作品を邪魔しない“黒子”に徹するMRガイドとは? アルテピアッツァ美唄でカディンチェが示した「日本的DX」の形(3/3 ページ)
AR/MRを使った美術鑑賞はこれまでも数多くあったが、アルテピアッツァ美唄で行われた実証実験で一味異なる体験を得られたという。その内容を林信行さんがまとめた。
カディンチェが示した日本らしいデジタル展示ガイドのあり方
実績あるシステムとディレクターのタッグだったが、今回一番の挑戦はハードウェアのスペックだった。MiRZAは装着感において理想的だが、その圧倒的な軽さを実現するためにハードウェアの制約も多く、限られたメモリで映像情報を扱う裏側ではさまざまな工夫が必要だったようだ。特に、夕方になり室内が暗くなると画像認識精度が落ち、吹き出しの表示位置が不安定になる点には苦労が見られた。
とはいえ、こうしたスペックの問題は、今後のソフトウェアアップデートやハードウェアの世代交代で改善されていくだろう。それよりも、これだけ制約のあるハードウェアでもシステムが運用できたこと、そして「作品を主役にした新しい美術鑑賞」のビジョンを提示できたことの意義は大きい。
実証実験を体験した42歳の若き美唄市長も「ストレスなく、現実に目の前にある作品を邪魔されずに、そのままじっくり見ることができたのが、すごく良かった。彫刻って、どうしても自分と作品との距離の中だけで楽しむものだと思っていましたが、そこからさらに、その向こうに広がる世界が見えた気がした。同じモチーフが別の国ではどう展示されているのかとか、どんな思いで作られたのかといった背景を、端末を通して引き出せる。それによって、自分の鑑賞の“半径”が広がって、もっと大きな視点で作品を味わえるようになる。 そんな新しい体験だなと感じた」と語り、同システムの可能性に期待を膨らませていた。
2023年7月から美唄市長を務めている桜井恒さん(左)。これまで知らなかった作品の背景を最新システムを通して知ることができて喜んでいた。美唄市は豪雪地帯で、最近、ホワイトデータセンターと呼ばれる環境配慮型のデータセンターができたが、2024年からはサーバの熱で溶けた雪解け水で養殖する「雪うなぎ」を新しい名物にしようと奔走している注目の地域だ(写真:関建作)
今、DXの波はアート業界にも急速に広まりつつあるが、「テクノロジーのすごさを見せつける」ことが目的化している事例も少なくない。
そのような中で、カディンチェの「我を出さず、作品に寄り添うMR展示ガイド」は、ある意味で極めて日本的な美意識に基づくシステムであり、ハードウェアとの親和性が高まれば、日本のみならず世界のアートファンにも受け入れられていくのではないだろうか。
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