「100万人に喜んでもらえるVAIO」に挑戦しよう! VAIOを触ったことがないのに社長になった山野氏のこだわり:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(VAIO 前編)(3/4 ページ)
コロナの5類感染症変更など、世の中の環境、経済状況や社会情勢が激変する昨今。急激な円安に伴う物価の上昇が続く中で、IT企業はどのような手を打っていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第5回はVAIOだ。
このままではVAIOが生き残れないという危機感
―― 個人向けPC「VAIO F14/F16」と、法人向けの「VAIO Pro BK/BM」では、これまでのVAIOが得意としてきたプレミアムニッチのモノ作りとは異なり、新たにWindows PCの「定番」といえるモノ作りを開始しました。この狙いは何ですか。
山野 これまでのVAIOは、プレミアム製品ばかりを開発してきました。その結果、どうしても「VAIOは価格が高い」ということになり、「熱狂的なファンにしか売れない」という状況にありました。裏を返せば、そこには、開発チームのこだわりや、VAIOのブランドを守るというプライドがあったからこそ、VAIOならではのプレミアムPCを市場に投入できたといえます。
しかし、そこだけを追求していくと、コストは上昇するだけですし、他社との価格差はさらに広がっていきます。VAIOファンにとっても、これ以上の価格は出せないという状況が生まれることになりかねず、VAIOファンが脱落していくことも想定されました。
VAIOがプレミアムニッチだけを追求していては生き残れないという危機感が、社長就任直後に感じた最初の課題でした。
―― 外から見ていると、VAIOのラインアップは着実に広がっています。売上規模は小さいものの、2021年5月期までは着実に利益を生んでいました。VAIOが生き残れないという危機感は想定外でした。
山野 私はVAIOの状況を見て、負のスパイラルに入っていると判断しました。プレミアムニッチのモノ作りですから、数は一定の数量しか売れません。数量が少なければコストが上昇し、コストが上昇すれば価格が上昇し、ますます売れなくなります。このままでは淘汰(とうた)され、生き残っていけない。そこで、負のスパイラルを断ち切るために挑んだのが、今回の新製品ということになります。
100万人に喜んでもらえるVAIOに挑戦をしてみよう!
―― 新製品では、Windows PCの「定番」を目指すと発言しました。「定番」の定義を教えて下さい。
山野 必要な性能や機能を詰め込んだ良いPCであるだけでなく、愛着を持って気持ちよく、長く使えるものが定番の条件になります。また、定番を実現するには、手に取りやすい価格で提供することも必要です。目指しているのは、PCに本当に必要な機能を持ち、性能を研ぎ澄ましたことによって実現する定番のWindows PCです。
私は、より多くのお客さまに愛される定番PCを作りたいと考えています。今回の製品はその第1弾であり、フィードバックを得ながら、「定番」をどんどん進化させていくことになります。
―― 「定番」というのは、トップメーカーが作る製品という印象があります。
山野 私は、トップメーカーでないと「定番」を作れないとは思っていません。例えば、ユニクロがフリースを発売した当時は、同社はファッション業界のトップメーカーではありませんでした。革新的な製品を生み出し、そこに力を注ぐことで「定番」を作り上げてきました。
VAIOが目指す「定番」は、最安値のPCではありません。また、スペック表を比べるだけでは価値が伝わりにくいかもしれません。ただ、これはいい製品だし、使いやすいということを感じてもらえる自信があります。
課題はそうした体験をしていただく場を増やすこと、感じていただく機会を用意することです。VAIOの価値を多くのお客さまに伝えるための活動をしていかなくてはなりません。また、販売店のスタッフの方々にも、VAIOを販売した後には、お客さま満足度が高いということを実感していただきたいですね。
VAIOが、「これが定番PCです」といっても、すぐにドーンと売れるわけはありません。時間がかかる仕事だとは思っていますが、慌てずにジワジワと浸透させていくための努力を続けていきます。
―― 「定番」のPCを作ることに対して、社内の反応はどうでしたか。
山野 最初は、社内には抵抗感がありました。なぜ、VAIOが普通のPCを作らなくてはならないのか――と。プライドを持ってVAIOの開発に取り組んできたチームですから当然のことです。しかし、尖ったものを開発することだけが、VAIOの価値なのか、VAIOの挑戦なのかということを話し合いました。
VAIOの価値を毀損(きそん)せずに、手が届く価格帯で、いいPCを世に出すことができたら、もっと素晴らしい価値が生まれるのではないか、もっと大きな挑戦になるのではないか、ということを議論したのです。
仮にVAIO Zを購入する人が1万人だったとしたら、手の届く価格帯にすれば、100万人の人たちにVAIOの価値を届けられる。100万人に喜んでもらえるためのVAIOに挑戦をしてみようじゃないか。そこから開発がスタートしたわけです。
ただ、これは「安かろう、悪かろう」のモノ作りではいけません。VAIOの価値を体現し、なおかつ価格帯を下げたものを作ることになりますから、エンジニアにとってはプレミアム製品を作るよりも難しい挑戦だったといえます。世界初の技術や機能を搭載したことに魅力を感じてもらうモノ作りとは、異なる製品企画や開発が必要になります。
これまでのVAIOは、尖った機能に心が動かされるユーザーに響くモノ作りでしたが、そこに心は動かなくても(笑)、使っていると「これはいいな」と思ってもらえるPCとして認知してもらいたい。個人ユーザーにも、法人ユーザーにも、より多くの方々に使ってもらえるVAIOを目指しています。
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