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お金なし、知名度なし、人気生物なし 三重苦の弱小水族館に大行列ができるワケ来場者12万人から40万人へ「V字回復」(1/4 ページ)

休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。その秘密に迫った。

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「税金の無駄遣い」と糾弾され、8年前は閉鎖寸前

 休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館がある。大都会のオシャレ水族館でも、人気観光地にある巨大水族館でもない。人口8万人ほどの愛知県の蒲郡(がまごおり)市にある竹島水族館だ。

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愛知県蒲郡市にある竹島水族館。外見は決してオシャレではなく、狭さは全国有数だ。平日でもこの人出

 展示している生き物は魚類のほか、大きい動物はアシカ、カピバラ。館長を含めたスタッフは7人のみ。建物は国内で2番目の古さ、水槽を軽く見るだけならば10分弱で歩き回れるほどの狭さ――。条件面では「しょぼい」としか言いようがない弱小水族館が、2016年度は39万8000人もの客を集め、17年度は耐震工事のために4カ月間の休館をしたにもかかわらず35万人を達成。本年度は43万人の目標を掲げている。わずか8年前は年間12万人ほどしか来ない不人気施設で、閉鎖寸前だったことが信じられない。

 「館内はいつもガラガラで、寝そべっていても平気なぐらいでした。アシカショーの案内放送をしても誰も来てくれないので、館内にいる2、3人のお客さんに頼み込んで見てもらったり……」

 当時の惨状を淡々とした口調で語るのは、V字回復の立役者である小林龍二館長(37)。04年に竹島水族館に入り、暗い気持ちで孤軍奮闘していたと振り返る。

 「水族館の人たちは魚が好き過ぎるのです。魚をうまく飼育して増やして、給料がもらえればそれで満足。お客さんに楽しんでもらうという意識がありません」

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館長の小林龍二さん。おとなしそうな外見だが強烈な反骨精神の持ち主である。アイデアと行動の人だ

「つまらんかったね」と言いながら帰っていくお客さん

 現在の竹島水族館は、飼育員が手書きで作成したユニークなPOPが所狭しと貼られている。水槽の中にいる魚を見るよりも、解説文を熱心に読む客がいるぐらいだ。

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展示の仕方だけではなく、手書きPOPの1つ1つにユーモアとサービス精神があふれる

 かつては「図鑑の説明文をつなぎ合わせたような難しい文章」を業者に依頼し、プレートにして掲げていた。コストはかかるのに、ほとんど誰も読まなかった。

 「例えば、『背びれの骨が1本だけ長いのがこの魚の特徴』なんて書いてありました。水族館の人はこういうちょっとした特徴で魚種を見分けることがすごく楽しいんです。でも、一般のお客さんからしたらどうでもいい情報ですよね。『つまらんかったね』と言いながら帰っていくお客さんの声を聞いて寂しく思いました」

 思い立ったらすぐに実行するタイプの小林さん。手書きPOPを勝手に描いて館内に貼り出したこともある。

「魚の飼育と研究を突き詰めている人たちからしたら恥ずかしいような内容だったのでしょう。翌日に出勤すると、全て剥がされて事務所の机の上に置いてあったこともあります。先輩たちからは、『そんなことよりもまずは魚の飼育を覚えろ』と言われました」

 社長以下の重役たちがプロダクトアウトを志向する中で、新入社員だけが「顧客第一」を叫ぶような状況だったのだ。小林さんは完全に孤立した。

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「見た目が気持ち悪い」「煮て食べるとおいしい魚です」など、普通の水族館では絶対に見られない解説文がとにかく面白い
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