「iPhone 16e」は“最もリーズナブル”な新時代へのステップだ! 実機を試して分かった従来モデルとの決定的な違い(5/5 ページ)
Appleから、次の時代――「Apple Intelligence」が当たり前となる際のベーシックモデルとなる「iPhone 16e」が発売された。実機を試して分かったことを林信行氏が整理した。
ベンチマーク評価とハードウェア性能
最後に、純粋にiPhone 16eのハードに興味がある人たちのために、もう少し深掘りした検証を行ってみよう。まずは、おなじみのGeekbenchを使ったテスト結果だが、今回はここのテストの内容についてもう少し踏み込んで分析してみたい。
iPhone 16eが搭載するプロセッサは、A18でiPhone 16と同じだ。このためCPU性能を比較するとiPhone 16もたいして差がない(A18 Proを搭載したiPhone 16 Proも性能向上は10%に満たない)。
一番性能差が出ているのは、GPU関連の処理だ。実はiPhone 16eが搭載するA18はGPUコアが4基だ。一方、iPhone 16は同じA18でも5基のGPUコアを備えている。このため、Geekbenchのトータルスコアで18%ほど処理が速く、背景ぼかしや粒子物理など一部のテストでは23%ほどの性能差が出ている。高解像度グラフィックスのゲームなどでは差が感じられるかもしれない差異だ(ちなみに、iPhone 16 Proは39%とさらに差がついている)。
ただ前モデルのiPhone 15との比較では、iPhone 16eの方がCPU性能で26%、GPU性能では52%ほど高速だ。やはり、将来性を考えても前モデルを買うくらいならiPhone 16eを買った方がいいとお勧めしたくなる。
続いてGPU性能の比較。iPhone 16シリーズか否かで大きな性能差がある。それに加えてiPhone 16シリーズの中でも、上位製品になればなるほど飛躍的な性能アップを見込める。高解像度グラフィックスを用いたゲームやビデオ編集アプリ、3Dアプリなどを使う場合に差が出てきそうだ
上位モデルと一番大きく性能差が出るのはGPU性能だ。Geekbenchで実際に行われているテストのそれぞれの項目のスコアにフォーカスした。情報量が多いので、意味が分かりやすいようにiPhone 16eのスコアを1として、他はそれに対する比率で表している。ぼかしやステレオマッチング、パーティクルの物理演算などでは、かなり大きな差が出た
では、Apple Intelligenceの処理で重要なNeural Engineの性能差はどうだろうか。
テストツールのGeekbenchには、Neural Engineを試す機能がないため、ここではGeekbench AIを使って検証を行った。するとiPhone 15とiPhone 16eでは、Neural Engineの性能にほとんど差がないという結果が出た。
さらに検証してみると、トータルのスコアでは性能に差が出なかったが、一部のテスト内容ではさらに差が出ていたことが分かった。Geekbench AIは何もApple Intelligenceの性能を検証するアプリではなく、一般的なAI的な処理にかかる時間をテストしているだけだ。
一方、A18のNeural EngineはApple Intelligenceに向けた最適化が行われている。
Neural Engine処理では数値をどう表現するかが鍵で、単精度(Single Precision/32bit浮動小数点表現)、半精度(Half Precision/16bit浮動小数点)、クォーター精度(Quarter Precision/8bit浮動小数点)といった表現方法がある(以下、SP/HP/QPと略す)。
Geekbench AIでは、この3つを同等に扱っているが、Apple IntelligenceではHPが最もバランスが良く、より高速な処理が求められる場合にはQPを使用し、SPはメモリやエネルギーの消費が大きいためあまり使っていない。
そこで改めてiPhone 15とiPhone 16eのHPとQPの性能を比較すると、それぞれ60%、87%高速になっていることが分かった。iPhone 16eが搭載するA18のNeural EngineはこのようにしてApple Intelligence最適化が計られているのだ。
