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コラム

ジョブズ氏の帰還からAI時代へ――Appleが描く「パーソナルAI」の未来は原点回帰なのかApple 50年史(後編)(1/5 ページ)

1996年末のスティーブ・ジョブズ氏の復帰を皮切りに、AppleはNeXTのオブジェクト指向技術を取り入れ、次世代OSへの抜本的な刷新を図った。Appleが歩んだ50年のイノベーションの軌跡と未来を考えてみた。

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 1996年末、スティーブ・ジョブズ氏はなぜAppleに戻ってきたのだろうか。

ジョブズ氏の復帰はAppleのオブジェクト指向移行のスタートライン

 この時期、MicrosoftがついにMacに迫る使い心地を実現したOS「Windows 95」を出荷したことで、Appleは勢いを失っていた。マウス操作で先行し、多くのクリエイターが愛用していたMacには当時、まだMacにしかないユニークでクリエイティブなアプリがたくさんあったが、それらが次々とWindowsへと移植されていた。ソフト開発者にとっても既に人気を確立したMacよりも、勢いよく増える新規顧客のWindowsユーザーの方が魅力的だった。

 当時、アメリカで年に2回、東京で1回、「MacWorld Expo」というMac関連製品の展示会が行われていた。一時は無料エリアの通路にまでブースがあふれる活気があったが、1996年頃には出展取りやめが増え、展示エリアがスカスカに空き始めていた。

Apple アップル 50周年 創立 スティーブ・ジョブズ AI VR AR Vision Pro
1997年1月のMacWorld Expo/San Franciscoで登壇したスティーブ・ジョブズ氏

 この頃、Appleをもう1つ悩ませていたのが、同社の未来がかかった「Copland」という開発コード名の次世代Mac OSが何年経っても完成しなかったことだ。同社はCoplandの後にはAIベースのOS「Gershwin」(ユーザーが次に何をするかを予見して動作する)が控えており、最終的にはTaligentが開発するPink(TalOS)というOSに移行する構想を語っていた。

 しかし、その第一歩で、21世紀のOSには不可欠とされていた安定した動作を支えるメモリ保護技術や、小さなプログラムをたくさん同時に動かす上で必須のプリエンプティブマルチタスク技術が完成せず、結局、Appleは自社開発を諦め、他社からこの技術を買ってくることにした。

 Microsoftも含めいくつか候補があったが、筆頭候補はかつてジョブズ氏をAppleから追い出すのに一役買ったと言われるジャン・ルイ・ガセー氏という元Apple重役が作った「BeOS」だった。一方で、当時のApple最高経営責任者(CEO)のギル・アメリオ氏は水面下でジョブズ氏が率いるNeXTとも面会をしていた。

 ジョブズ氏は1970年代にゼロックスで見て衝撃を受けたもう1つの技術、Smalltalkというソフトウェア環境が実現していた「オブジェクト指向」というソフトウェアのあり方こそが未来だと確信した。NeXTはそのオブジェクト指向を実践し、世界に広めるための会社であり、オブジェクト指向技術を実現するためにメモリ保護やプリエンプティブマルチタスクが必要だから、それを採用していた。

 BeOSはどちらかというと、ホビイスト向けOSだった。これに対してNeXTは高価だったが安定動作など品質の高さで信頼を獲得しており、信頼第一の銀行などの大企業で実績を積んでいた(また当時、簡単にWebアプリ開発ができるWebObjectsという画期的技術もリリースしてちょうど注目を集め始めていた)。

 NeXTが重視していたのは「オブジェクト指向」という技術を一般に広めることだ。

 実はジョブズ氏が不在の時代にAppleが求めていたOpenDoc、Taligent、Kaleidaなども、その本質はオブジェクト指向という技術の実現を目指していた。

 オブジェクト指向というのが何かを説明しようとすると長くなるが、ジョブズ氏がAppleに復帰して数週間後、1997年1月のMacWorld Expoで語った説明がオブジェクト指向であるNeXTの技術に移行するメリットを非常に分かりやすく伝えている。

 ジョブズ氏はOSを土台、アプリをその上に建て増すフロアとして、何階建てのアプリ(できることが多い優れたアプリ)を作れるかという比喩を使った。アプリは、OSの上の構造物だが、3階建て以上積み上げてしまうと負荷が大き過ぎて(複雑になり過ぎて)崩壊してしまうという前提だ。

Apple アップル 50周年 創立 スティーブ・ジョブズ AI VR AR Vision Pro
1997年1月のMacWorld Expoでスティーブ・ジョブズ氏が語るNeXT技術の強み(ジョブズ氏のスライドの再現)。DOSでは“3〜5階”の高さのアプリしか作れないが、ToolboxのあるMacなら“7〜8階”建てのアプリを作ることができた。しかし、Windows 95がそれに追いつき、基盤が優れたWindows NTには追い抜かれた。だが、Mach+OPENSTEPのNeXTの技術なら、それを超えられるという論だ。極めて感覚的な表現ながら、その後のiPhoneアプリの成功がこの戦略の正しさを物語っている

 「DOS(Windowsの前身のMS-DOSや、Apple IIが採用していたProDOS)は、土台として1階レベル、その上に複雑な構造物を積み上げようとしても作れるのはせいぜい4階建ての建物だ。これに対してMac OSはOSの格は1階建てだが、その上にToolboxがあった(今日で言うパソコンOS用APIの元祖のような存在)。このToolboxのおかげで、開発者は建物の5階から増築を始めることができた。そのためPageMakerなどのDOSでは提供できなかった複雑なアプリを提供できるようになった」

 しかし、1995年にライバルのMicrosoftもWindows 95を出し、条件はそろってしまう。

 しかも、MicrosoftはWindows NTというOSを出し、これは土台の部分のOSが次世代仕様で2〜3階建ての土台になっているので、今、Appleは危機的な状況にいるとジョブズ氏は語った。

 そこでNeXTの技術の登場となる。NeXTのOSは、MachというWindows NTに勝るとも劣らない基盤を持っており、その上に最も先進的なオブジェクト指向技術のOPENSTEPが乗っている。「このため、アプリ開発者は建物の20階からアプリを作り始めることができる」(ジョブズ氏)

 ジョブズ氏流の自画自賛も入った大げさな表現にも思えるが、その後、このOPENSTEPがMac OS XやiOSへと進化し、iPhoneのヒットをきっかけに世界中で多くの人が数週間の勉強でアプリ開発者になり、少なからぬ人が大成功を収めた事実が、ある程度、この説を実証しているようにも思える。

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