官民連携で広がる太陽光と小水力発電、原子力を代替する災害に強い電源:エネルギー列島2016年版(25)滋賀(4/4 ページ)
滋賀県では2030年までに再生可能エネルギーとコージェネレーションで電力の自給率を30%以上に高める構想を推進中だ。琵琶湖の周辺に太陽光発電と小水力発電を拡大して災害に強い社会を作り上げる。市民の出資による太陽光発電や、農業用水路に展開する小水力発電が続々と運転を開始した。
バイオマスの熱をマンゴーの栽培に生かす
滋賀県の再生可能エネルギーは太陽光と小水力に加えて、バイオマス発電の導入量も増えてきた。固定価格買取制度の認定を受けて運転を開始したバイオマス発電設備の規模は全国で27位に入っている(図11)。
琵琶湖の東側に広がる近江八幡市では、不燃ごみなどの廃棄物を処理する「近江八幡市環境エネルギーセンター」が2016年8月に運営を開始した。1日に76トンにのぼる廃棄物を焼却しながら、980kWの電力を供給できる(図12)。
発電した電力は施設内で消費したうえで、年間150万kWhの余剰分を売電する。さらに焼却熱を利用して温水を作り、隣接する公園に建設中の温水プールに供給する予定だ。プールを収容する棟には太陽光発電設備と蓄電池を設置して、災害時には避難所としても利用する。
バイオマスでは地元の製材会社がユニークな試みを始めた。2015年に滋賀県で初の木質バイオマス発電所を稼働させた山室木材工業が、工場から出る廃材を燃料に利用してマンゴーの栽培に取り組んでいる(図13)。
廃材をチップに加工して、木質バイオマスボイラーで燃やして温水を作る。その温水を木で組み上げた3棟の温室に送って、温風を供給しながらマンゴーを栽培する仕組みだ。木造の温室を製造・販売する事業と合わせて、農作物の生産・販売にも乗り出した。
温室を設置した長浜市の石田町は戦国時代の武将・石田三成の生誕地でもある。栽培したマンゴーは「みつなり」のブランド名で2016年7月に初出荷した。貴重な森林資源を無駄なく利用しながら、高付加価値の農作物を生産する新しい経済循環モデルに挑む。
滋賀県が打ち出したエネルギービジョンは原発に依存しない、災害に強くて環境負荷の少ない地域社会を目指している(図14)。同時に地域内の経済を循環させて、地方創生につなげる狙いもある。官民の連携で再生可能エネルギーが広がり、目指す社会の実現に一歩ずつ近づいてきた。
2015年版(25)滋賀:「太陽光だけで電力需要の8%に、災害に強い分散型の電源を増やす」
2014年版(25)滋賀:「琵琶湖の南にメガソーラー40カ所、市民共同発電の勢いも加速」
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