エンタープライズ:インタビュー 2002/11/01 21:16:00 更新


Interview:IBMのXperanto技術は「バーチャルデータベース」を目指す

IBM DB2は、今から30年前、シリコンバレーのIBMラボで産声を上げ、以来絶えず革新的な機能を盛り込み、リレーショナルデータベース市場をリードしてきた。ネルソン・マットス氏は、そのイノベーションの歴史に新たな1ページを加えるべく、Xperantoプロジェクトを率いている。

9月末、IBMソフトウェアグループのデータマネジメント部門で「情報統合」を担当するディレクター、ネルソン・マットス氏が来日した。IBM DB2は、今から30年前、シリコンバレーのIBMラボで産声を上げ、以来絶えず革新的な機能を盛り込み、リレーショナルデータベース市場をリードしてきた。マットス氏は、そのイノベーションの歴史に新たな1ページを加えるべく、「Xperanto」プロジェクトを率いている。

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IBMでディスティングイッシュドエンジニア(DE)の称号を持つネルソン氏

ZDNet マットスさんが責任を負っている技術分野は「情報統合」ですね。IBMがそこに力を注ぐ背景を教えてください。

マットス データマネジメントの分野は劇的に変化しており、情報そのものの増加とそれを統合する必要性が出てきています。カリフォルニア大学バークレー校の予測によれば、向こう3年で生み出されるデジタル情報の量は、有史以来、人間がつくりあげてきた情報量を上回るものだといいます。

 情報の量だけではありません。テキストや数字だけでなく、イメージ、ビデオ、オーディオなどの重要性が増しています。X線によるスキャンイメージやゲノム情報などがそうですね。また、情報が置かれている場所も多様化しています。メインフレーム、UNIXサーバ、デスクトップPCはもちろん、最近ではPalmデバイスのような携帯情報端末にも情報が格納されています。

 今後、企業はより良い意思決定のために、これらの情報を統合する必要に迫られるでしょう。私は、IBMソフトウェアグループのデータマネジメント部門で「情報統合」に関する製品の定義から開発、デリバリー、マーケティングまですべての責任を負っています。ワールドワイドで200人近いスタッフが私の下でこの分野に取り組んでいます。

ZDNet 性能や拡張性、あるいは可用性を追求してきたデータベース業界ですが、今後は、どういった方向に進化が進むのでしょうか。

マットス データベースやデータマネジメントの役割は、こうした市場の変化に応じて、大きく変わってきています。かつては、リポジトリで一元的に管理することが期待されていましたが、今後は、エンタープライズに分散する情報を統合する機能が求められます。物理的に集中させたデータベースから「バーチャルデータベース」への移行といえばいいでしょう。

ZDNet マットスさんが率いている「Xperanto」プロジェクトについて教えてください。

マットス コードネームでXpetantoと呼ばれているプロジェクトは、情報統合という課題を解決することにフォーカスしたものです。既に一部の成果はDB2 V8に盛り込まれていき、残りの多くの機能も2003年に登場してくるでしょう。

ZDNet Xperantoというネーミングは、マットスさんのアイデアですか?

マットス いいえ(笑い)、IBMのアルマデン研究所で付けられたものです。アルマデン研究所が生み出したアイデアや技術をシリコンバレー研究所が製品開発に生かす、という関係にあります。両施設は、2キロぐらいしか離れていません。私も6年間、アルマデンで働いた経験があります。

 Xperantoは、国際語の「エスペラント」(Esperanto)とキーテクノロジーである「XML」を組み合わせたものです。既に触れたとおり、データベースは、どんなデータで、しかもどこにあっても、効率的に管理できる「ユニバーサル」な役割を要求されていて、それにこたえる技術を研究するプロジェクトとして名付けられたのでしょう。

XperantoはDB2の進化形

ZDNet ユニバーサル? そういえば、DB2も「DB2ユニバーサル・データベース」(DB2 UDB)と呼ばれていますね。

マットス はい、DB2それ自体がユニバーサルです。Xperantoは、それをさらに拡張しています。さまざまなデータを物理的にDB2に格納する必要はありません。Oracle、SQL Server、ファイルシステム、Webクローリングなど、情報がどこにあるのかを意識することなく、効果的にアクセスできるようにしてくれます。Xperantoは、DB2の進化形といえるでしょう。

ZDNet データベース業界では、データを1カ所に集めてデータウェアハウス(DWH)を構築し、その解析スピードを高め、リアルタイムにその成果をビジネスに生かすという取り組みがあります。そうしたアプローチとXperantoは、方向性が違うのではないでしょうか。

マットス DWHのアプローチも間違ってはいません。DB2は、DWHとしてベストなインフラとして評価されていますし、さらに発展させていきます。

 しかし、さまざまなアプリケーションが大量のデータを生み出しています。例えば、軍事衛星のデータを解析することを考えてください。ライフサイエンスでもそうですね。どんどんデータがリアルタイムで生み出されてきます。こうしたデータは、純粋なDWHアプローチでは処理しきれません。

ZDNet 多くの企業が「EIP」(Enterprise Information Portal)の構築に取り組もうとしています。EIPとXperantoの関係はどうなるのでしょうか。

マットス 今、企業はさまざまな「統合」の課題に直面しています。それらを分類してみると、「シングルポイントアクセス」「プロセス統合」「レガシーアプリケーションの統合」「Webサービスによるアプリケーションの統合」、そして「情報の統合」です。IBMでは、WebSphere Portal、WebSphere Business Integration、WebSphere MQ Seriesなども提供しており、企業のビジネス統合を支援しています。

 これらすべての統合は、ビジネス統合に関係しているのですが、課題を解決するための最も重要なコンポーネントは、DB2による情報統合です。なぜなら情報は、すべての統合にかかわってくるからです。

ZDNet ただ、現実にはIBMは、データベース市場でオラクルと激しい首位争いを繰り広げています。IBMの優位性は何ですか?

マットス 顧客は、技術というよりは、サービスを求めています。IBMは、「データベース」「アプリケーションサーバ」「メッセージング」「プロセスインテグレーション」、および「ポータル」という一連のミドルウェアすべてにおいてリーダーです。ビジネス統合という課題へのベストな解決策を提供できます。

 しかし、5つの技術や製品をすべて顧客に押し付けるわけではありません。Xperantoは、SQL、XML、J2EEといった、すべてオープンな標準に基づいています。競合他社のJ2EEアプリケーションサーバを組み合わせることもできます。Webサービスでは、.NET製品も選択できます。

 われわれは、マイクロソフトのようにWindowsにロックインすることもありませんし、オラクルのように自社のアプリケーションスイートを押し付けることもありません。インターネットの世界がすべてマイクロソフトやオラクルというのは、非現実的なのです。

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[聞き手:浅井英二,ITmedia]