2008年冬モデルから読み解く、キャリアの携帯戦略――au編:神尾寿のMobile+Views
10月27日のauの発表会を皮切りに、携帯電話キャリア各社が相次いで冬モデルの発表を開始した。携帯市場が転換期を迎える中、各キャリアが“次世代ケータイ”のあり方をかいま見せる端末やサービスを投入しているが、その市場訴求力はどの程度なのか。まずはauのラインアップについて見ていこう。
携帯電話各社の“冬モデル”発表ラッシュが始まった。
まず先陣を切ったのは、KDDIのau。10月27日に冬商戦向けのモデルとして、新端末7モデルとデータ通信端末1機種を発表。すでに発表済みの「au BOX」と合わせてハイエンドモデルは“高品位な映像サービス”をセールスポイントに据える一方で、スタンダードモデルは「フルチェンケータイ re」の新色を軸にライフスタイル重視型モデルで編成されている。
一方、ソフトバンクモバイルは10月30日に冬商戦向けモデル12機種とデータ通信端末1機種を発表。ディズニー・モバイルの新機種などすでに発表済みのモデルと合わせて、計16モデルで冬商戦に臨む。同社はハイエンドモデルでタッチパネル操作を現す「Touch」コンセプトを訴求。スマートフォンのラインアップを増やしたほか、スタンダードモデルも数多くそろえて、バリエーション感のある布陣を敷いている。
ソフトバンクモバイルの秋冬モデル。上段左から930SC OMNIA、AQUOSケータイ FULLTOUCH 931SH、Touch Diamond X04HT、Touch Pro X05HT、Nokia E71、Nokia N82、下段左から930SH、830P、830CA、fanfun.2 830T、fanfun.petit 831T
ドコモも11月5日に新モデルを発表する予定で、すでにシリーズ構成の刷新と携帯向けエージェントサービスの導入、タッチパネルケータイの投入を明らかにしている。
各携帯キャリアが多彩なサービスや端末ラインアップを提案する中、今年の冬商戦の争点はどこになるのか。また、各キャリアの競争力や市場提案力はどの程度のものなのか。
今日のMobile+Viewsではまず、auの秋冬商戦ラインアップを分析する。
堅実なラインアップながら、市場提案力には疑問も
周知のとおり、今年に入ってから携帯電話の端末市場は冷え込んでいる。新販売モデルによる端末買い換えサイクルの長期化、純新規市場の減少、新たな利用スタイルの提案となる革新性の不在……。原因は複数あるが、かつてのようにケータイが売れず、一般消費者の関心が薄れてきているのは紛れもない事実だ。
そのような中でauは、今年の冬商戦において投入モデル数を減らし、堅実で手堅いラインアップを構築した。記者会見では「もう一度、auらしく」(KDDI コンシューマ事業統括部長の高橋誠氏)と強気の発言が続いたが、キャリアとしての姿勢は“縮小均衡”を強く意識したものだ。個々のモデルを見れば、カシオ計算機の「EXILIMケータイ W63CA」など魅力的で店頭訴求力の強い端末はある。しかし、今後のトレンドを読み取り、的確な端末とサービスの投入でその流れをリードする「市場提案力」では、auはいまだ競争力を回復していないと見る。
このことを顕著に感じるのが、KDDIが最近の訴求ポイントとして掲げる「映像コンテンツ」分野への取り組みである。
今期の新モデルでも、auはハイエンドモデルの柱を「映像美」とし、ワイドVGA相当の有機ELディスプレイを筆頭に、AV関連の機能を大幅に強化した。さらに各端末メーカーが個別に高画質技術の開発・実装をした結果、auの“高画質ケータイ”の完成度はとても高くなった。
しかしその一方、「映像コンテンツを楽しむ」ためのサービス提案では、auの努力は感じられるが、ユーザーの潜在ニーズを掘り起こし、新たな利用スタイルやトレンドを創り出すほどのパワーがない。KDDIの映像レンタルサービス「LISMO Video」は、ユーザーとして使うと「LISMO PORT」の使い勝手や操作性の悪さが目立つ。ユーザーの裾野を広げるために用意されたau BOXも、月額315円という利用料金の安さは高く評価するものの、機能や使い勝手、外観デザインに大きな不満が残る。さらに映像コンテンツの料金体系も、他の映像コンテンツ流通サービスと比べて割安とはいえず、新たな映像の楽しみ方を提案するには力不足になっている。
