第21回 選挙のためにケータイができること:コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく
2009年・夏の衆院選は、いままで以上にネットで選挙が話題になっていたように思います。ITmediaにも“ネット選挙”がらみのニュースが多数掲載されていましたし。ですが、そこで語られるネットは多くの場合“PCの”ネット。選挙のためにケータイができることはないのでしょうか。
少々時期はずれな話を1つ。今年の夏は「選挙の夏」でしたよね。個人的には“ネット選挙”についてのニュースを、興味深く読む1ヵ月半でした。それがゆえに……というわけでもないでしょうけど、実際に候補者の方々が選挙活動をされている姿を見ると、もっと「ネットを活用できればいいのに」と思うことしばしば。
わが社のある地域は、現某大臣が立候補していた地域なわけですけども、その“スター候補”ですら「自転車に乗って頑張っています! ○○をよろしくお願いします!」と、ご近所をうろうろしては名前を連呼するという状態で、姿を見かけるたびに、なんだかかわいそうになることもしばしば(そういう戦術?)。
無駄を削減!と政治家のみなさんはよくおっしゃいますけれど、現在の選挙スタイルって、なかなかに時間の無駄が多いのではなかろうかとも思うのです。公職選挙法の改定が大前提ではありますけども、もっとネット、このコラム的にはもっとケータイを選挙に活用できないものか、考えてみたいと思います。
名前を聞いても握手をしてもよく分からないから「続きはウェブで」
なんでそんなことを思ったのかといえば、7月21日の衆議院解散から8月18日の公示を経て、8月30日の投票日にいたるまで、結局のところ自分は、まったく街頭演説に出くわすことなく、選挙の夏を過ごしてしまったからです。
いやいや、駅前に立つ候補者の方を見かけたり、移動中に街宣車を見かけたりというのは普通にありましたけど、「自分が居合わせたそのタイミングでは」というカッコ付きで言いますと、みなさんとくに演説をしていたわけではなかったのです。握手されたり、手を振っていたり、お決まりの「○○です!○○△△をよろしくお願いします」といった名前連呼をされていたりで、その場を見ても何をしたい人なのだかが、よくわからず……。
もちろん、そんなすれ違いざまにすべてを伝えられるわけも、理解できるわけもないというのは、候補者も有権者も分かっている話。「あとは、配った資料を見ておいてね」ということで、もらったビラに目を通したわけですが、なんだかとってもシンプルなことしか書かれていなかったり、有名政治家の方の「○○君なら大丈夫!」的な太鼓判メッセージが書かれているだけだったりで、結局はもの足りない気分になるばかり。
……で、結局、自分がどういう行動に出たかといえば、「続きはウェブで」だったわけです。
この夏はITmediaさんにもネット選挙にまつわるたくさんのニュースが掲載されており、そのなかに「衆院選の候補者情報、住所や地図から検索 Googleが新サービス」というものがありました。
この記事で紹介されている「Google 未来を選ぼう 衆院選2009」というサイトは、自分の住所を入れるだけで、該当する選挙区の立候補者たちについて、詳しく知ることができる……というか、知るための“窓”を提供してくれるものです。
なかでも個人的にとても参考になったのが、“回答動画”です。これは、グーグルによる別プロジェクト「未来のためのQ&A」で選りすぐられた「みんなが選んだ『5つの質問』」に、候補者自ら、もしくは政党が自らの声で回答している動画でして、年金・外交・子育てなどといった統一テーマに対する候補者の考え方を知り、比較できるものです。あくまで個人的な意見ですけども、これは握手やビラや名前連呼よりも、公平で分かりやすい選挙活動であり、ネットだからこそできたものだと感じました。
同様のことを、テレビでは代表・幹事長レベルの討論会で行っていますが、それだと比例代表選挙の参考にしかなりません。現在の選挙制度は小選挙区比例代表制なわけで、地元の候補者自身の声も、代表・幹事長さんの声と同様に、知りたいわけです。それを知るための手段として、Google 未来を選ぼう 衆院選2009はとても“便利”なものでした。
ちなみに、Google 未来を選ぼう 衆院選2009では、自宅の住所を入れることで、自分の投票所を検索できる仕組みもありまして、これまた大変“便利”。……というところで、はたと気づいたわけです。自分は現在の選挙に“不便さ”を感じていたのだなと。
「当選確実なう」というつぶやきに接する機会を増やすには
