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auのiPhone 5は業務に強い――KDDI、法人市場の反転攻勢に自信

仕事でiPhoneを使う――。この市場を創出し、拡大してきたのはソフトバンクだが、2011年からiPhoneの販売を開始したKDDIも法人顧客の獲得に本腰を入れている。iPhone 5の投入で反転攻勢を目指すKDDIの強みはどこにあるのか。

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 日本市場には2つの「iPhone 5」が存在する。1つはau版、もう1つはソフトバンク版のiPhone 5だ。

 前モデルとなる「iPhone 4S」の発売当時、au版のiPhone 4Sはソフトバンクモバイル版のiPhone 4Sの機能をキャッチアップできておらず、苦戦を強いられた。KDDIはこれを教訓にiPhone 5の投入にあたって周到に準備を重ね、機能面でもネットワーク面でもソフトバンクモバイルを出し抜く格好となった。

 こうして生まれたau版iPhone 5は、業務用端末として使う場合に、どこが強みになるのか。KDDIが企業向けセミナーで、その強みをアピールした。

バッテリーの持ちがいい

Photo auのLTE版iPhoneは、3G版に比べて待ち受け時間が50時間伸びている

 業務でスマートフォンを使う場合、多くの企業が頭を悩ませるのがバッテリーの持ちの問題だ。いつでもどこでも予定やメールをチェックできるのがスマートフォンの便利なところだが、使い方によっては外出先でバッテリーが切れてしまうようなケースもある。フィーチャーフォンに比べて仕事上の依存度が高いこともあり、少しでもバッテリーの持ちがいい端末を選びたいというのが企業の本音だ。

 「au版のiPhone 5は、バッテリーの持ちをよくするよう作り込まれている」――。こう話すのは、KDDIで商品統括本部長兼プロダクト企画本部長を務める山本泰英氏。「端末の作り込みの時はもちろん、連携するソリューションの開発でも、バッテリーの持ちをよくするよう考慮している」(山本氏)という。

 通信が高速なため、バッテリー消費が増えると思われがちなLTE版のiPhone 5だが、au版は連続待受時間がiPhone 4S(3G版)の210時間から260時間へと伸びている(同社調べ。アンテナ3本の環境下での調査結果)。これを可能にしたのがLTEと3Gのデータ通信網を切り替える技術として採用しているeCSFB(高速CSフォールバック)技術だ。

 eCSFB技術には、大きく2つの特徴がある。1つは音声通話時の発信から着信までにかかる時間が、W-CDMA版のCSフォールバック(CSFB)技術を使ったLTEサービス(約8秒)の約半分(約4秒)で済む点だ。

 もう1つは、待受時の消費電力を節約できる点。従来のiPhone 4S(CDMA版)は、待受時に電話(1x)とデータ(EVDO)の2つの電波をチェックするためバッテリー消費が多くなりがちだったが、LTEエリア内ではLTEの電波だけをチェックするためバッテリーの消費を抑えられる。au版のiPhone 5は、端末をeCSFBに最適化した形で作り込んでおり、バッテリーの持ちも可能な限り長くしているという。

Photo eCSFBを採用したネットワークに端末を最適化させ、バッテリーの持ちをよくしている

最初からテザリングに対応、ネットワークもそれを前提に構築

Photo テザリングを利用することで、持ち歩くデバイスを減らし、通信コストも削減できる

 企業にとっては、モバイル端末の運用コストをいかにおさえるかが重要な課題であり、「テザリング対応のiPhone 5はこの課題の解決に貢献する」と山本氏は胸を張る。

 テザリングとは、スマートフォンをモデムとして使い、外出先でもPCやタブレット端末をインターネットに接続できるようにする機能。外出先でインターネットにアクセスするためには、データ通信カードやモバイルWi-Fiルーターを用意するのが一般的だが、テザリング対応のスマートフォンを持っていれば、こうした機器を持ち歩くことなしに外出先でさまざまな端末からインターネットを利用できるようになる。

 KDDIのスマートフォンでも、WiMAX対応の端末ではテザリングが可能だったが、「やはり、iPhoneで使いたいという声は根強かった」と山本氏。こうした声に、LTEによる高速通信が可能なiPhone 5で応えたことは、コンシューマー市場だけでなく、法人市場でも大きな注目を集めたという。

 iPhone 5のテザリング対応は、auが発表時の目玉機能としてアピールしたもので、発売日の9月21日から利用可能になった。これが大きな反響を呼び、当初対応を予定していなかったソフトバンクモバイルは、後追いで1月下旬から対応させると表明。その後、イー・アクセスの子会社化に踏み切り、サービス開始を12月中旬に早めさせるほどのインパクトをもたらした。

 KDDIは、LTE対応のiPhone 5については、当初からテザリングに対応させる方針で動いてきたといい、「ネットワークもそれを前提に開発してきたため、安定した形で使っていただけると思う」(山本氏)と自信を見せる。「(後追いのソフトバンクモバイルは)4カ月でどこまでネットワークを作れるかが勝負どころになる」(同)

 営業の現場でも、iPhone 5のテザリング対応は好評を博しているといい、iPhone 4Sの導入を検討していた企業がiPhone 5で検討し直すケースも増えているそうだ。「企業にとって、月に数千円の利用料がかかるデータ通信カードやモバイルWi-Fiルーターは導入のハードルが高い。月額525円で使えるiPhone 5のテザリングは、ここまでお金をかけずに必要なときだけ使うのにちょうどいい」(セミナーの説明員)

