電力の自給率70%を突破、木質バイオマスで地産地消が加速する:エネルギー列島2015年版(16)長野(3/3 ページ)
2030年に再生可能エネルギーによる電力自給率100%を目指す長野県でバイオマス発電が活発だ。燃料の木質チップからガスを生成して、電力と熱の両方を供給するコージェネレーションの導入が相次いで始まった。全国でトップクラスの小水力発電に加えてバイオマスと太陽光で自給率を高める。
分散型の太陽光発電を屋根に展開
長野県は再生可能エネルギーによる電力の自給率が極めて高いレベルにある。すでに2013年度の時点で70%に達していて、2030年度には100%まで引き上げる目標を掲げている。従来の大規模な水力発電に加えて、小水力発電の導入量は全国でトップクラスである(図8)。さらにバイオマスと太陽光発電が県内の各地で拡大中だ。
太陽光発電で注目すべき取り組みが「おひさまBUN・SUNメガソーラープロジェクト」である。県が所有する施設の屋根を民間の事業者に貸与して、官民が連携して発電事業を推進しながら、事業ノウハウを公開して県内に普及させる。最初の対象になったのは「諏訪湖流域水道豊田終末処理場」で、下水を浄化して湖に放流する役割を果たす施設である。
地元の岡谷酸素が事業者に選ばれて2013年12月に発電を開始した。合計で2万平方メートルに及ぶ水処理施設の屋根に約5000枚の太陽光パネルを設置して、1MW(メガワット)の発電能力がある。しかも3つのメーカーの異なる方式の太陽光パネルを使い分けたうえで、一部は設置角度も変えて発電量を比較する(図9)。
このプロジェクトを通じて、長野県は屋根の貸付料として年間に490万円を得る契約を結んでいる。さらに市民参加型の再生可能エネルギー推進団体である「自然エネルギー信州ネット」に対して、岡谷酸素が発電事業の税引き後の利益のうち30%を還元する(図10)。還元額は20年間で3800万円を見込んでいる。
年間の発電量は120万kWhの想定で、売電収入は4800万円になる。20年間の累計では9億6000万円を見込んでいる。一方で発電設備の建設費に3億7600万円かかり、維持管理費は20年間で3億1100万円かかる見通しだ。
売電収入の還元を受ける自然エネルギー信州ネットが実際の発電量や売電収入をもとに、事業運営のノウハウをまとめてマニュアルを作成することになっている。こうした普及活動を通じて、県内に数多くある公共施設と民間施設の屋根の上に太陽光発電設備を展開する計画だ。太陽光・小水力・バイオマスの3種類を組み合わせて、分散型のエネルギー供給体制を拡大して電力の自給率を高めていく。
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2016年版(16)長野:「電力の8割を自給自足する先進県、小水力発電と木質バイオマスが活気づく」
2014年版(16)長野:「小水力発電で全国1位をキープ、農業用水路や砂防ダムでも水車を回す」
2013年版(16)長野:「止まらない小水力発電の勢い、2020年にエネルギー自給率77%へ」
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