「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
ロードスターRFの試乗を終えて戻ると、マツダの広報スタッフが「良いクルマでしょ?」と自信あり気に話しかけてきた。そんな新たなモデルを12月末に発売する。ロードスターとしてRFは異端と言えるだろう。
2つのアシを作り分けたNDロードスター
そこで、2015年に登場したNDロードスターでは足回りのセッティングを複数用意した。1つはスタビライザーによって旋回時のロール剛性を高めて、高速旋回能力を強化したモデル。これがSレザーパッケージとSスペシャルパッケージである。いわばグローバル対応モデルだ。
対して、ロードスターの本貫である低速特化型の日本専用モデルとして用意されたのがSである。Sはスタビライザーと補強板が一部省略されている。スタビライザーがないので、ターンインから外側フロントを沈めたダイヤゴナルロールへ、さらに駆動力を掛けて外側前後輪が平行に沈む平行ロールへという各段階の移行においてリヤサスの伸びが邪魔されず、素直に動く。その結果、減速からターンイン、旋回に入るまでの挙動が自然で、外乱にも強い。
最廉価モデルであるがゆえに、お買い得用の装備簡略版と見なされることが多いが、実はこれこそが開発チームに「NAロードスターの再来を目指した」と言わせる本命モデルだ。平行ロールに入ってからの定常旋回の長いコーナーではスタビライザーがあった方が良いが、そこまではスタビライザーはコーナリングの邪魔をする。ターンインの後、すぐ脱出になるようなワインディング路であれば、スタビライザーは邪魔なことも多いのだ。
ただし、タイヤはコストとの兼ね合いで、すべてのモデル(追加車種のRFは異なる)が同一タイヤを採用しなくてはならなかった。その結果、本来低速スペシャルのSには過分なグリップのタイヤが採用されている。ハイグリップタイヤによって増えた横力は、旋回時にリヤタイヤを支持するブッシュの弾性変化を大きくし、リヤタイヤのトーインを大きくして、曲がることに抵抗をする挙動を引き起こす。これがSのわずかな瑕疵(かし)となっている。念のために書いておくが、それを割り引いても、Sこそが歴代ロードスター後継として本命モデルであることは間違いない。
つまり日本でのユースを考えると、高速道路の山岳区間を気持ち良く走りたいならSスペシャルパッケージかSレザーパッケージを、もっと低速のワインディングを走りたいならSを選ぶと、一番おいしいところが楽しめるという構成になっている。
関連記事
- 「常識が通じない」マツダの世界戦略
「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。 - マツダの通信簿
先月末、マツダはサステナビリティレポートとアニュアルレポートを発表した。これはマツダ自身による過去1年間の通信簿とも言えるものだ。今回はそのレポートを基にマツダの現状を分析したい。 - マツダはRX-VISIONをビジネスにどう生かすのか?
今回の東京モーターショーで注目を集めた1台が、マツダのコンセプトスポーツカー「Mazda RX-VISION」だ。この発表に込められたマツダの強い思いとは――。 - マツダがロータリーにこだわり続ける理由 その歴史をひもとく
先日、マツダの三次テストコースが開業50周年を迎え、マツダファンたちによる感謝祭が現地で行われた。彼らを魅了するマツダ車の最大の特徴と言えば「ロータリーエンジン」だが、そこに秘められたエピソードは深い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.