なぜ日本のおじさんは、貴乃花親方にイラついてしまうのか:スピン経済の歩き方(2/5 ページ)
貴乃花親方が「おじさん」から叩かれている。「理事のくせに協会に協力しないのは組織人失格」「改革したいからって、飲み屋のケンカを大騒ぎしすぎだ」といった主張を聞いていると、筆者の窪田氏は「何かに似ているな」と感じたという。それが何かというと……。
苦しい話を正論のように語る「病」
2002年、外国産牛肉を国産に偽っていた雪印食品相手に不正をやめるように忠告したが、受け入れられず告発に踏み切った平岡冷蔵の社長さんも当初はマスコミから「ヒーロー」扱いされたものの、やがてその持ち上げがチャラになるような厳しい状況に追い込まれた。
『告発後に直面した問題は、大手がうちとの取引からどんどん撤退していったこと。いつの間にかケンカの相手が業界全体になっていったわけですわ。マスコミは背中を押すけど、戦いのリングに上がるのは僕だけ』(週刊ポスト 2017年8月4日)
それは公益通報者保護法とか整備されていない時代だからとか言う人もいるが、この制度は問題だらけで、国が調査したところ、半数近くの通報者が解雇や嫌がらせなどを受けていることが分かっている。筆者が数年前、取材で世話になった某一部上場企業の内部告発者も、経営者の不正を大手メディアに告発した報復で、会社から訴えられた。
つまり、今も昔も組織内の不正を、捜査機関などにタレコミをした人は、「組織人」を標榜するおじさんたちから「融通がきかない頑固者」「自分だけ正義ヅラか」などと罵られ、ムラ社会のなかでフルボッコにされるのが、ジャパニーズスタンダードなのである。
こういう価値観のなかで生き、それぞれのムラ社会でそれなりのポジションにつくことができたおじさんからすると、貴乃花親方のような内部告発者は腹がたってしょうがない。
自分だっていろいろ理不尽なことや納得できないことはあった。でも、それにじっと歯をくいしばって堪えるのが「組織人」だろ、という思いがあるからだ。オレたちのような我慢と妥協を、なぜこいつはしないのだろう、という苛立ちがあるのだ。
なんてことを言うと、「いや、貴乃花親方の場合、理事のくせに組織内で問題解決を訴えずに、いきなり警察やマスコミへ駆け込むのは筋が違う」とか言い出す方がいるが、そういう苦しい話を正論のように語るあたりが、この「病」の根が深いところだ。
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