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テザリングの利用は別途申し込みが必要。最大5台まで接続できる。利用にあたっては「設定」で「インターネット共有」を選び、オンにすればいい

ネットワーク品質に自信

 エリア展開は、業務でスマートフォンを利用する上で最も重要なポイントだ。数々の便利な機能が業務に役立つのも、ネットワークがつながってこそ。通信キャリア各社は、よりつながりやすいネットワークを構築するために、日々、基地局の増設やネットワークのチューニングを行っている。

 au版のiPhone 5は、下り最大37.5Mbps(一部地域では75Mbps)のLTEと、下り最大9.2MbpsのWIN HIGH SPEEDを利用でき、LTEがつながらない場所ではWIN HIGH SPEEDにつながるようになっている。

 エリアについては、auのLTE全体で今年度末の人口カバー率96%を目指すとし、下りの速度は2013年中(2013年12月まで)には最大112.5Mbps、2013年度中(2014年3月まで)には150Mbpsに高速化する計画。LTE用の基地局は、既存の基地局に併設していくため、スムーズにエリアを広げられる見通しだ。「エリアは基地局の数で比べるものではなく、質や厚みを見るべき。真摯な態度でネットワーク構築に取り組んでいく」(山本氏)

 通信速度は基地局との距離や混雑具合によって異なるが、都内の主要なポイントでKDDIがLTEの速度を調査したところ、平均10〜17Mbpsの速度が出ていたという。テザリングで利用した場合にも、iPhone 5単体とさほど変わらない速度が出ており、業務でタブレットやPCを利用する際にもストレスなく使えそうだ。

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都内主要エリアの通信速度
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iPhone 5単体での通信速度とテザリングの速度を比較

 ネットワーク面のもう1つの特徴は、同社が展開する公衆無線LANサービスの「au Wi-Fi SPOT」が、5GHz帯にも対応している点だ。現在、公衆無線LANサービスで利用されている周波数帯は2.4GHz帯が主流だが、モバイルWi-Fiルーターの普及をきっかけにWi-Fi対応機器が急増していることから、場所によっては混雑して速度が落ちるケースもあるという。

 KDDIはau Wi-Fi SPOTを、まだ比較的空いている5GHz帯に対応させており、同社が提供するスマートフォンも多くが5GHz帯に対応済み。そのため、カフェや駅などでau Wi-Fi SPOTを利用する際には、干渉に影響されない環境でWi-Fi通信を利用できるという。

Photo 2.4GHzと5GHzの特性と速度の計測結果。場所によってはスループットが2倍になるケースもあるという

導入企業を支援するソリューション、サービスも続々

 いざ、スマートフォンを導入しようという時に重要なのが、業務で使うアプリや運用管理の手法の検討だ。導入時に課題を解決するための支援策が充実しているかどうかも、キャリア選びのポイントになる。

 山本氏によると、KDDIの法人部門の特徴の1つは、社内のシステムエンジニアが導入を支援する点だ。社内にKDDIのネットワークやサービス、ソリューションを熟知したSEを抱えており、企業の業態に合ったサービスやネットワークを提案。案件の増加に伴ってリモート支援の体制も整え、SEがタブレット端末のテレビ会議画面を通じて営業をサポートできるようにした。

 2つ目は、スマートフォンを内線電話として利用可能にするソリューションとして「KDDI ビジネスコールダイレクト」を提供している点で、グループ会社や関連会社も含めた内線ネットワークを構築できるのが特徴。auのiPhoneを導入した企業の採用例も多く、DeNA(iPhoneを600台予定)やサイバーエージェント(同1000台)、日本テクノ(同150台)、三井物産マシンテック(同80台)が利用しているという。また、iPhone 5については、佐藤総合計画と橋本総業も採用を決めている。

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グループ会社や関連会社も含めた内線ネットワークを構築できる「KDDI ビジネスコールダイレクト」

 3つ目は、運用管理のアウトソースを請け負っている点。導入時の端末の設定(キッティング)からMDMを利用した端末管理、メンテナンスの代行サービスを提供しており、「お客さんの管理者に成り代わって作業する」(山本氏)というサービスだ。端末管理は他キャリア端末が混在するケースにも対応。専任の管理・運用担当者を置く余裕がない企業にとっては、心強いサービスといえそうだ。

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手がかかる端末の運用や管理をKDDIが代行するサービスも

 さらに、iPhoneを業務で活用する際に役立つサービスを「ベーシックパック」としてパッケージで提供しているのも強みだという。ここで提供しているのは、予定やメールを管理できるグループウェア、業務資料をどこからでも閲覧できるようにするファイルサーバ、外出先から勤怠入力や交通費の精算を行えるアプリ、名刺管理サービスなど。全9種のサービスのうち6種を月額390円/IDで利用可能だ。

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iPhoneを業務で活用するのに役立つサービスをパッケージとして用意。月額390円で提供する

 iPhoneの法人市場は、これまで唯一の取り扱いキャリアであったソフトバンクモバイルが開拓し、ビジネスシーンにおける活用の幅を大きく広げてきた。しかし、2011年10月にはauもiPhoneの取り扱いを開始し、法人市場へのアプローチに本腰を入れている。両社は今後、コンシューマー市場だけでなく、法人市場でも激しい火花を散らすことになりそうだ。

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