スマホのトラフィック、2017年には20倍に――過密するモバイル網を支えるEricssonの戦略は
2011年から2017年の間にモバイル網のデータトラフィックは15倍に、スマホのトラフィックは20倍に――。こう予測するのはモバイルインフラ大手のEricssonだ。高まる一方の負荷に負けないモバイルネットワークを構築するための戦略とは。
2011年から2017年の間にデータトラフィックは15倍になる――。モバイルインフラ大手のEricsson(スウェーデン)は、6月に米国で開催したプレス向けイベントで、今後のモバイルトラフィックの伸びをこう予測する。世界的にスマートフォンやタブレットの普及が加速しており、今後はますますモバイルネットワークの高度化が重要になるという。
Ericssonが発表した最新のトラフィックレポート「Traffic and Market Report」によれば、モバイルサービスの契約数は2012年第1四半期に62億件に達したという。中国や発展途上国の新規加入数が増えており、2017年には契約数は90億件に達すると予測。同社CEOのハンス・ヴェストベリ(Hans Vestberg)氏は「1人で複数の契約を持つパターンが今後さらに増える」と説明する。今期については62億の契約数に対し、実際の加入者数は42億人程度とみている。
端末のトレンドについてはスマートフォンの普及が加速しているとし、2012年第1四半期には総出荷台数の35〜40%を占めるに至った。スマートフォンの累計出荷台数は7億台となり、Ericssonでは2012年中には10億台、2017年にはその4倍の40億台に達すると予測している。
トラフィックレポートの詳細を説明した戦略的マーケティング・インテリジェンス担当パトリック・サーウォル(Patrik Cerwall)氏は、スマートフォンの普及に伴い、トラフィックも急激に増加するとみている。国やプラットフォームによって異なるものの、2017年にはトラフィックが2011年の15倍に成長する(サーウォル氏)とし、スマートフォンに限定すると、2017年は2011年の20倍の成長が見込まれるという。なお同氏は、スマートフォンのトラフィックについては、端末の解像度や画面サイズ、ネットワークの性能と品質、定額データ料金プランの有無などがトラフィック増加の度合いを左右する要因になるという見方も示している。
こうしたトラフィックの増加に合わせて、ネットワークのカバーエリアも広がっており、Ericssonの最新レポートでは、2017年には人口の85%を3Gが、50%を4G(LTE)がカバーすると予想している。
快適なモバイル体験には“ネットワーク、アプリ、端末”の協力が重要に
スマートフォンはどんな目的で買われており、何に使われているのか――。EricssonはConsumerLabを通じて、こうしたユーザー動向も調べており、イベントでは40カ国10万人のサンプルによる「Smarter Mobile Broadband」と題したユーザー調査の結果を発表した。ConsumerLabは、エンドユーザーであるコンシューマーの意識を調べる目的で1995年に設立されたラボだ。
ConsumerLabを率いるセシリア・アッタウォル(Ceceilia Atterwall)氏は、スマートフォンを買う理由(多い順に「インターネットサーフィン」「電子メールなどのメッセージサービスの利用」「いつでもどこでも利用したい」「自分と関連性のあるアプリを使いたい」「スケジュール管理など生活管理の効率化」)や、朝起きてから夜寝るまでコンスタントにデータ通信を利用しているというスマートフォンの特性などといった調査結果を披露した。
ネットワーク関連では米国の調査から、さまざまなサービスを利用する先進ユーザーになればなるほど、ネットワークの品質や速度、カバーエリアを重視することが分かったという。また、アプリのレスポンスに対する要求も高くなっており、ネットワーク性能の中でもレイテンシー(遅延)の改善が重要だと指摘する。「ユーザーはアプリのレスポンスがよくないと、端末ではなくネットワークの責任にする。今後はネットワーク、アプリ、端末の各ベンダーが協力してスムーズな体験を作り出す必要がある」(アッタウォル氏)。
500億台のデバイスがネット接続する時代に向けた取り組みは
Ericssonは、2020年には500億台のデバイスがネットに接続する“ネットワーク社会”になると予測しており、それに耐えうるネットワークの仕組み作りを進めている。同社でCTOを務めるウルフ・エワルドソン(Ulf Ewaldsson)氏は、その一例として“ヘットネット”ことヘテロジニアスネットワークに向けた取り組みと新世代のIPソリューションを紹介した。ヘットネットとはマクロ基地局の中に小型基地局やWi-Fiなどの無線スポットが混在する環境で、協調してキャパシティを最大化するものだ。
ヘットネットの推進に向け、EricssonはWi-Fi技術をもつBelAirを買収しており、今後は同社の技術を製品に統合していく計画だ。IP系では、無線スポットにIP経由で接続する第4世代のIPソリューションとして、固定とモバイル向けのルーター機器「SSR(Smart Services Router)8000」ファミリーなどの開発に取り組んでいる。今後のフォーカス分野としては、高キャパシティの無線ネットワーク、高性能IPネットワーク、通信・メディアインフラ、柔軟性のあるネットワーク管理を挙げた。
CEOのヴェストベリ氏は、Ericssonのここ数カ月の事業面でのハイライトを紹介した。主力事業のモバイルネットワーク事業は、モバイルブロードバンドの高い需要に支えられ、シェアを32%から38%に拡大したことを報告。サポート面では、通信キャリア向けの運用管理システム(OSS)やビジネス支援システム(BSS)の強化を目指してTelcordiaを買収しており「この分野でトップとなった」と自信を見せる。今後はリアルタイムでのトラフィックのモニタリングや分析を可能にする製品の開発に取り組む計画だ。
ソニーへのSony Ericssonの持ち株売却については、「携帯電話は古くからの事業なので、感傷的な出来事」としながらも、「携帯電話はネットワークの延長ではなくなった。戦略的には正しい判断だと信じている」と述べた。
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