撤退が続く電力小売事業、今後は財務・リスクの定期報告などを義務付けへ:電力供給サービス(5/5 ページ)
電力自由化がスタートし、700社を超える事業者が参入した電力小売事業。しかし市場環境の悪化などにより、最近では撤退の動きも目立っている。こうした状況に対し、経産省では需要家保護や社会的負担抑制の観点から、電力小売事業の認可などに関する制度変更の検討を開始した。
インバランス料金・託送料金の大規模な未払いを防止へ
小売電気事業者が不足インバランスを発生させた際には、そのインバランス料金を一般送配電事業者に支払わなければならない。
しかしながら、インバランスの発生からインバランス料金の支払期限の到来まで3カ月程度のタイムラグがあるため、小売電気事業者の経営が悪化し、事業撤退や倒産する前には、インバランス料金や託送料金の未払いが積み上がることが散見される。
2020年4月から2022年4月までの2年間の全国の未納額合計は約450億円に上り、この大半はインバランス料金であり、特定の1社の小売電気事業者による未納額がその大半を占めていることが報告されている。
現行の託送供給等約款においては、未収リスク抑制の観点から、「1.料金の支払い延滞」「2.新たな供給開始」「3.契約電力等の増加」の場合に、一般送配電事業者は必要に応じて、小売電気事業者に対して保証金を求めることができると規定されている。しかしながら、インバランスが大幅に増加していることを理由に保証金を求めることは明示されていない。
このため今後は約款を改定し、インバランス料金の未収リスクに備えた保証金を求めることができる旨を明記する。
その約款の運用に当たっては、
- 小売事業者の自社調達率が急激に低下するなどにより、不足インバランス量が急増する
- 不足インバランス量が大規模である
- 一般送配電事業者によるインバランスの改善要求に小売電気事業者が応じない
場合に、一般送配電事業者の判断で必要に応じて保証金を求めることとする。
保証金については、現行約款では「予想月額料金の3カ月分に相当する金額をこえない範囲」と規定されているが、小売事業者に過大な負担とならないよう、一般送配電事業者において設定される。
小売事業者が保証金を支払わない場合等の、託送契約の解約に向けた運用フローは図2のとおりである。
撤退する小売電気事業者は、託送料金・インバランス料金のほかに、FIT再エネ賦課金も未払いである可能性が高いが、これについても予防策を講じることは困難であると考えられる。
現在の市場環境は、自由化当初にはほとんど予見できなかったほどの厳しさであるが、小売電気事業者は自社体力相応のリスク管理を行い、支払い義務を全うすることが求められる。
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