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テクノロジーはあなたの「道具」? あるいは「支配者」? Apple担当者と日本のアカデミアの議論から見えること(3/4 ページ)

普段、何気なく利用しているテクノロジーの数々。実は、その裏に巧妙にデザインされた「泳げないプール」が作られているという。

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呂佳叡氏:複雑なエコシステムと「ガラパゴス」日本の規制

プライバシー Apple 慶應義塾大学 シンポジウム ポリシー テクノロジー インターネット
弁護士の呂佳叡氏は「プライバシー保護については、事業部や広告部門から反対意見が出ることもあり、社内で対立が見られるのが現実です。ユーザーが知らないところで、データが使われやすい構造になっているのです」。実務家の視点から、企業内部の葛藤というリアルな課題を提示した

 情報通信法の実務家である呂氏は、まずスマートフォンを取り巻く環境の複雑性を指摘した。ユーザーの手元にある1台のスマホには、アプリ提供事業者、プラットフォーム事業者(Appleなど)、通信キャリア、端末製造事業者といった多様なプレイヤーが関わる「レイヤー構造」が存在する。この複雑さが、統一的な規律を困難にしている。

 その上で呂氏は、日本のプライバシー法制度がEUの一般データ保護規則(GDPR)などの国際標準から乖離(かいり)し、「ややガラパゴス規制的なものになってしまう」という危機感を表明した。この現状に対し、総務省が進める「スマートフォン プライバシー セキュリティ イニシアティブ」(SPSI)のようなガイドラインは、このギャップを埋めるための官民の努力の表れだとする。

 呂氏によれば、改定されたSPSIは「セキュリティ・バイ・デザイン」の考え方を導入し、「本人の同意を尊重する」ことや、複数のアプリを横断して個人を追跡する「クロスサイトトラッキング」時の同意取得を推奨するなど、いくつかの項目についてはAppleの実践を参考にして盛り込んだという。

 ただ、SPSIはあくまで推奨事項であり、法的強制力に限界があるという課題も残されている。

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総務省のガイドライン「SPSI」の全体構造を示した呂佳叡弁護士のスライド 。原稿で触れた論点に加え、「子ども・青少年保護」の項目では、未成年者のプロファイリングに基づくターゲティング広告をしないことなどが明記されており、社会的弱者への配慮が具体的に示されている

林秀弥氏:競争法はプライバシーを守れるか 信頼せざるを得ない現実

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林秀弥 教授は「事業者に対する信頼がなければ、全ては始まらないのではないでしょうか。個人情報違反に対する日本の制裁は弱すぎます」。ユーザーがプラットフォームを「信頼せざるを得ない」現状において、その信頼を裏切った際のペナルティの重要性を説いた

 経済法の専門家である林氏は、私たちユーザーが置かれた非対称的な立場を指摘する。あまりに巨大で複雑なデジタルプラットフォーム事業者(DPF)に対し、ユーザーはサービスに依存し、情報の非対称性も大きすぎるため、彼らを「信頼せざるを得ない」状況にあると分析する。

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林秀弥教授は、海外の状況としてEUのデジタル戦略を紹介した。EUがデジタル市場法(DMA)などを通じ、単なる「競争」だけでなく「開かれた民主的で持続可能な社会」を明確に目標としていることを示した 。これは日本の議論が、ともすれば技術や経済効率性に偏りがちなことに対し、より広い視野を持つ必要性を示唆している

 この「信頼」が裏切られた時のサンクション(制裁)が、日本では極めて弱い。林氏は、過去に個人情報保護法違反に対する課徴金導入の議論が「経済界の反対で潰された」事例を挙げ、現状を批判する。

 そして、これまで競争法が主に「価格」の健全な競争に焦点を当ててきたとし、その一方でプライバシー保護レベルを犠牲にしている側面があると指摘した。これは非価格面での消費者への不利益であり、市場支配力の乱用の一形態であると主張。

 企業の利益ばかりを優先させた「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(スマホ新法)のことだ。

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