「Appleは悪。Googleは開発者を理解している味方」というEpic GamesのスウィーニーCEOが歓迎する未来は本当にバラ色なのか(2/4 ページ)
いよいよ、スマホ新法が12月18日に全面施行される。それに先立ち、Epic GamesのCEOが日本で基調講演を行った。スマホ新法や代替アプリストアを巡る議論について、林信行さんがまとめた。
新法の目的と厳しい基準は両立するのか?
これまでのApp Storeは、唯一のアプリストアで「そこを通して流通されるアプリの品質が、iPhoneそのもののブランドにも繋がる」という動機があったからこそ、Appleも品質管理を行ってきた部分がある。
では、自由を求めて作られる代替アプリストアはどうだろか。
代替アプリストアはアプリ流通で利益を得るべく、つまり営利のために運用されている(もちろん、App Storeも同様だが)。ユーザーの安全性やiPhoneのブランド維持といったものとは無関係で、App Storeとはむしろ逆のモチベーションで審査を甘くして流通アプリが増えれば増えるほど利益も増えるという動機が働く仕組みになっている。
代替アプリストアの代表格ともいえる、「Epic Games Store」を営むEpic Gamesのティム・スウィーニーCEOも、Unrealのイベントの基調講演でも、その後のメディア説明会でも、スマホ新法による代替アプリストアが開発者にとっていかに大きなビジネスチャンスかを語ることはあった。
しかし、ユーザーの安心/安全について自発的に語る場面は結局のところ一度もなかった。
Apple以外の代替アプリストアが、セキュリティに取り組んでいないわけではない。Epic Games Storeでは、チャット機能の無効化や成人向けの言葉を非表示にする機能など子どもたちを有害行為から守る基本機能は用意している。ただし、これらはApp Storeで配布されたアプリの設定とは別に設定する必要がある
安全か? 自由か? で選べる時代の終わり
スマホソフトウェア競争促進法の名が示す通り、結局のところこの法律はスマホのアプリ市場で競争している企業の利益を考えて作られたものであって、マルウェアなどの被害に遭うITに詳しくない国民のことを配慮して作られたものではない。
そもそもEpic Gamesのゲームが、iPhoneで提供できないとして大ごとになった本件だが、スマホ以外に目を向けるとPlayStationでマリオブラザーズをプレイできないと文句を言う消費者もいなければ、ポルノ雑誌が書店のメインの雑誌コーナーに置かれないのは不公平だから、それを開放しろと文句を言うポルノ業者も、本屋に棚の開放を強要しようとする議論が行われたこともない。
本来はマリオブラザーズをプレイしたい人が任天堂のゲーム機を選ぶように、Epic Gamesのゲームやポルノアプリ、カジノアプリなどを利用したい人は、より自由度があるAndroidを選べば良い。それによってiPhoneの売り上げが下がったら下がったで、それが市場原理というものであり、Appleの自己責任という、ただそれだけの話だ。
しかし、iPhoneは大きな市場だからそこでビジネスをしたいという一部の開発者が政府に働きかけ、それを政府が飲んでAppleに指数関数的に上がるリスクを飲ませて市場開放を強要する法律が成立してしまい、12月18日には全面施行される。
使えるアプリは限られるが安全なプラットフォームを選ぶか、多種多様なアプリをインストールできる自由とリスクが共存するプラットフォームを選ぶかをこれまでは選択できていたが、これからは法律による「強制」で、選択肢は後者(リスクが共存するプラットフォーム)を受け入れざるを得なくなる。
残念ながら、今からこの状況が覆ることはないだろう。だから、我々は上に挙げた懸念事項を憂慮しながら、複数アプリストア時代を生きなければならない。もし、あなたが詐欺師やマルウェアの制作者でないのならば、今、我々がやるべきは、これからの約2週間の間に、この法律の具体案が、「ITが苦手」な人に被害がおよぶ確率が少しでも下がるよう、法律に特別条項などを加えてしっかりユーザー保護をしてくれるよう政府にプレッシャーをかけることくらいだろう。そうすることが日本でiPhoneの一部最新機能が使えなくなる事態を防ぐことにもなる。
スマホ新法を通すべく活動してきた政府や官僚の方々には、既に「シリコンバレーのビッグテック企業を打ち負かし、彼らの思い通りにはならない法律を通した」という輝かしい実績を作ることができたのだから、これから残された期間は「その上でユーザーの安全性についてもしっかりと検討を重ねて良い法律にした」という実績作りに奮闘していただきたい。
そういった検討が不十分で、2026年以降、この法律のせいでマルウェアや詐欺の犠牲者が出てくるような事態になった場合、メディアやこの法律を望んでいなかったiPhoneユーザーからは容赦ない批判があることは容易に想像が付くはずだ。
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