顧客流出を食い止めたい東京電力、スマートメーター導入計画を3年も前倒し:エネルギー管理
電力市場の変化がスピードを増してきた。2016年に迫った小売全面自由化を前に、新たな競争に向けた動きが活発だ。東京電力は2700万の顧客を囲い込むために、今後の電力ネットワークのかなめになるスマートメーターの設置を当初の計画から3年も早めて2020年に完了させることを決めた。
日本の電力市場には8000万の顧客がいて、3分の1にあたる2700万を東京電力が抱えている。そのうち99%は家庭を中心とする「低圧」の利用者で、いよいよ2016年には小売が全面的に自由化される見通しだ。
大きな市場を狙って他の電力会社などが進出の準備を進めるのに対抗して、東京電力は顧客流出を食い止めるための対策を急いでいる。その1つが電力ネットワークと顧客を結ぶスマートメーターの設置だ。これまで2700万の顧客すべてにスマートメーターの導入を完了する時期は10年後の2023年としてきたが(図1)、計画を3年も前倒しして2020年までに完了させることを決定した。
企業や家庭にスマートメーターを設置すると、さまざまな割引プランを盛り込んだ新メニューを提供できるほか、電力の利用状況を監視して高齢者の見守りサービスなどが可能になる。新規に参入する事業者よりも割安なメニューと便利なサービスを提供することで、自由化が始まっても顧客の流出を防ぐ狙いだ。
すでに東京電力は大規模なビルや工場向けの「特別高圧」と「高圧大口」ではスマートメーターの設置を完了したほか、小規模のビルなどを対象にした「高圧小口」も2016年までに全数の設置を完了する(図2)。残る家庭向けの「低圧」は2014年度の前半に一部の地域で試験導入を開始した後、年度の後半から管内の全地域を対象に既存のメーターと交換していく。
これと並行して、スマートメーターを活用した新しいメニューやサービスを小売全面自由化に先駆けて2015年7月から開始する予定だ。遠隔から自動検針が可能になるほか、電力使用量の見える化や使用量のデータを生かした新サービスを順次拡大していく。そのためにスマートメーターからのデータを集約・分析するためのMDMS(メーターデータ管理システム)を構築中である(図3)。
MDMSのデータは利用者だけではなく他の事業者にも提供する見込みだが、提供範囲などの詳細は決まっていない。いち早く顧客の設備にスマートメーターを導入してデータの収集を開始した事業者が有利なことは明らかだ。東京電力がスマートメーターの全数導入を急ぐ理由も、この点にあるとみて間違いない。
ところで顧客が東京電力から他の事業者に契約を切り替えたい場合に、スマートメーターをそのまま使い続けられるのか、それまでのデータは引き継がれるのか、など運用面で気になる点が数多く残っている。管轄する資源エネルギー庁が早急にガイドラインを策定して、電力会社以外の事業者と利用者の双方が不利益を被らないようにする必要がある。
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