日産とスバル 法令順守は日本の敵:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
完成検査問題で日本の自動車産業が揺れている。問題となっているのは、生産の最終過程において、国土交通省の指定する完成検査が無資格者によって行われていたことである。これは法令順守の問題だ。ただ、そもそもルールの中身についてはどこまで議論がされているのだろうか。
完成検査の実態
バカバカしいその内容を書き出してみよう。項目数だけは多いので、冗長にならないように抜き出すが、それでも法律のほうが冗長なのは筆者の責ではない。なお、抜き出す際には、できるだけまともなものを選ぶようにする。つまり、抜き出されてないものはこれよりバカバカしい。
車検証と実車の同一性確認
(厳密には車検証ではなく完成検査証)
車体番号
エンジンの型式
車体寸法
エンジンルーム内の検査
潤滑装置の油漏れ
プレーキ配管の緩みや液漏れ
冷却装置の水漏れ
パワステベルトの緩み
キャブレターなどの燃料漏れ
排ガス減少装置の取り付け状態
バッテリーの取り付け
外観の検査
バックミラーの視野と取り付け
警報機(クラクション)の音量
ランプ類の性能・取り付け・光軸
最低地上高
ワイパーの取り付け
車体の傾きと突起物の有無
窓ガラスの透明度や歪み
タイヤやホイールの歪みや損傷
車室内の検査
ハンドルの遊びとガタ
ペダル類の遊びとガタ
メーター類の取り付けの有無と状態
座席の寸法と間隙
ヘッドレストの有無
検査機器による検査項目
ブレーキの効き
スピードメーターの誤差
サイドスリップの量
排気騒音
ランプの光軸と光度
排気ガスの濃度
と、まあこんな感じで、他にどうでもいいから省いたものがどんなものか例を挙げておくと「サンバイザーの取り付け」とか「ウィンカーの点滅速度」とか無限にある。ざっと見渡して一番に感じるのはバランスの悪さだ。特定の部品を散発的に取り上げて取り付けの確認を曖昧に指定しているに過ぎず。相当原始的なクルマが想定されている感じを強く受ける。エンジンや車両制御に用いられるコントロールユニットなどの電子部品に関する記述がほぼない。日本では1970年代から取り入れられてきた部品である。
工業高校の授業で生徒が作ってみたクルマだとか、ユーザー車検の時に注意する項目だというならまあ分からないでもないが、世界で戦う自動車メーカーの製品をチェックするに際してこの項目のバカにしたようなレベルの低さはどうだろう?
プロの料理人に包丁の持ち方やコンロの着火方法のテストを受けさせるようなもので、全部できているのは最低以前の条件である。そんなものを有資格者が検査しなくてはならないとする規定そのものがアホ臭い。小泉構造改革で規制緩和が叫ばれてから17年。こんな規制が残っているから数十年の時が失われているのだ。
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