CES 2024で見えた「空間コンピューティング」の潮流 Apple以外の動きにも注目:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
1月に米ラスベガスで開催された「CES 2024」では、AppleがApple Vision Proで打ち出した「空間コンピューティング」の萌芽(ほうが)が複数見受けられた。
空間コンピュータへとつながる「点」と「線」
「空間コンピュータ」というキーワードを掲げ、Apple1社だけが製品を出したところで、「他にライバルが参入しないようでは……」という意見もあるだろう。
この指摘には全くもって同感だが、Apple Vision Proの発売に際して書いたコラムでも触れた通り、Appleは簡単には真似ができないほどの大規模投資と、多方面からのアプローチで市場の立ち上げに挑もうとしている。彼らの取り組みがうまくいき、数年で空間コンピュータへの潮流がより明確になっていくとしたら、それはAppleが巨額を投じた“賭け”に勝ったということだ。
一方で、Appleのような「垂直統合された技術」で実現しているわけではないが、空間コンピュータ実現に向けた“ピース”は集まりつつある。
ソニーがCES 2024で展示した業務用のXRヘッドマウントディスプレイ(HMD)は、「ディスプレイ」と称しているものの、実態はAndroid OSベースで開発されたスタンドアロンでも動作するデバイスとなっている。搭載するマイクロOLED(有機EL)パネルは55PPD(※1)と、スペック的にはApple Vision Proと同一の高精細表示が可能だ。
(※1)PPD(Pixel Per Degree):視野角1度当たりのピクセル(画素)数
実際に試してみると、その鮮烈な解像感は肉眼で見る景色を超えている。「MRモード」(カメラを通じた実空間との重ね合わせ)のデモはまだ行えない状況とのことだったが、言い換えればこのクラスの視覚的リアリティーは、すでに量産可能な状況にあるということだ。
このソニー製HMDには、QualcommのXRデバイス用SoC「Snapdragon XR2+ Gen 2」が搭載されている。このチップはGoogleとSamsung Electronics(サムスン電子)が「次世代XRデバイス」でも採用することを表明している(参考リンク)。
Qualcommは、このチップに加えてスウェーデンのTobii(トビー)が開発した視線トラッキング技術を活用したMR/VRデバイスのレファレンスモデルも同時に発表している。恐らく、Apple Vision Proと同様のコンセプトで新しいユーザーインタフェース(UI)を提案することになるだろう。
SoCの話に戻るが、Snapdragon XR2+ Gen 2は、その名の通り“第2世代(Gen 2)”のSoCなのだが、GPUの能力は最大2.5倍に引き上げられている他、AIパフォーマンスが最大8倍向上している上、最大12個のカメラ/センサーからのストリーム信号を同時に受信/処理できるアーキテクチャとなっている。
ディスプレイも片眼当たり最大4.2K解像度をサポートしていることから、Apple Vision Pro並みのディスプレイ品質を実現できるだけの“基礎的要件”は満たしている。
ソニーの新型XR HMDはQualcommの「Snapdragon XR2+ Gen 2」を搭載する。このSoCはGoogleとSamsung Electronicsの次世代XRデバイスにも採用される
つまり、(彼らがどう呼ぶのかはさておき)次世代の空間コンピュータを構築できるだけのデバイスやハードウェアの要件はきっちりとそろっているし、そのハードルは明らかに下がっている。
あとはGoogleが、このプラットフォームに対してどこまでフレンドリーなソフトウェア、サービスプラットフォームを構築し、それぞれの点を線で結んでいくかという段階だ。
今後予定されている「WWDC 2024」において、AppleはApple Vision Proに搭載される「Vision OS」に関する新しい取り組みや年内のアップデート計画、それに本デバイスのグローバルでの販売計画について話すと予想される。
これに続く形で、Qualcomm、Samsung、Googleのトリオがリファレンス製品を見せれば、一気に「空間コンピュータ」への流れができるだろう。
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