サイボウズ青野社長に聞く 「夫婦同姓のコスト」と「議論のコツ」:夫婦別姓訴訟が話題に(2/2 ページ)
「選択的夫婦別姓」の導入を求める訴訟で話題のサイボウズ青野慶久社長。なぜ訴訟に至ったのか? どのような反響があったのか? 青野社長に直撃した。
noteで公開「反論への反論」
――11月11日には、noteで「選択的夫婦別姓への反論に反論します」というエントリを公開しました。選択的夫婦別姓に反対する立場の人たちの懸念や反論を取り上げ、再反論するものでした。なぜそのようなエントリを書いたのでしょうか?
訴訟の報道を受けてネット上でさまざまな議論が交わされていましたが、反対派も賛成派もかみ合っていない印象がありました。例えば反対派の中で「子どもがかわいそう」「伝統を重んじていない」という声が上がる一方で、賛成派の中で「男女不平等なのだから絶対に変えるべきだ」と言う人もいる。これはどちらも、今回の訴訟のポイントとはかみ合っていません。そこで、議論のポイントをまず整理したいと考えて書いたのがあのエントリです。夫婦が結婚するときに、選択肢があるほうがいいのか、それともないほうがいいのか。何を変えて、何を残すのか。議論の切り口になればと考えました。
――エントリの中で、ルールが決められているのが印象的でした。「1. 1人1人のニーズを尊重しよう(多様な個性の尊重)」「2. 社会の変化に合わせてルールを変化させよう(生成発展)」の原則の上で反論への反論を展開し、「原則1に反します」「原則2に反します」といったように整理していました。この議論の方法は、サイボウズの社内で行われているものですか?
そうですね。前提や基準を置いてから議論を行うようにしています。サイボウズの大前提は「企業理念に沿っているか」。先日議論が起こったのは、「新人が研修中にイヤフォンをすることの是非」でした。賛否があって、「先輩が見たら教える気をなくす」という声がある一方で、「本人が集中するためにやっているのだからOK」という声もあった。答えはわかりません。ただ、サイボウズの企業理念は「チームワークあふれる社会を創る」なので、本人がその理念のために行動したかどうかが判断基準になるのです。
――議論の前提が変わると、出てくる答えも変わるということですね。
夫婦別姓に関してはさまざまな意見や立場があるでしょうが、「多様性を尊重する」「社会の変化に合わせてルールは変わるべきだ」という前提は、ほとんど誰もが共感できるものです。この前提の上に議論を重ねていくことが必要だと考え、土曜日の家事の合間に思い付いて一気に書きました。
――掲載された反論意見は、青野さんに直接寄せられたものでしょうか?
私に寄せられたものもありますし、ネット上のコメントで見たものも入っています。「青野は左翼だ」とか(笑)。
――「小学校時代は外野手ではなくショートでした。右投げ左打ちです」と返していて、思わず笑いました。「夫婦同姓は日本の伝統。伝統を守っていかなければならない」にも「じゃあ、お前、明日からチョンマゲな」と返していて、かなりユーモアのある反論ですね。
反対派が「夫婦別姓は伝統を破壊する」というと、賛成派が理屈で対抗しようと「北条政子は別姓だった」などもっと前の話を持ち出すことがあるのですが、「じゃあ北条政子以前はどうなんだ?」と水掛け論みたいになっていって、話がズレていきますよね。そこは議論すべきではないんです。歴史や文化やルールは変わるという前提に立って、今の時代を生きている私たちがどうありたいかを大事にした方が話はシンプルです。それに選択的夫婦別姓なら、「同姓は日本の伝統」と思う人は同姓を選べばいいわけですから、どちらの信条も守れます。
――サイボウズ社内や、取引先からの反響はどうでしたか?
私としては、社員はポジティブだとは思いたいですね。もちろん全員が全員そうではないでしょうが。お客さまからは励ましの言葉をたくさん頂きましたが、批判的で厳しいコメントを頂くこともあります。ある自治体のお客さまは、上司から「国を訴えるような会社が作っているソフトを使うなんて」と叱られたとおっしゃってました。
いろんな人がいろんな思いを抱いているトピックではあるので、喜んでくれるパートナーも、もやもやした思いを抱くパートナーもいます。今回はサイボウズではなく、青野個人の訴えではあるのですが、サイボウズで掲げている「多様な個性を尊重する」という信念とは矛盾しないものです。ある意味、事業ではない形でその理想を実現しようとしているのだと自分では考えています。
サイボウズが社として打ち出している「働き方改革」とも同じです。サイボウズの働き方は現状は9種類で、時間や場所を自分で選べるようになっています。「個人が主体的に選択できること」が重要だと思っているんです。今やもう、結婚相手も働く場所も働き方も選べる時代。姓だって選べていい。選べるものを増やしていく努力を続けることが、多様性が尊重される社会につながるのではないでしょうか。
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