太陽光発電の余剰分を250台の蓄電池に、九州で2015年度内に稼働:電力供給サービス
九州では太陽光発電が拡大して、昼間の供給量が地域の需要を上回ってしまう可能性がある。そうした余剰分を大容量の蓄電池に充電して需給バランスを調整する試みが始まる。福岡県の火力発電所の構内に250台の蓄電池を導入して、最大5万kWの電力を充電できるようにする計画だ。
福岡県の東部にある九州電力の「豊前(ぶぜん)発電所」の構内に、世界で最大級の蓄電池システムを導入する(図1)。
充電・放電できる電力は最大5万kW(キロワット)まで、合計で30万kWh(キロワット時)の電力を貯蔵する能力がある。理論上は出力が50MW(メガワット=1000キロワット)の大規模なメガソーラーの電力を6時間以上にわたって充電できるようになる。
九州では太陽光発電の導入量が急速に増えたことから、ゴールデンウイークのように昼間の電力需要が小さくなる季節には太陽光発電の電力が余ってしまう事態が予想されている。こうした状況になると電力会社が一部の太陽光発電設備の出力を抑制することになるが、余剰電力を蓄電池に貯蔵できれば出力抑制を回避することも可能だ。
九州電力が豊前発電所に導入する蓄電池システムは、日本ガイシ製のNAS(ナトリウム硫黄)電池と三菱電機製のパワーコンディショナーで構成する。広さが1万4000平方メートルある敷地に、1台あたりの出力が200kWのNAS電池を合計で250台、800kWのパワーコンディショナーを63台の組み合わせで設置する計画だ(図2)。
豊前発電所は石油火力で最大100万kWの発電能力がある。地域の需給状況に合わせて火力発電の出力を調整しながら、余剰電力をパワーコンディショナーで交流から直流に変換して蓄電池に貯蔵する。夜間に太陽光発電の出力がなくなったら、貯蔵した電力を再び交流に変換して送電する仕組みだ。蓄電池システムの運転開始は2015年度内を予定している。
蓄電池システムに採用したNAS電池はナトリウムと硫黄が化学反応を起こすことで電流が発生して、充電と放電を繰り返すことができる(図3)。一般に蓄電池にはリチウムイオン電池を使うケースが多いが、NAS電池はコストを安く製造できるために大容量の蓄電池に向いている。ただし充電・放電の動作が遅く、太陽光や風力による短い周期の出力変動には対応しにくい欠点がある。
九州電力は2016年度まで実証運転を続けて、大容量の蓄電池システムによる余剰電力の調整効果を検証する。従来は揚水式の水力発電所が余剰電力の調整機能を果たしてきた。九州電力の管内では佐賀・熊本・宮崎の3県に揚水発電所がある。揚水式は大規模なダムを2カ所に造る必要があるため、新たな発電所の建設は難しい。今後は大容量の蓄電池システムを各地域に導入して、揚水式の役割を補完していく必要がある。
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