッチを描くことが多い。ただし、この部分はまだアナログで、紙にスケッチをする方が多いという。しかし、そこから先は「iPad Pro」や「MacBook Pro」上での作業だ。
「この花をここに入れたらどんな写り込みになるか。もう少しインパクトを求めるなら、この色をもう少し強くした方がいいかもしれない」といった具合に作品の最終イメージをiPad上で再現しながら試行錯誤するのだという。
「作品の製作では、現地に入ってから花の発注をするなどしなければならないことも多いです。花は何を仕入れようかとか、どのように生けようかとかを事前にiPad上でかなり高い精度でシミュレーションができてしまうようになりました。以前は実際に作ってみるしか方法がなかったものが、このように事前にシミュレーションできるようになったおかげで、もっとこうしたらいいんじゃないかとか、想像が良い方向に膨らむことが多いんです」と東氏は語る。
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