「スピード、スピード、スピード/生産性の爆上げ/挑戦」 弥生の前山社長が呼び掛けるこだわりの理由:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(2/3 ページ)
世界情勢の不安定化や物価の高騰、そして継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第10回は、弥生の前山貴弘社長だ。
とにかく新たなことへの挑戦と失敗を
―― とはいえ、企業が会計ソフトを使用して決算を行う時期はほぼ決まっていますし、個人事業主の確定申告も年1回決まった時期にあります。法令対応という点でも、他社とタイミングは同じになります。これまでのように年1回、新製品を投入するというサイクルは理にかなっているように感じますが。
前山 法令対応という点でみれば、その通りです。そこに早く対応しようとしても、法令そのものが固まっていない場合もありますからね(笑)。しかし、クラウドシフトしていくと、1年に1回の新製品サイクルを守る必要もないですし、毎週のように新機能を追加することもできます。既に一部の製品では、そうした挑戦を始めています。新機能そのものの提供は、1年に1回のサイクルに縛られる必要はありません。
―― スピードを上げるという姿勢の原点は、競合他社との差にありますか。それとも生成AIをはじめとしたテクノロジー全体の変化への対応を指していますか。
前山 主にはテクノロジーの変化を指しています。AIやクラウドなど、可能性を持ったテクノロジーの変化を捉え、それをしっかりと製品に取り込みたいと考えています。
頭で考えると、これは、お客さまのベネフィットにつながらないのではないかということがあるかもしれませんが、本当にそうなのかといったことに失敗をしてもいいからいち早く挑戦して検証し、新たなテクノロジーをソリューションの中に積極的に取り込んでいきます。
もちろん、スピードを上げるという点では、競合企業との差も意識してはいます。私たちを選んでいただけるために、スピードは大きな価値になりますからね。
―― 3つめの「生産性の爆上げ」は、これまで製品や機能を進化させるというものですか。
前山 いいえ、これも新たなことへの挑戦になります。ポイントは“爆上げ”です。生産性を上げるといっても、もはや当たり前の目標であり、日々取り組んでいることです。(生産性の向上というキーワードだけでは)社員には響きません。
しかし、爆上げという言葉がついた途端に、全く別のことをやらないと達成できないという意識が働くようになります。ゼロベースでアプローチを考え直すというのが、「生産性の爆上げ」に込められた意味です。社内の生産性を爆上げし、お客さまの生産性も爆上げしたい。まずは自らが爆上げを実践し、そのためには、社内DXの推進や、業務の見直しがどれぐらい大変なのかということを体感しながら、その成果や課題解決策をお客さまに提供していきたいですね。
―― ちなみに、「爆上げ」とはどれぐらいの水準を指していますか。
前山 少なくとも3倍ですね(笑)。
―― 次のフェーズでは、どんなことに取り組みますか。
前山 社長就任からの1年間は、経営層と社員のマインドセットを変えることに重点的に取り組みますが、2年目以降は、それによって何が生まれるのかということを、具体的なアウトプットとして生み出していかなくてはなりません。挑戦し、スピードを上げ、生産性を爆上げする取り組みが、果たしてどういう成果になったのかといったことをきちんと形にしたいと思っています。
―― 前山社長が就任する半年前には、会長に元日本マイクロソフト社長の平野拓也氏が就きました。どんな役割分担をしていますか。
前山 経営チーム全体のメンターのような役割で、弥生の変化をサポートしてくれています。日本マイクロソフトでの社長退任後は、米Microsoftでグローバルサービスパートナービジネス担当バイスプレジデントを務め、ライセンスモデルからクラウドビジネスへとシフトする大きな変化を、最前線で経験してきました。
Microsoftは、ライセンスビジネスが圧倒的に強かった企業だけに、クラウドシフトの難しさは容易に想像できますし、それを乗り越えながら、成果を上げてきた実績があります。
今、弥生も同じ課題を持っています。お客さまがストレスを感じることなく、クラウドに移行していただくにはどうするか、そのためにはどんな点に注意しなくてはならないのか――。そこに、経験や知見を生かしてもらえると思っています。
日本のお客さまは完全にクラウドに移行するよりも、デスクトップ製品とクラウドサービスを選択できるようにしておくことが大切であり、日本マイクロソフトでもそれは同じだったと思っています。クラウドに限定するのではなく、デスクトップ製品も用意し、お客さまの業務の歯車を狂わせないことが、日本のお客さまには必要な提案だといえます。
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