IoTが生む新しいエネルギーサービス、成功の鍵は――大阪ガスのキーマンに聞く:IT活用(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)を活用したエネルギーサービスとして、業界外からも注目されている大阪ガスの“クラウドにつながるガス機器”。サービスを開発したきっかけやその狙い、エネルギー業界のIoT活用のポイントや課題について、大阪ガスのキーマンに聞いた。
一般消費者向けIoTサービスへ展開するときに生じる課題
八木氏は、一般消費者向けにIoTサービスを開発・展開する上で、検討すべき大きな課題として、
- 消費者にどのように自社IoTサービスを受け入れてもらうか
- セキュリティとプライバシー保護の確保
の2点を挙げる。
1点目の「消費者にIoTサービスを受け入れてもらう」という観点について八木氏は、「『あったらちょっと便利かも?』という機能やサービスは、多くの一般消費者には“無くてもいいもの”と思われてしまう。そのため、企業がそうしたIoTサービスを提供するために、これまで家庭内になかったセンサーやデバイスなどを新たに導入してもらうというハードルは、非常に高いと考えている」と話す。
この課題を乗り越える方法として八木氏は、「古くから家庭に入り込んでいるものをインテリジェント化する」という手法を提案する。例えば米国では、既に家庭に広く浸透している電気式サーモスタットの置き換えで、IoTサーモスタットの「Nest」や「ecobee」といった製品がヒットしている。エネファーム・エコジョーズIoTサービスもこうした例に習い、既に家庭内で市民権を得ている給湯機の台所リモコンをIoT端末とすることで、サービスを生活に自然に溶け込ませることを狙ったという。
2点目のセキュリティやプライバシーの観点については、さまざまなIoTサービスで課題とされる点だ。大阪ガスでは、社内外で策定されている法規や指針に沿ってシステムを設計するだけでなく、「クラウドに保管するデータの取捨選択」と「クラウドサービスが終了した場合の対応」を開発のポイントに置いたという。最終的にクラウドに保存するサービスは必要最小限とし、クラウド上のデータもオンプレミスにバックアップを取る仕様とした。さらに、外部ベンダーによるWebアプリ脆弱性診断の活用や、機器側のセキュリティ対策を何重にも施したという。
八木氏は、今回のIoTサービス開発において最も困難だったこととして、関係者を束ねてコンセンサスを得ることを挙げた。同社が開発したシステムの場合、ガス機器を開発するメーカー、IoTデバイスを開発するメーカー、クラウドサービスを開発するシステムインテグレーターといった社外関係各社に加えて、社内のメンテナンス担当部署や営業など、数多くの関係者との調整が必要だった。開発途中で問題が発生した場合は、関係者で膝を突き合わせて議論を交わすというボトムアップ型のコミュニケーションで解決を図ったという。
また八木氏は、「IoTサービスの普及において、ガスや電気という生活インフラを扱うエネルギー業は、“そもそも既に家庭に入り込めていること”が強み。既にあるエネルギー機器をインテリジェント化すれば、さまざまなことが可能になる」と話す。その一方で「IoTはあくまで手段であり、その前提には現場で解決したい課題や新規サービスの創出がある。IoTで技術的に実現可能なサービスレベルと、現場や顧客が求めるサービスレベルに不整合を出さないよう、IoTサービス開発は関係者が一気通貫で目的を共有して取り組むことが重要」と語った。
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