無料の通話アプリは、通信キャリアの敵か味方か:Open Mobile Summit London 2012(2/2 ページ)
通信キャリアの独壇場だった通話、メッセージサービスに、サードパーティが参入し始めている。通信キャリアは、こうしたプレーヤーと手を組むべきなのか、それとも対抗すべきなのか。Open Mobile Summitで議論が交わされた。
新たなコミュニケーションフレームワークはキャリアの窮地を救えるか
通信キャリア側にも、OTTへの対抗ともいえる動きが始まっている。業界団体GSMA(GSM Association)が標準化を進めているRCS(Rich Communication Suite)が、それだ(または、Rich Communication Suite-enhancedの“RCSe”ともいわれる)。異なる通信キャリア間で、メッセージのやりとりやファイル転送、プレゼンスの確認などを行えるようにするコミュニケーションフレームワークで、これまでの通話やメールなどのサービスを、さらにリッチで高度なものに進化させるイメージだ。
RCSの重要性についてDTのドイチュマン氏は、「通信キャリアが手をこまねいていると、顧客がSkypeなどのOTTサービスを使い始めてしまう。われわれ(通信キャリア)も基本的なコミュニケーションサービスを提供しなければならない。顧客が通信キャリアに望むのは、今、利用しているサービスをもっと便利にするジョイントサービス。現在使っている通話サービスやSMSから他のサービスに移行することなく、リッチなコミュニケーションサービスが使えるようにしていく」と説明する。OTTプレーヤーが提供するサービスとの違いは相互運用性だけではない。「別途アプリケーションをオンにする必要なく、電源を入れればビデオ会議ができるような世界を目指す」という。
通信キャリアは、これまで長い時間をかけて標準化を進めてきたが、業界全体の動きは早く、OTTの登場で、さらに素早い動きを迫られている。モデレータのバブレー氏は、「通信キャリアは効果的に協業できるのか、タイムリーにソリューションを提供できるのか?」と疑問を呈した。
Rebtelのバーンストローム氏はRCSの構想には同意するが、標準化の作業に時間がかかりすぎると指摘する。「仕様の開発はきりがない。5、6年前までは、コンシューマー向けにどんなサービスを提供するかは、通信キャリア側が決めていたが、今やコンシューマーが“自分が使いたいサービス”を決定する“プル型”にシフトしている。サービスはコンシューマーが主導しており、通信キャリアが主導して策定していくのではない」(バーンストローム氏)。
この1年RCSに関わってきたというDTのドイチュマン氏は、「通信キャリアの協業という点ではよいタイミング。最後のチャンスかもしれない」と述べる。Orangeのゴロラ氏は「RCSの推進には、まず、協業が不可欠。次にRCSの立ち上げにあたってIMSなどの資産が必要になり、そのために時間がかかる。投資サイクルは各社異なるので足並みが揃うのは難しい」と述べ、「業界の動きは速い。われわれ通信キャリアも素早く動かなければならないことも認識している」と補足する。「これまでと同じペースで進めていては遅い。だが標準なしにはNFCのようなサービスは実現しない」(ゴロラ氏)。
通信キャリアの成長戦略について、バブレー氏がDTとOrangeに対し「Webコンテンツ分野に拡大していく可能性はあるのか」と尋ねると、両社とも検討していると答えた。Orangeはフランスの動画サービス「DailyMotion」に出資しており、DTはIPTVなどのメディア事業にチャンスがあると考えているようだ。DTは3月、クラウド戦略も発表し、法人顧客向けにクラウドを提供することも明らかにしている。
「通信サービスだけなのか、市場を拡大するのか――どちらかに決めるのは難しい」とドイチュマン氏。通信キャリアが成長を続けるためには、自社製品やサービスを見直し、早急に新たなビジネスモデルを確立する必要がありそうだ。
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