トラフィック対策のWi-Fiオフロード、今後は“質の時代”に――KDDIの岩男氏:ワイヤレス・テクノロジー・パーク2012
スマホの急増に伴うトラフィック対策として注目を集めるWi-Fiオフロード。KDDIの岩男氏は、今後は“使いやすさ”や“つながりやすさ”が重視されるといい、それに向けた取り組みを説明した。5GHz帯対応も進めているという。
「2015年には、2010年に比べて25倍のトラフィックが発生する」――。こう話すのは、KDDI 技術開発本部の岩男恵氏だ。その要因となっているのはスマートフォン。スマートフォンの端末1台あたりの月間平均トラフィックは、3月の時点でフィーチャーフォンの20倍に達したという。
「スマートフォンを使っているユーザーは今、全体の20%程度だが、その20%が全体の8割のデータトラフィックを使っている」(同)
auは、500本ものアプリが月額390円で取り放題になる「スマートパス」や、固定網サービスと合わせて申し込むことでスマートフォンの月額利用料を割り引く「スマートバリュー」といった施策が好調で、スマートフォンへの移行が順調に推移している。今後、スマートフォンユーザーが増えれば、ネットワークへの負荷は急速に高まる。そこで同社は、トラフィックが3Gネットワークに集中しないよう他のネットワークに分散させるオフロード対策を急いでいる。
オフロード対策の1つとして通信キャリア各社が対策に力を入れているのが、Wi-Fiネットワークを通じたオフロードだ。岩男氏によればKDDIのWi-Fiオフロード対策は、場所や目的に最適化した手法を使うとともに、つながりやすさや使いやすさを考慮していると話す。
屋内と屋外でWi-Fiオフロード対策を使い分け
オフロード対策の実施に先立ち、KDDIが24時間のトラフィック分布を調査したところ、12時の昼休みと夜の23時にピークがあることが分かったという。トラフィックが発生する場所を推定すると「屋外のトラフィックは昼にピークが来て夜は少なくなる。夜は屋内のトラフィックがふくれあがって全体のピークを押し上げる」という状況だったことから、対策は屋内向けと屋外向けを使い分けている。
地域によってもトラフィックの動向は異なると岩男氏。例えば東京の場合、千代田区紀尾井町のようなビジネス街は昼のトラフィックは多いが夜は少なく、池袋は通勤通学ラッシュの朝夕と、繁華街に人が集まる夜にトラフィックが増える。こうした場所で、Wi-Fiのアクセスポイントを適切に配置し、屋内外を使い分けてうまくオフロードする必要があるというのが同氏の考えだ。
屋内向けには、自宅の固定回線に接続して使える無線LANアクセスポイント「HOME SPOT CUBE」を提供。ボタンを押すだけで設定できる使いやすさや、無料レンタルキャンペーンなどが好評を博し、配布数は75万台に達している。
「HOME SPOT CUBEをきちんと使えば、自宅で発生するデータトラフィック(23時台)の3分の2をWi-Fiにオフロードできる」(岩男氏)
屋外は、それぞれの3Gの基地局でどれくらいトラフィックが発生しているか、つながらないというクレームはどこで発生しているかなど、日々トラフィックの出方をチェックしながら、ユーザーにとって最も効率がいい場所にアクセスポイントを設置。3月末には10万スポットを突破した。
つながりやすさに工夫、混雑の少ない5GHz帯に対応
“つながりやすさ”を追求しているのも、KDDIのWi-Fiオフロード対策のポイントだ。
その1つが、5GHz帯への対応。現在、Wi-Fi機器は2.4GHz帯の電波を利用するのが主流となっているが、モバイルWi-Fiルータやスマートフォンなどといった対応機器の急増で、干渉によるスループットの低下が懸念されるという。
そのためKDDIでは、まだ対応機器が少なく、干渉も少ない5GHz帯への対応を進めている。同社のアクセスポイントは、HOME SPOT CUBEも含めて8〜9割が5GHz帯にも対応しており、スマートフォンも春モデルの2機種(「GALAXY SII WiMAX ISW11SC」「Motorola RAZR IS12M」)と夏モデルの5機種(「HTC J ISW13HT」「AQUOS PHONE SERIE ISW16SH」「ARROWS Z ISW13F」「AQUOS PHONE SL IS15SH」「URBANO PROGRESSO」)が5GHzに対応。「(2.4GHz帯の)だいたい倍くらいのスループットが出るのが、5GHz帯のパフォーマンス。Wi-Fiエリアの中でもストレスなくデータサービスを使える」(同)と、岩男氏は自信を見せた。
