端末不況が直撃──“足もとの弱さ”が垣間見えたソフトバンクの2009年春モデル:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
ソフトバンクモバイルの2009年春モデルラインアップは、訴求力と牽引力に急ブレーキがかかった印象だ。今は将来につながるインフラの強化や、ソフトバンクらしいコンテンツ/サービス分野の育成に注力すべきだと考える。
今回の春モデルの発表会で、KDDIは「EZナビウォーク」の強化や「MYスライドビデオ」の投入、TransferJetの参考出展など、コンテンツ/サービス分野でも積極的な発表を行った。また、NTTドコモは昨年の冬モデル発表会で、将来に向けた新サービスとして「iコンシェル」や「iウィジェット」を発表。ほかにも「iアプリオンライン」や「地図トーク」「モバイルGoogleマップ ストリートビュー」などさまざまな新サービスを投入しており、春商戦に向けてこれらのコンテンツやサービスをしっかりと育てている。
もし、ソフトバンクモバイルがコンテンツ分野を強化したいならば、安易にコンテンツを囲い込むのではなく、新しいサービスや市場を育てるべきだ。同じ2億円以上のコストをかけるならモバイルウィジェット市場の育成と強化の資金にあてた方が、将来への投資としてよほど有意義だろう。自らの将来ビジョンに合わせてコンテンツ/サービス分野を地道に育てていかなければ、本当の意味での「データARPU向上」は難しい。既存ユーザーの満足度をあげて、解約率を低くすることもできないだろう。
今は“キャリアとして足もと”を固める時期
誤解を恐れず、あえてはっきり言おう。
多数のお笑い芸人が華やかに発表会を進行する中で、筆者が終始感じていたのが、その場の空々しさと、ソフトバンクモバイルの焦りだった。お笑い芸人の方々の仕事ぶりには敬意を表するが、率直に言って、これほど「寒い」内容の新製品発表は久しぶりだ。
端末販売市場は2007年度と比べて3割以上の落ち込みになる模様であり、さらにドコモの解約率が0.5パーセント以下という現況では、ソフトバンクモバイルを取りまく経営環境や、今年の先行きは厳しい。店頭競争力のあるモデルを多数取りそろえて、積極的に攻めの姿勢をとることが難しいのは確かだ。しかし、だからこそ安易な施策に走らず、今は「選択と集中」をして、将来につながるインフラの強化や、ソフトバンクらしいコンテンツ/サービス分野の育成に注力すべきだ。端末市場の縮退や販売モデルの信頼性低下で崩壊しかかっているビジネスモデルを再構築し、収益構造の改善も必要だろう。むろん、こうした取り組みには時間がかかる。しかし、一時的に快進撃の足が止まっても、持続的な成長を続けるための“仕切り直し”は価値のある行為だ。
ソフトバンクモバイルのフットワークのよさ、業界の慣習に縛られない自由な発想力とビジネス手法、一般消費者のニーズや次のトレンドを読み取る力などは、日本のモバイル産業を活性化していく上で必要だ。だからこそ、同社には次の10年の成長に向けて“キャリアとしての足もと”を固めてほしいと強く思う。
2009年はソフトバンクモバイルにとって厳しい1年になりそうだが、それをどのようにして乗り切り、市場の活性化とモバイル産業の発展に貢献するのか。孫正義社長の舵取りと、同社の取り組みに期待したい。
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