2040年に化石燃料を代替する、「水素・燃料電池」の技術革新:水素エネルギーの期待と課題(1)(2/2 ページ)
自動車から電力まで化石燃料に依存する日本のエネルギーが大きな転換期を迎えている。新たなクリーンエネルギーとして水素の用途が広がり、CO2排出量の削減とエネルギー自給率の向上を一挙に実現できる可能性が高まってきた。製造〜貯蔵・輸送〜利用の各局面で国を挙げた取り組みが進む。
バスやフォークリフト、飛行機の燃料にも
現在のところ一般的な水素の用途は主に2つある。1つは燃料電池自動車で、トヨタ・ホンダ・日産自動車の大手メーカー3社が試作車を発表している。トヨタとホンダは2015年に市販車を投入する予定だ。さらに燃料電池を搭載したバスやフォークリフトの実用化も進んでいて、東京オリンピックを開催する2020年には主要都市や空港などで普通に見かけるようになるだろう。
もう1つの水素の用途は、家庭で広く使われている燃料電池の「エネファーム」である。2014年4月の時点で累計7万6000台のエネファームが全国の家庭に設置されている。政府はエネファームの設置台数を2020年に140万台まで、2030年には530万台まで拡大する目標を掲げて、補助金制度と技術開発支援の両面で後押しする方針だ。
燃料電池自動車もエネファームも大量に普及させるためにはコストダウンが不可欠になる。同時に水素の製造コストも低減させて用途を広げていく。飛行機や船でも水素を燃料に使えるようにする一方、火力や原子力に代わる「水素発電」が未来のエネルギー源として有望視されている(図3)。
日本エネルギー経済研究所の試算によると、2050年に水素・燃料電池の国内市場は8兆円に達する見込みだ。2020年代まではエネファームを中心とする定置用燃料電池が市場の半分以上を占めるが、2030年代には燃料電池自動車が拡大する。さらに2040年代に入ると水素発電や水素供給インフラの市場が伸びていく(図4)。
政府が掲げる水素・燃料電池戦略ロードマップの最終目標は、「二酸化炭素回収・貯蔵(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)」の技術と再生可能エネルギーを組み合わせて「CO2フリーの水素供給システム」を確立することにある。それまでに解決すべき技術的な課題は数多く残っている(図5)。
未来の電源として注目が集まる水素発電を見ても、実用レベルの技術開発はこれからだ。当面は火力発電に水素を加えた混焼発電から始めて、水素の混合比率と発電効率を高めながら、最終的に水素だけでも発電できる専焼発電につなげていく必要がある。
その一方で水素の製造方法には継続的な効率改善が求められる。燃料電池の耐久性や水素ステーションの安全対策にも課題がある。政府の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)がまとめた「水素エネルギー白書」をもとに、水素の製造から貯蔵・輸送、利用に至るまでの現状と課題を見ていく。
連載第2回:「CO2フリーのエネルギーに、水素を太陽光やバイオマスから作る」
連載第3回:「地球上で最も軽い水素、大量に輸送できる液化技術が進化」
連載第4回:「燃料電池が自動車からオフィスまで、2020年代には普及価格へ」
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