Geekbench AIを使った性能比較。驚いたことに、iPhone 15と16eでほとんどスコアが変わらないという結果になった。しかし、これには理由があった。Geekbench AIが、iPhoneのAI処理ではほとんど使うことがないSingle Precision(単精度)と呼ばれる、データ容量が大きくなる数値表現の性能に重きを置いていたのだ。Apple Intelligenceは、単精度ではなく半精度やクオーター(4分の1)精度の数値表現を使って、処理の高速化や精度アップやエネルギー効率向上を追求している。つまり、Appleにとって大事なのは半精度(HP)とクオーター精度(QP)なのに、Geekbench AIの総合診断ではQPを無視してSP(単精度)とHPのスコアだけを換算したものになっていた
こちらは、Geekbench AIによるNeural Engineのテスト結果詳細。グラフを見やすくするためにiPhone 16eのスコアを1として比率で表した。10種類のテストを、それぞれSP/HP/QPの3種類の精度で比較している。細かく見てもらうと単精度のスコアは結果は乱高下してスコアにばらつきが大きいことが分かると思う。特に最後の「Machine Translation(機械翻訳)」の結果がはiPhone 16 Proがトップモデルとして圧倒的な性能を見せつけたものの、iPhone 16eはiPhone 15はおろか、iPhone SEにまで負ける結果となり、これが足を引っ張ってiPhone 15と同程度の総合スコアになった。一方、HPやQPのテストではiPhone SEや15の性能に大差で勝っているばかりか、テスト内容によっては上位モデルのiPhone 16や最上位モデルのiPhone 16 Proともほとんど変わらないスコアになっている
iPhone 16eは、iPhoneに詳しい人がプロセッサ性能以外で気になるのはMagSafeに対応していないことだろう。実は驚いたことにiPhone 16eはMagSafeによる位置合わせはできないものの磁石にはくっつくようで、MagSafe充電器の上に置いたら本体にくっついた。とはいえ、Qi充電なので、ここでちゃんと充電できるように本体と充電器の位置合わせを手探りでする必要がある。
Androidスマートフォンの中には位置合わせが難しいものがあるが、製品の重量バランスや物理形状が考えられているせいか、iPhone 16eは毎回ほぼ一発で位置合わせができている(もしかしたら、磁石でくっついていることも関係あるのかもしれない)。しかし、この辺りは主観的なので、実際に製品が出荷してからネットの評判を確認してほしい。
ちなみに、筆者はこの問題についてはさほど心配していない。というのも、既に多くのメーカーがMagSafe用の磁石を内蔵したiPhone 16e用のケースを発表しているからだ。最近ではAndroid系のスマートフォンでもMagSafe対応ケースが増えているが、こうしたケースを装着することでiPhone 16eでもMagSafeの快適さを味わえるはずだ。
といろいろ述べてきたが、本製品を買う人のほとんどは、そこまでのこだわりはないはず。そして彼らのニーズであれば、iPhone 16eには必要十分な機能が用意されている。価格まで含めたバランスで考えると、これがiPhoneの新しいベースラインということになる。
Appleがかなり熟考に熟考を重ねた仕様ではないかと、実機を検証してみて改めて感じた。
MagSafe補足情報
本記事の執筆後、iPhnoeケースメーカーの1つ、トリニティがiPhone 16e用のMagSafe付きケースのサンプルを送付してくれたのでこちらも検証してみた。iPhone用のMagSafe充電アダプターを近づけると、ピタッと充電できるスポットに吸い付いて充電を開始した。iPhone 16e本体にマグネットが入っていないため、磁石で吸着する充電スタンドだと滑り落ちてしまうのではないかと心配したが、とりあえず滑り落ちる様子はなさそうだ(ただし、他のMagSafe内蔵ケースでも同様の強さで吸着するかは保証できない)。
なお、同社以外にもMagSafe付きiPhone 16e対応ケースを出しているメーカーは少なくない。
超硬質なウルトラファインアクリル素材と、しなやかなTPU素材を使用したトリニティのハイブリッド構造ケース「Turtle SOILD+MagSafe」(2080円)と、本体正面に飛ぶ音圧を2.5倍にレベルアップする「サウンドホーン」という機能を追加した「LIGHT SHIELD Solid」(2480円)。いずれもMIL-STD-810という米軍規格の頑丈さを持つiPhone 16e対応ケース。試しにAnker製の充電スタンドに傾斜をつけてくっつけてみたところ何事もなく吸着し、ずれ落ちそうな気配もなかった
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