日本の再エネ目標は現行制度で達成できるのか――FIT/FIP制度の在り方を考える:ソーラーシェアリング入門(41)(2/2 ページ)
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)について解説する本連載。今回は日本における再生可能エネルギーの導入拡大を進める上で、現在のFIT/FIP制度が抱える課題と、今後のエネルギー政策の在り方について考察します。
技術革新を夢見るのではなく、現実的な選択肢の検討を
FIT制度によって導入されている太陽光発電は、2020年9月末時点で約5300万kWです。よって、少なくともあと約1億4700万kWを10年程度で導入する道筋をつけなければ、非化石電源比率44%を再生可能エネルギーのみで達成することはできません。しかし、FIT価格の下落などに起因する太陽光発電市場の冷え込みは、今後さらに深まると予想しています。
残念ながら、単年度の太陽光発電設備の導入量は2014年度をピークに下降線をたどっており、2017年度以降は住宅用と事業用をあわせても年間500〜600万kW程度にとどまります。単純計算でも、現在の単年度導入量を迅速に3倍に引き上げ、それを10年間継続させねばならないわけですが、FIT制度による“太陽光発電バブル”と言われた2014年度ですら1000万kWに届いていないことから、かつての高単価FITの時を超えるようなインパクトのある、市場への刺激策が必要です。それを踏まえれば、残念ながら現在のFIT制度見直しや、FIP制度の設計で議論されている内容では全く不足と言わざるを得ません。
太陽光発電の設置場所や事業モデル構築も喫緊の課題に
また、現状の3倍に達する追加的な太陽光発電設備をどこに設置していくかということも、検討すべき課題です。もちろん、農地はソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の活用によって十分な再生可能エネルギーの導入ポテンシャルを有していますが、国内の導入状況を振り返ると、設計の不備によって自然災害による被害を受けたり、発電事業を優先して、農業を顧みない事業が目立つようになったりしているのも事実です。
これは、ソーラーシェアリングが個々の事業者による取り組みのボトムアップによって普及してきたことで、農業と調和した設計やソーラーシェアリング設備を活用した農業生産に関する体系的な研究が不足していることが要因の一つです。既に、この分野の研究では日本が世界から遅れを取りつつあり、迅速な研究への着手と汎用化できる設備・農業・事業モデルの構築が不可欠ですが、それがない中で性急な規制緩和だけを進めれば、かつての野立ての太陽光発電のように野放図な開発による無法状態を生じさせ、その解消に地域社会が多大な労力を投じる結果を招くことになりかねません。
2012年7月に現在のFIT制度が始まってから、既に8年半が経過しました。この時間を振り返れば、2030年に向けた次の10年もあっという間に過ぎ去ってしまうことでしょう。もはや、現実を直視せずに机上の空論を積み重ねていく時間は終わりにして、1年1年の積み重ねによって再生可能エネルギーの更なる導入拡大を図っていくため、現実的な政策を議論し実行するべき時が訪れています。
関連記事
- 2021年度のFIT価格が決まる、太陽光の入札は上限価格を公表へ
経済産業省は2020年1月に調達価格等算定委員会を開催し、2021年度における再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)の買取価格案を公表。太陽光発電に関しては、入札制度における上限価格を公表する形式に変更するなどの制度変更が行われる。 - パナソニックが太陽電池生産から撤退、国内外でのパネル販売は継続
パナソニックが太陽電池生産から撤退すると発表。マレーシア工場および島根工場における住宅・産業向けすべての太陽電池モジュールの生産を2021年度中に終了する。 - 日本の再エネ比率を2050年に「5〜6割」へ、経産省が参考値を提示
経済産業省が2020年12月21日に開催した有識者会議で、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、日本の2050年における発電電力量の約5〜6割を再生可能エネルギーとする参考値を提示。原子力発電も一定規模活用する方針で、2050年の脱炭素化の達成に向け、今後複数のシナリオを検討する方針だ。 - 電力価格高騰で新電力56社が経産省に要望、「想定外利得の還元と情報公開を」
年末年始から続く電力市場価格の高騰を受け、新電力56社が経産省に要望書を提出。電力市場価格を形成している情報のさらなる公開と、高騰期間に一般送配電事業者がインバランスなどで想定外に得た利得を小売電気事業者と国民に還元することの2点を求めている。 - 菅首相が所信表明、日本の温暖化ガス排出を「2050年に実質ゼロに」
菅義偉首相が所信表明演説を行い、温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を宣言。「エネルギー基本計画」の見直しに大きな影響を与えそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.