「Radeon」の開発方針は? なぜ「超ハイエンドGPU」で勝負をしない? 「競合」との関係は? AMDのキーマンに聞く(2/5 ページ)
AMDが12月にリリースした「Radeon RX 7000シリーズ」のハイエンドモデルは、比較的手頃で消費電力が控え目であることが特徴だ。しかし、競合のNVIDIAのハイエンドGPUと比べると絶対的な性能は及ばない。なぜ、AMDはCPUと同じように“絶対的な性能”で勝負を挑まないのだろうか。AMDのキーマンに話を聞いた。
NVIDIAはなぜ「超ハイエンドGPU」を発売できる?
確かに、AMD(バーグマン氏)の主張はよく分かる。競合のGeForce RTX 4090は、高性能であるがゆえに価格も高く、相当高出力な電源ユニットが必要な上、グラフィックスカードの全長も30cmオーバーで、搭載可能なPCケースが相当に限られる。
そこで湧いてくる疑問が、なぜNVIDIAはAMDと逆の戦略、つまり消費電力やサイズを犠牲にしても、絶対的な高性能を備えるGPUを開発する戦略を取るのかという点である。端的に理由をいえば、極端な高性能追求型のGPUを世に出しても、ビジネス的な勝算を見込めるからだ。
NVIDIAは、2006年の「GeForce 8800 GTX(開発コード名:Tesla)」から、GPUをグラフィックス描画以外の汎用(はんよう)演算に利用する「GPGPU(General Purpose GPU)」に注力している。その成果物が、最近は耳慣れた感もある「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」というプラットフォーム基盤だ。
現在のCUDAは、エコシステムといっても過言ではない。科学技術計算用の「HPC(High Performance Computing)」分野はもちろん、AI(人工知能)の技術開発など、GPGPUは学術分野において急速に浸透していったことはあまりにも有名である。
20年前は意味不明な単語だっただろう「GPUサーバ」という言葉が、今ではありふれたキーワードにまでなったのも、このCUDAの成功と切り離すことはできない。
CUDAの成功によって、NVIDIAは超ハイエンド級のGPUをHPC分野やGPGPU用途にも転用できる道筋を“開拓してしまった”。このことは、現在における同社の強みとなっている。
直近の事例でいうと、最新のAda Lovelace(開発コード名)世代のGPUチップにおける最上位「AD102」は、1599ドル(日本では29万8000円)スタートのGeForce RTX 4090で使われている。しかし、このチップを搭載するHPC/GPGPU向けグラフィックスカード「NVIDIA RTX 6000 Ada」は、6600ドル(日本では120万円)からと4倍以上の値付けとなっている。
極端な話、たとえGeForce RTX 4090の売り上げが“そこそこ”だったとしても、金に糸目をつけないHPC/GPGPU分野における顧客が、NVIDIA RTX 6000 Adaを買ってさえくれれば、商業的には“成功”なのである。
AMDも、コンシューマー向けの「Radeon」、プロ向けの「Radeon PRO」以外に、HPC/GPGPU用途向けの「Radeon Instinct(インスティンクト)」というGPUブランドを持っている。ただし、「CDNA」というRadeon/Radeon PROとは異なるアーキテクチャを採用している(現在は第2世代の「CDNA 2」)。
コンシューマー向けからHPC/GPGPU向けまで、同一アーキテクチャでカバーするNVIDIAと比べると、ビジネスモデル面における流麗さは薄い。GPGPU分野への進出が遅れてしまったことが、今になって響いているのかもしれない。
いずれにせよ、現在のAMDのGPU戦略は、現在の彼らが取れる“最良の選択”ということではあるのだろう。
一方で、CPUについてはどうか。先述の通り、あらゆる分野において競合のIntelに対して戦いに挑んでいる。常に頂点を目指しているようにも見える。
この点をバーグマン氏に尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
バーグマン氏 CPUのRyzenシリーズでも、我々の考え方は同じです。「現在のPCゲーミングファンが活用している主流のインフラに適合させる」という点で一貫性があります。
2016年、登場したばかりの「Socket AM4」を生かして最高性能を発揮できる「初代Ryzen(Ryzen 1000シリーズ)」をリリースしました。当時のPCゲーミングファンにとって、適正な価格を実現できるように心掛けたCPUです。
EPYCシリーズも、当時のサーバ/データセンター向けCPUとしては劇的にコストパフォーマンスが良かったために、サーバー業界におけるAMDシェアを大きく拡大することに成功しました。
確かにその通りかもしれない。ただ、Ryzenには超ハイエンドクラスの「Ryzen Threadripperシリーズ」というさらに上位の製品もある。一部のエンスージアストやハイエンドゲーマーは、GPU製品でも「強い上にもさらに強いRadeon」の登場を願っているのではないだろうか。
この点について、バーグマン氏はこう答える。
バーグマン氏 確かに、Ryzen Threadripperはクレイジーなほどに高性能です(笑)。しかし、我々としては一般ユーザーやゲーマー向けのCPUとして開発したとは思っていません。CPUソケットも特殊ですし、メインストリームのSocket AM4ソケットには適合しないことからも分かるでしょう。
ただ、キャッシュメモリのダイをスタック実装している3D V-Cache技術を適用したRyzenシリーズは、そういった超ハイエンドゲーマー向けの受け皿にはなっていると考えています。
最新の「Ryzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ」はその名の通り「AMD PRO」を搭載しており、ゲーマー向けというよりも法人/プロシューマー向けの超ハイエンドCPUという位置付けとなっている
ここでワン氏がつけ加える。
ワン氏 ひと言だけ言わせてもらうとすれば、私たちAMDも、超高性能GPUは開発しているし、リリースもしています。例えば今から2年前、世界初のマルチダイGPUとして「Instinct MI200シリーズ」を発表しました。
シリーズの最上位モデルである「Instinct MI250X」は、FP32(単精度浮動小数点数演算)の理論性能において当時世界最速の約48TFLOPSをマークしていました。これはInstinctシリーズなのでゲーミング向けGPUというわけではありません。ただ、Instinctシリーズを見て頂ければ、AMDもやろうと思えば(超ハイエンドGPUを)開発できることは分かるはずです。
私たちとしては、そのようなGPUはコンシューマー向けには適さないと判断しているだけです。
日本のPCゲーミングファンには、AMDを応援しているユーザーもそれなりにいる。彼らは、NVIDIAのGPUに対してAMDが対等に“挑んでいた”時代のことをよく覚えている。直近(?)でいえば、約10年前の「GeForce GTX 580」と「Radeon HD 7970」の戦いあたりだろうか。その“再来”を望んでいるのだ。
そんな思い出話をバーグマン氏にぶつけると、笑いながらこう答えた。
バーグマン氏 確かにあの時代は熱かったですね。ただ、昔と今では、ハイエンドGPUの性能レンジと開発コスト、製造コストがだいぶ違っています。
我々は近年、PCゲーミングファンに対して競合(NVIDIA)のような「1600ドルGPU」を企画していません。変わりに、性能とコストのバランスが取れた、1000ドルクラスに収まるGPUの企画に注力していいます。
彼らとは600ドルほどの“差”はありますが(笑)、その600ドルを使って他のパーツ調達――例えばCPUとか――に予算を回した方が、より良いゲーム体験につながると考えています。
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