シャープがEVを売りたい理由 CTOに聞く、“シャープらしさ”を取り戻すために今考えていること:SHARP Tech-Day(3/6 ページ)
シャープが、操業111周年を記念して2023年に行ったイベント「SHARP Tech-Day」が、装いも新たに2024年も開催される。本イベントの狙いやこれまでの取り組み、そして未来への挑戦を同社CTOの種谷元隆氏に聞いた。
独自AI技術「CE-LLM」を向上 EVコンセプトモデル「LDK+」も
―― 2024年のSHARP Tech-Dayでは、EV事業への参入が大きな話題となりそうです。「Next Innovation “EV”」のエリアを設置し、EVコンセプトモデル「LDK+」(エルディーケープラス)を展示することを発表しています。
種谷 当社は、数年後をめどにEVを発売します。そのときに、シャープブランドのクルマとして販売するのか、パートナーとの合弁会社を設置して別ブランドで販売するのかと出口はいろいろありますし、現時点では決まったものは何もありません。
冷蔵庫のブランドのクルマが街中を走ることが、果たして受け入れられるのかということも考えなくてはならないですし(笑)。ただEVは、もはや動く家電ともいえる存在になっていますし、家電の延長として捉えることができます。そこには、家電メーカーである当社が提供できる価値が存在するといえます。
例を挙げると、ソニーは車内空間でエンターテインメントを楽しむEVを提案していますが、当社のEVはそれとは異なり、もう1つの部屋として生活に根ざしたさまざまな空間に変えて、活用できる価値を提供することを目指します。
当社が着目したのは、EVは家の駐車場に止まっているときには価値を生み出していないという点です。EVは家とつながることが増え、ガソリン車ではできなかったような連携によって、多彩な用途が想定されますが、今はバッテリーを蓄電池として利用する程度の話であり、EVの車内空間は何も使われないままで、もったいないと感じていました。そこに、家電メーカーとして新たな提案ができると考えています。
「LDK+」は後部座席が後ろ向きに回転し、ドアが閉まると両サイドの窓に搭載した液晶シャッターが閉まり、プライベートな空間が生まれます。65V型のディスプレイを備えていますから、リモートワークのスペースとしても利用できたり、集中して仕事をしたり、子供部屋としても利用できます。
ガソリン車と違って、エンジンをかけずにエアコンを回してビールを飲みながら、大画面かつ大音量で誰にも邪魔されず、映画を楽しむといったことも可能です(笑)。また、大画面を通じて家の中にいる家族とのシームレスなコミュニケーションができるので、まるで隣の部屋にいるような状況も作れます。
LDK+という名称は、家の中かにあるL(リビング)/D(ダイニング)/K(キッチン)に加えて、柔軟に使うことができるもう一部屋を実現するという意味を込めています。
また、こんなこともヒントになりました。カーシェアやレンタカーの会社に話を聞くと、今は動かない利用が増えているそうです。営業担当者がEVを借りて、エアコンを効かせながらクルマを動かさずに会議をしたり、テレワークをしたりという用途で使っているというのです。会議の音が漏れずに、周囲に気兼ねなく発言ができるというクルマならではの特性を生した使い方です。まさに、仕事のための部屋がEVの中で実現されているわけです。
EVになればデータ連携も可能ですから、家庭内で使用している家電で蓄積したデータを元に、その人の好みの温度や、シーンに合わせた明かりを提案し、EVと車のどちらで映画を見た方が省エネであるかといったこともAIが提案してくれます。当社独自のAI技術であるCE-LLM(Communication Edge-LLM)やAIoT技術を活用して、住空間/人/エネルギーの3つをつなぎ、快適でサステナブルな空間を実現できるというわけです。
EVの世界の1つの可能性として、当社の強みを生かした提案がLDK+です。当社はブランド事業で、他社に真似される商品作りを目指していますが、EVの世界においても新たな価値を作り、提案するという姿勢を打ち出していきます。EVは当社が役に立てる領域であり、当社にとって、魅力的な市場だといえます。
なお、SHARP Tech-Dayの開催初日には、「EVのグローバル動向とシャープのEV取り組み方針」と題して、日産自動車の副COOやニデックの社長を務めた鴻海精密工業 EV事業CSOの関潤氏と、私が登壇して基調講演を行う予定です。
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