もちろん、インターネットには「Yahoo!みんなの政治」もありますし、Twitterを活用した「Follow選挙」というものも出てきましたし、「真贋見極められる」というお方ならば、2ちゃんねるや各種ブログで情報をあさってみるのもいいとは思います。しかし、そこにある情報の多くは、人の意見や他人の評価であって、候補者の言葉ではありません。
マスコミに多々登場するような“大先生”“スター候補”ならいざ知らず、そうではない、多くの候補者たちが「いま何を考えて、何をしようとしているのか」を知るのは、細かなストレートニュースや地方紙をいくら追いまくってみたところで、相当に難しいことだと思います。
一方で、「当選確実なう」とTwitterでつぶやいてしまう民主党・逢坂誠二議員のように、ブログやTwitterを活用して、自分の意見を自分のテキストで、リアルタイムに届けてくれる方々もいらっしゃいます。しかし、そうした動きはまだまだ少数。さらにいえば、現状ではそうした議員さんの発言に接することのできるITリテラシーを供えている人もまた、少数なのだと思います。
ならばどうすればいいのか。その1つは、Google 未来を選ぼう 衆院選2009のような仕組みに、多くの人が接することができる土壌を作ることではないでしょうか。それはつまり、PCのGoogleやYahoo!JAPANに入り口を用意するだけでなく、ケータイのポータルにも、そうした仕組みへの入り口を設けるということ。とってもシンプルな分、とっても難しい話なのであろうとは思いますが。
小選挙区だからこそ“不便”な選挙をケータイで“便利”に
こうした仕組み――、具体的には、候補者自身の動画・テキストをまとめて並べたり、投票所までの道順を案内したり、さらには有権者の声を集めて候補者に答えてもらったりといったことは、ケータイサイトでも技術的には可能なことです。付け加えれば、どれも公共の電波を利用するに十分値するものだとも思います。
例えば、選挙が公示されたら、投票日をスケジュール登録してくれるドコモのiコンシェル。ボタン1つで、現在地から投票所までEZナビウォークで案内してくれるauのau oneマイページ。現在地検索後に登録すると、自分の地域における候補者の動画をメールで送ってくれる、ソフトバンクの選べるかんたん動画……。
繰り返しになりますが、いまの選挙はとても“不便”だと思います。「便利な世界に慣らされすぎだ」「ITに頼りすぎだ」という向きもありましょうが、情報をすさまじいスピードで流通させているのが、2009年現在における社会の一側面です。もちろん、世の中はブロードバンド環境にある人だけではありませんが、少なくともそうした社会に慣れ親しんでいる人々にとっては、街頭演説・街宣車・ビラ配り(及びマスコミでの報道)という情報流通のさせ方は、効率的でないように感じられるわけです。
小選挙区比例代表制である現在、小選挙区の有権者においては、自分の地区の候補者がどのような人で何を考え、何を実現しようとしているのかを、十分に知る必要があります。となれば、当然のことながら知る仕組みを作る必要もありますし、その解決策を提供する技術は、どう考えたってインフォメーションテクノロジー(IT)しかないでしょう。
そして、ケータイ業界にいる自分としては、ケータイこそが小選挙区制度で情報を提供するツール・メディアとして、もっとも適しているのではないかとも思うのです。
ちょっと考えてみましょう。「その地区周辺のことを知りたい人に、特化した情報を提供する」というのは、パーソナルメディアと呼ばれるケータイが得意とする分野なのではないでしょうか?
もうちょっというと、公の場での政治談議を嫌う傾向にある日本においては、投票行動の参考情報とは「皆に隠れて知りたい情報」ともいえるのではないでしょうか。これまたケータイが得意とする分野だと思います。例えば、○○党のマニフェストを公の場で読むのは抵抗感があっても、ケータイの小さな画面でこっそり見ることはできる……ということです。
「ネット選挙 民主『全面解禁』、自民『サイトのみ、メールはダメ』」という記事にもあるとおり、基本的には民主党も自民党も、公職選挙法の改正には積極的。なので、政権の行方にかかわらず、今後、ネットにおける選挙の扱い方は変わっていくのだと思います。そこで言われている「ネット」のなかに、ケータイのインターネットもしっかり加わって、選挙がより便利になってほしい。そんなことを思った、2009年の夏でございました。
プロフィール:トミヤマリュウタ
ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立し、2008年に株式会社化。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。
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