脱炭素のカギとなる「水素・アンモニア」、需要と投資の拡大に向けた方策とは?:エネルギー管理(4/4 ページ)
新たなエネルギーとして期待されている水素・アンモニア。社会実装に向けては需要の拡大と初期投資の整備が欠かせないが、今度政府ではどのような政策を進めるのか? 2022年4月に開催された「水素政策小員会・アンモニア等脱炭素燃料政策小員会 第2回合同会議」の内容を紹介する。
海外水素の輸入とサプライチェーンの構築に向けて
水素は−253℃以下に冷却すると体積は約800分の1となるため、液化水素やメチルシクロヘキサン(MCH)等にキャリア変換することにより、海外からの大規模・長距離輸送も容易となる。
海外において水素の新たなサプライチェーンを構築するためには、1プロジェクト当たり数千億円規模の投資が必要となる。
ENEOSの試算によると、海外からグリーン水素をMCHとして輸入する場合、年間4万トン規模の実証で投資総額1,300億円程度、年間30万トンの商用規模で4400億円を要すると推計されている。
また、年間23万トンのブルー水素を製造・輸入する日豪褐炭水素プロジェクトでは、総事業コストは2兆2500億円(初期投資:9000億円、運営費:450億円/年、プロジェクト年数:30年)と試算されている。
水素サプライチェーンの構築は投資総額が巨額であるだけでなく、製造・輸入した水素に対する需要(量と価格)の不確実性が大きいため、民間企業だけで投資リスクを背負うことは困難と考えられる。
このため、長期契約等で販売価格や量を安定化させ、民間事業者に大規模投資を促す政策的支援措置が必要とされている。
投資リスク低減のための支援策を推進
国は事業者に投資を促すため、既存の仕組みとしてグリーンイノベーション基金を活用し、大規模な水素サプライチェーンの構築およびコスト低減に向けた技術開発を支援している(国費負担額:上限3000億円)。
またJOGMEC法改正案では、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の機能に新たに国内/海外での水素・アンモニアの製造・貯蔵等への出資や債務保証を追加することにより、事業者が大規模なプラント投資等をする際のリスクの低減を目指している。
政府はさらに、海外の先行事例を参考に、新たな支援スキームを検討中である。例えば英国では、基準価格と参照価格(水素販売価格等)との差額を長期で補填するスキーム(Contract for Difference)を2023年から導入予定である。これは参照価格が基準価格を上回る際には、事業者が払い戻す仕組みである。
またドイツでは、基準価格で10年間、全量を取引仲介会社が購入することにより、水素供給事業者の価格リスクおよび量的リスクを低減する仕組みを2022年から開始する。
国内のインフラ整備が不可欠、ハード・ソフト両面での支援を
水素・アンモニア事業の立ち上げ当初には、大規模発電所や産業コンビナートなどによる安定的な需要の確保が重要となる。
国産の水素もしくは海外からの輸入水素いずれであっても、水素・アンモニアの大規模需要を創出し、サプライチェーンを効率的に構築するためには、インフラの整備が不可欠となる。
典型的には、タンクやパイプライン、船舶等の設備が想定される。しかしながら、水素キャリアは化石燃料と比べて単位あたり熱量が小さいため、同じ熱量の確保に要するインフラ規模は重油と比べ、液化水素で4〜5倍、MCHで7倍、アンモニアで3倍程度の容量が必要となる。
このため、従来以上に効率的な設備形成や運用が必要となるため、国にはハード面での支援だけでなく、インフラ利用のルール整備等のソフト面での支援が求められる。
また、水素・アンモニアが次世代の主力エネルギーの1つとして広く社会に認知・受け入れられるためには、S+3Eの原則どおり、まずはSafety、適切な安全規制やその広報活動が不可欠と考えられる。
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