もう1つは、1台のアクセスポイントでより広いエリアをカバーする「ビームフォーミング技術」の採用だ。1台のアクセスポイントで、店舗などの広い場所全体をカバーするのは難しく、複数台のアクセスポイントを設置して対応するのが一般的だ。しかし、1台のアクセスポイントの中に複数のアンテナを仕込み、アンテナを効率的に利用することでエリアを広げるビームフォーミング技術を使えば、店舗の奥まった場所もカバーできるという。
“使ってもらえるWi-Fi”に向けた工夫も
せっかく用意したWi-Fiも、使われないのではオフロード対策にならない。KDDIでは、スマートフォンユーザーがWi-Fiを利用する上でハードルになっている要素の解消にも腐心している。
Wi-Fiから3Gへの切り替えを速くしたのも、そのためだ。Wi-Fiエリアから出ていくと、端末側で弱くなったWi-Fi電波をひきずってしまって3Gに切り替わらず、ネットワークのパフォーマンスが低下するケースがある。これを解消するため、auの夏モデルのスマートフォンには、Wi-Fiの電波があるレベルまで低下したら3Gに自動で切り替える仕組みを入れている。
また、Wi-Fiにアクセスするまでにかかっていた10秒くらいの時間を、無駄なプロトコルを省くことで約半分に短縮。Wi-Fiをオンにした状態での端末のバッテリー消費も、夏モデルは2011年秋冬モデルの約半分に抑えている。
Wi-Fiサービスといえば、スポットの数ばかりが競われる傾向にあるが、いくら数が多くても通信速度が遅かったり、接続に手間がかかったりするのではユーザーに使ってもらえない。使ってもらえないのではオフロード対策にもならず、投資も無駄になりかねない。
特に今後は、ITリテラシーが高くない人もスマートフォンを使うようになり、いかにWi-Fi接続のハードルを低くするかが重要になってくる。これからのWi-Fiサービスは、数だけでなく質が問われる時代になりそうだ。
関連記事
- “5年で25倍”のデータトラフィック、どうさばく?――KDDIの戦略を嶋谷氏が説明
スマホ移行で爆発的に増えているデータトラフィックをどう収容していくのかは通信キャリア共通の課題だ。KDDIの嶋谷吉治専務は、「Mobile IT Asia」で同社の戦略を紹介。宅内向けWi-Fiスポットの提供効果などを明かし、データオフロード対策に自信を見せた。 - 世界初のFeliCa&NFC対応スマホや国内初のクアッドコアスマホなど――KDDIがau夏モデルを発表
KDDIは2012年の夏モデルとして、auスマートフォン5機種とauケータイ3機種、Androidタブレット1機種を発表した。スマートフォンは全機種がAndroid 4.0を搭載し、FeliCa&NFCのマルチ対応モデルやクアッドコアスマホをラインアップする。 - モバイルトラフィック問題、端末メーカーやOS、アプリベンダーも解決に乗り出す
モバイルトラフィックの急増によるネットワークのトラブルは、今や世界的な問題となっている。解決策が求められる中、Ericssonは端末メーカーやOSベンダー、アプリ開発者も巻き込んで対応を進めているという。 - スマホのトラフィック、2017年には20倍に――過密するモバイル網を支えるEricssonの戦略は
2011年から2017年の間にモバイル網のデータトラフィックは15倍に、スマホのトラフィックは20倍に――。こう予測するのはモバイルインフラ大手のEricssonだ。高まる一方の負荷に負けないモバイルネットワークを構築するための戦略とは。 - スマホのWi-Fi接続、「切り替え時間半分、電池の持ちも改善」――KDDIの田中社長
無線ネットワークのオフロード対策として注目を集めるWi-Fi接続。KDDIは今夏をめどに、“切り替え時間がかかる、端末のバッテリーがもたない”という課題への対策を講じる。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.