10年間“卒業”できなかったVAIOがノジマ傘下に入る理由(1/3 ページ)
VAIOがノジマに買収される――PC業界で大きな話題になっている。ソニーからスピンオフしたPCメーカーはなぜ、家電量販店のグループ企業になるのだろうか。その理由を解説していく。
既報の通り、「VAIO株式会社」の株主変更が発表された。
2014年2月、ソニー(現在のソニーグループ)はPC事業を会社分割した上で、投資会社である日本産業パートナーズ(JIP)に事業譲渡することを発表した。同年7月に本件譲渡が実行され、JIP傘下の独立起業として現在のVAIOが誕生した。
事業譲渡と新会社発足から10年4カ月――JIP傘下のVAIOを保有する持株会社と、JIP傘下のファンドが持つVAIOの株式をノジマが買い取ることになった。これにより、VAIOはノジマの子会社となる。
ノジマがVAIOを買うことになると、ビックカメラやヨドバシカメラといった他の量販店と競合するのではないか、という懸念の声もある。しかし、仮にそうだったとしても、実はその影響は小さいと筆者は考える。
この記事では、その理由を解説していく。
2014年にソニーから独立したVAIO
VAIOの前身となったのは、1996年に製品の販売を開始(厳密には復活)したソニーのPC事業だ。PC事業を復活させたソニーは、「VAIO(バイオ)」ブランドの下でPC製品を展開していくことになる。
ソニーはかつて、AppleやDell(現在のDell Technologies)などの米国メーカーのODM(Original Design Manufacturer)として、PCの設計から生産までを請け負っていた。その経験を生かして、新たなブランドの下でPC事業を改めて立ち上げたということになる。
VAIOブランドの立ち上げ後、ブランド名の由来ともなっている印象的な紫(バイオレット)カラーをまとった「VAIO 505」を始めとする薄型軽量ノートPCが話題を呼んだ。VAIO 505の他にも、ソニーは後世に語り継がれるような魅力的なPCを続々と登場させた。
魅力的なPCを続々と送り出す“ソニーのVAIO”は、日本だけでなく海外でも人気を集め、グローバルなPCブランドの1つになった。
しかし2010年代前半、ソニーのPCの世界における販売シェアは徐々に低下し、PC事業の利益率も下がっていった。そこでソニーは2014年2月、エレクトロニクス事業の“変革”の一環として自社でのPC事業運営を終了(収束)することを決定した。
それと同時に、ソニーはこのPC事業をJIPが設立する新会社に譲渡することも決めた。新会社は、ソニーと子会社のソニーイーエムシーエス(現在のソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ)が保有するPC事業にまつわる財産/人材を引き継ぐことになった。
その「新会社」が、現在のVAIOということになる。
冒頭で紹介したVAIO本社工場は、元々ソニーイーエムシーエスの「長野テック(事業所)」だった場所だ。長野テックはVAIOの国内生産を担う工場で、2010年にはソニーのPC事業本部も同所に引っ越してきた(このことが、独立後のVAIOにとってプラスに働いた)
ソニーは新会社(VAIO)の約5%の株式を保有する一方で、同社の直販チャンネル(現在の「ソニーストア」)においてVAIO製ノートPCを販売するという関係を維持した。しかし、株式の大半はJIP傘下の持株会社やファンドが保有することになり、新会社の経営はJIP主導で行われることになった。
なお、ソニーのPC事業のJIPへの売却価格は明らかにされていない。しかし、当時の状況や2014年度の通期決算における収束関連費用の状況を見る限り、売却というよりは文字通りの“譲渡”になった可能性が高い。つまり、ソニーが“損切り”のためにJIPに資産や人員ごと譲り渡した――これが当時のPC業界の認識だった。
ただし、繰り返しになるが実際の譲渡金額は公表されていない。当時の契約書でも出てこない限り、本当のところは分からない。
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