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コラム

10年間“卒業”できなかったVAIOがノジマ傘下に入る理由(3/3 ページ)

VAIOがノジマに買収される――PC業界で大きな話題になっている。ソニーからスピンオフしたPCメーカーはなぜ、家電量販店のグループ企業になるのだろうか。その理由を解説していく。

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ここ数年で急速なV字回復を実現し急成長したVAIO

 長年投資中フェーズにあったVAIOだが、ノジマが2025年1月に特定目的会社(SPC)を通して買収することになった。手法としては、ノジマのSPCがJIP傘下の持株会社(VJホールディングス3)を買収した上で、同SPCがJIP傘下のファンド(JIPキャピタル事業成長パラレル投資事業有限責任組合)が保有するVAIO株式も引き取ることで、合わせて約93%のVAIO株式を間接保有することになる。

 ノジマが取得にかける予定の費用は112億円で、内訳は株式譲渡にかかる分(持株会社の買収+株式譲受)が111億円、その他の費用(アドバイザリー費用など)が約1億円とされている。

 そうなると、次に浮かんでくる疑問として「ノジマ(あるいは今回は明らかになっていない他の売却候補)にとって、『10年卒業できなかったVAIO』のどこが魅力的だったのか?」という点が挙げられる。実は、買収に当たってノジマが公表した適時開示情報にそのヒントが隠されている。

 この適時開示情報には、VAIOの過去3年間における決算状況が記載されている。以下にまとめたのでよく見てみてほしい(同社の会計年度は6月1日〜翌年5月31日となっている)。

過去3年間
VAIOの過去3年間における決算状況(ノジマの適時開示情報から筆者作成:数字のみの表記の単位は「100万円」)

 これを見て分かる通り、2022年5月期は純利益が3億2900万円の赤字だったのが、2023年5月期には7億1900万円の黒字、2024年5月期には9億8500万円の黒字と急速にV字回復している。それに貢献しているのが、サービスを含めた総売上高を示す「売上収益」だ。2022年5月期から2期(2年間)で、実に約1.87倍に増えている。

 2023年6月〜2024年5月の2年間は、PC産業はよくいえば「停滞期」、悪くいえば「マイナス成長期」だった。JEITA(電子情報技術産業協会)が発表した2023年度(2023年4月〜2024年3月)のPC総出荷台数(※1)は668万2千台と、前年度比96.8%のマイナス成長となった。

(※1)JEITA加盟社のみの集計値(Apple Japanやデル・テクノロジーズなど、未加盟社のデータは含まれない)

 そういう市場環境の中で、VAIOはどうだったのだろうか。7月にVAIO設立10周年を迎えた際に、筆者が同社の林薫氏(取締役執行役員)にインタビュー取材で尋ねたところ、「直近の会計年度は、2期前と比較して売上高も台数も2倍になっている」と述べていた。これは、ノジマの適時開示情報に掲載された情報とほぼ合致している。

 つまり、こうした売上高の拡大は簡単にいうと本業であるPC事業で成功を収められた成果ということになる。市場がマイナス成長の中でも、VAIOは着実に成長している――そういうことだ。

「B2B特化」が奏功した急成長に「B2Cメイン」のノジマが目を付けた

 この急成長は、どのようにして遂げられたのだろうか。その鍵は、VAIOが近年法人向け(B2B)市場に力を入れていることがある。

 先述のインタビューの中で林氏は「VAIOのPC出荷台数のうち、(時期によって変動はあるものの)おおむね80〜85%が法人向けである」と説明した。つまり、現在のVAIOのPC事業の“主戦場”は法人向けなのだ。

 このこともあり、同社のPC開発体制は法人向けファーストが貫かれている。法人ユーザーが求める機能を実装してパッケージを構成した上で、それを個人向け製品にも展開する形になっている。

 最新モデルのVAIO SX14-R/VAIO Pro PK-Rを例に取ると、法人向けモデルであるVAIO Pro PK-Rがあくまでも“先”にあり、それを個人向けにリパッケージしてVAIO SX14-Rが生まれた――そういうことになる。

 法人向け優先であることの象徴が、両モデルに搭載されている「VAIOオンライン会話設定」というツールアプリだ。両モデルの3次元ビームフォーミングが可能なマイクを利用することで、より高度なノイズキャンセリングを実現している。

 こうした機能は、Microsoft TeamsやZoomで日々ビデオ会議しているビジネスパーソンにとって非常にありがたい機能で、VAIOオリジナルだ。

新色あり
新しいディープエメラルドカラーが特徴なVAIO SX14-R/VAIO Pro PK-R

 日本の個人向けPC市場というのは、世界的に見て非常に特殊だと言われている。「個人ユーザーがプライベートで買う」というよりも、「ビジネスパーソンが個人で(仕事で使う)PCを買う」というパターンが大半を占めているのだ。「ビジネス(法人)向けモデルを作れば、それを個人向けにも販売できる」と考えれば、VAIOの商品戦略は理にかなっている

 そうなると、冒頭に挙げた「他の量販店での取り扱い問題」の答えが見えてくる。

 VAIO PCの売り上げのうち、量販店で販売される分は多くの人が考えているよりも少ないと思われる。個人向けの「約15〜20%」の台数の多くはVAIOの直販サイトかソニーストア経由で販売されている状況だ。ゆえに、仮にノジマの競合量販店がVAIO製品の取り扱いをやめたとしても、それによる販売台数減は想像以上に軽微なものとなるだろう。

 もっとも、現実的に考えれば、量販店は「売れるなら製品を置き、売れないならば置かない」というだけである。店頭で売れるPCを作り続ける限り、VAIOのPCは扱い続けるだろうし、そうでなければ消えていくだけの話だ(ゆえに、VAIOは量販店のニーズにかなうような製品を今後も出し続ける必要はある)。

取扱店
VAIO PCは主要な家電量販店で取り扱いがある。ノジマ傘下に入った後にどうなるかは不透明だが、扱いの継続/有無どちらにしても、販売台数への影響は軽微となる可能性が高い

 その上で「VAIOの今」を見ると、ノジマがVAIOを買うことを決めた理由も見えてくる。ノジマの2024年3月期の決算資料を見ると一目瞭然だが、今のノジマグループは個人(B2C)向けビジネスが中心となっている。グループの総売上7613億円のうち、自社で手がける家電量販店事業が2678億円、子会社(ITX、コネクシオなど)を通して手がけるキャリアショップ事業が3465億円と、両事業だけで約80%に達している。

 近年、ノジマはISP事業を手がけるニフティを買ったり、キャリアショップ事業を手がけるコネクシオを買収したりと、大規模な買収戦略によって事業の多角化を進めている。しかし、買収した企業はいずれもB2C/B2B2Cがメインである。

ノジマのセグメント別
ノジマの2024年3月期の連結決算におけるセグメント別概況。自社で手がけるデジタル家電専門店(家電量販店)事業と、子会社が手がけるキャリアショップ事業だけで連結売上高の約80%を占める(決算資料より)

 B2C事業中心のノジマグループにとって、売上高の80〜85%が法人向けというVAIOは補完性の高い事業(会社)ということなる。既に構築されているVAIOの法人向け販売網を活用/拡充することもできるし、自社が持つ店舗を個人/法人双方のサポート拠点として活用することもできるだろう。VAIO側にとっても、ノジマグループのリソースを活用できるのはメリットがあるといえる。

 ノジマにしてみれば、法人向けに強みがあり、堅調ながらも成長を遂げている事業(会社)を112億円で入手できる。率直にいえば、同社の経営陣は“安い買い物”だったと考えているのではないだろうか。

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