高橋氏は「映像サービスについては、期待をしている」と述べており、LISMO Videoは「権利保護を十分に行いながら、PCでも携帯でも映像を楽しめる唯一のサービスであり、この仕組みを構築しているのはKDDIだけ」と強調する。確かに携帯電話向け映像サービスに、将来的な市場の拡大が見込めるというのは正しい見方だろう。しかし、LISMO Videoは、「使いやすさ・利便性・コスト」のバランスにおいて、ケータイならではのメリットがユーザーに提案・提供できていない。結果として、せっかくのよい端末がサービスの魅力と合致せず、新たな市場提案に結びつかない。これはとても残念なことである。
また、“将来への布石”という点で見ると、auにコンシューマー向けスマートフォンのラインアップがないのが不安要因である。現時点のスマートフォン市場は未成熟で、ユーザー層の広がりもない。しかし、ドコモも含めて他キャリアがこの分野に積極的な先行投資をしている中、auのみが法人向けの「E30HT」を発表するのみで、「周回遅れ」といった感は否めない。
端末市場が縮退する中で、“選択と集中”によるラインアップの縮小均衡を図るのは確かに合理的だ。しかし、その一方で、将来に向けてこれまでのケータイとは異なる分野にも“種まき”をしておかなければ、市場の縮退と硬直に歯止めをかけることができないだろう。
今のKDDIは、かつての「auの成功体験」を忘れきれず、その拡大再生産を狙うような持続型の新端末・新サービスにしか手を出せずにいる。しかし、時代の転換期には過去の延長線だけでなく、非連続型な未来を模索することが必要だ。現在のauは、そういった非連続なイノベーションへの先行投資が足りないのではないか。それが将来への不安要因である。
「auらしさの変容」が、新たな提案を阻む
端末とサービスが中途半端で、画竜点睛を欠く。「新たな提案」が構造的にできない体質になりかけている――。これが不振期に入ってからの1年半、auに対して感じている筆者の印象だ。
ユーザーニーズの変化や市場動向に対する、KDDIの感度が鈍ったとは思わない。KDDI関係者と意見交換をするたびに感じるのだが、彼らの「市場を見る眼と、分析力」は、むしろ以前より鋭くなっているのではないかとさえ感じる。しかし、その一方で、彼らの言う「auらしさ」が変質し、auの端末・サービスを縛る鎖になっているように見える。
かつてユーザーが支持した「auらしさ」とは何か。
それは使いやすさを最優先に、新たな技術とサービスを絶妙な価格設定で提供するという「市場提案力」だと、筆者は思っている。そして、それは1つの定型的な「型」ではなく、ユーザーと向き合うときの端末・サービス・価格戦略のスタンスであり、「枠組み」のようなものでしかないはずだ。だが、いまKDDI幹部が「auらしさ」を語るとき、その言葉に過去の成功体験から逃れられない、復古的な響きを感じるのは筆者だけだろうか。
誤解を恐れずに言えば、個々の端末のクオリティやラインアップ構成、新サービスの傾向がいくら「成功期のau」に近づいても、それはauらしさの復活とはならないだろう。
KDDIが取り組むべきは、来るべきワイヤレスブロードバンド時代に向けたサービスや、スマートフォン分野、さまざまなデジタル機器/インフラとの連携など、ビジネス的に未明の領域において、多くの一般ユーザーに向けて「auらしい」市場提案をすることだ。
KCP+の安定化に伴い、端末の競争力改善は徐々に効果が現れ始めている。年末から来年の春商戦にかけて、端末販売市場や純増シェア競争におけるauの競争力は回復するだろう。だが、auが再び携帯電話市場のキャスティングボートを握るには、柔軟かつ大胆な市場提案力を取り戻す必要がある。
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