再エネとコージェネで電力の自給率30%超に、「原子力に依存しない社会」を目指す:自然エネルギー(2/2 ページ)
滋賀県は「原発銀座」と呼ばれる福井県の若狭地域に隣接する状況を憂慮して、原子力に代わる再生可能エネルギーの導入を積極的に進めている。太陽光発電が計画以上に拡大したため、2030年の導入目標を1.5倍に引き上げる。同時にコージェネレーションも促進して電力の自給率を高めていく。
2033年に関西電力の原子力は全廃へ
滋賀県が「原子力に依存しない社会」の早期実現を目指すのは、放射能汚染のリスクを回避する目的のほかに、関西電力の供給力に対する不安が大きいことも理由の1つだ。現在は県内の電力消費量のうち9割近くを関西電力に依存している。
関西電力の原子力発電所は福井県の若狭(わかさ)地域に集中していて、滋賀県の北部は10〜20キロメートル圏内に入る。このため東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故が発生して以降、滋賀県を挙げて原子力発電所の再稼働に反対している。もし原子力発電所が規定通り運転開始から40年以上を経過した時点で廃止になると、2033年には関西電力の原子力による供給力はゼロになる見通しだ(図5)。
滋賀県民にとっては放射能汚染のリスクが低下するメリットがある半面、燃料費の安い原子力発電所が稼働しないと関西電力の電気料金が上昇する可能性もある。2016年4月には電力の小売全面自由化が始まって電気料金の自由競争が進むとはいえ、関西電力が供給する電力に依存する状況は当面のあいだ変わらない。少しでも多くの電力を滋賀県内で自給できる体制づくりが急務になる。
2013年から始めた再生可能エネルギー振興戦略プランでは、県の所有地や施設を利用した太陽光発電の拡大に力点を置いた。そのうちの1つが2015年11月1日に琵琶湖の人工島で運転を開始した「滋賀・矢橋帰帆島(やばせきはんとう)メガソーラー発電所」だ(図6)。発電能力は県内のメガソーラーで最大の8.5MW(8500kW)に達する。
滋賀県内では固定価格買取制度が始まった2012年度から非住宅用の太陽光(発電能力10kW以上)を中心に再生可能エネルギーが急速に拡大した。2012年度末の時点で買取制度の認定を受けた発電設備は19万kWだったが、2年後の2014年度末には4倍以上の81万kWに増えている(図7)。すべての発電設備が稼働すれば、原子力発電所1基分に匹敵する発電能力になる。
ただし太陽光発電は天候によって発電量が大きく変動するため、より安定した電力源の確保も重要な課題である。滋賀県では分散型の電力源として天然ガスを燃料に利用するコージェネレーションと水素を活用する燃料電池を普及させる方針だ。
コージェネレーションは電力と同時に温水を供給できることから、工場や病院などで導入が進んできた。滋賀県内の導入量は2014年度末の時点で約20万kWあるが、2030年度までに34万kWへ増やす(図8)。さらに家庭や事業所向けのコージェネレーションとして拡大が見込める燃料電池を加えて、合計で40万kWの電力を供給できるようにする。
2030年には再生可能エネルギーとコージェネレーションを合わせた分散型の電力源で県内の需要の31%をカバーする目標だ。これで東日本大震災の前に関西電力の原子力発電所が供給していた電力量と同程度になり、「原子力に依存しない社会」を構築することができる。
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