エンタープライズ:コラム 2003/01/27 07:29:00 更新


Gartner Column:第77回 エンタープライズアプリケーションの2003年を展望

2003年のエンタープライズアプリケーションは「正しい判断」のベースとなるシステムの実現に向けた試みが明瞭になるだろう。しかし、ベンダー、プロバイダーからの提案はますます似通ったものとなりそうだ。ユーザーに突き動かされる形でベンダーが変化することを期待する。

 2003年に入って1カ月近くが過ぎようとしている。暦上の年が新たになったからといって新たな動きが出てくるわけでもないのだが、エンタープライズアプリケーションの2003年を展望してみよう。

 エンタープライズアプリケーションを「正しい処理」と「正しい判断」の実現のためのシステムとして見るならば、2003年は「正しい判断」をより重視する流れが明瞭に見え始める年となりそうだ。同時に、日本市場でビジネスを展開するベンダー、プロバイダーからのオファー内容はますます似通ったものとなる年ともなりそうだ。

 エンタープライズアプリケーションは、ERPが典型的に示しているように、「正しい処理」と「正しい判断」を実現するためのシステムという性格を持っている。「正しい処理」ではビジネスプロセスの定義と記述という非属人的課題が中心的問題であり、「正しい判断」では意思決定という人的/社会的な問題が中心的に扱われている。

 現実のエンタープライズシステムはこれら2つの性格のバランスを取りながら設計/実装されることになるが、ユーザー企業の要求、その中でも予算を握っている経営陣の関心事が大きな影響を及ぼす。2002年、米国の景気が失速するまで、ユーザー企業とベンダーの間でキャッチボールされながら再生産され、強化されてきたのは、株主価値の追求であり管理会計上これに密接に関連する資産の生産性(ROAなど)の向上に対する期待だった。

 エンタープライズアプリケーションは、これらの要求を実現する「正しい処理」(ベストプラクティス)を廉価に提供することを約束することで、オペレーションエクセレンスを追求する経営のプロの支持を獲得してきたのだが、その一方でプロダクトあるいはサービスエクセレンスの追求こそが顧客に訴える力を持つこと、そして企業の構成員の持つ知識と判断能力がその基盤となることが再認識されてきてもいる。

 IT業界での一般的な語られ方と違うが、このようなプロダクト/サービスエクセレンスを中心とする見方や実践内容については、日本のワールドクラスの企業は世界的に見ても最先端に近いと言っても間違いないだろう。2003年は、「正しい判断」のベースとなるシステムの実現に向けた試みが、先進的なユーザー企業の事業部門を中心に流れとして顕著に見え始めるだろう。それは、日本企業の自信回復と新たなチャレンジに歩調を合せたものとなるはずである。

ベンダーらは金太郎飴

 ユーザー企業側の変化とは裏腹に、日本市場でのベンダーやサービスプロバイダーからの価値提案の内容はますます横並び傾向を強めることになりそうだ。標準化やコモディティ化が進むプラットフォームやミドルウェア層から出発して、ほぼ同じ環境と情報の中で戦略構築を行っているため、ある程度は仕方のないことだとも言えるが、それにしても金太郎飴のように均一化が進んでいるのはなぜなのだろうか? 日本の市場環境はそんなに平板なのだろうか?

 ガートナージャパンがユーザー企業と議論してきた範囲では、このようなプロバイダー側の状態に対して相当な危機意識あるいは不満を持っているマネジメント層がかなりの人数存在している。共に知恵を絞るべきパートナーが思考停止状態になっているのはかなわない、ということらしい。プロバイダーのすべてがそうだとは言わないが、ベンダーやプロバイダーの知的能力と実践力が問われ始めていることは間違いないだろう。

 私は先週、「Oracle AppsWorld 2003 San Diego」に参加した。だからというわけではないが、オラクルにしても冴えない経済環境の中、胸が躍るような戦略を語れはしないが、例えば、顧客にTCOの管理可能性の向上と投資の早期回収をもたらすための提案を自らの資源とリスクの下で構築している。日本のプロバイダーは、あれこれ他社の戦略をくさす前に価値の提案者として当然の知的努力の姿を見せてほしいものだと思う。

 先進的なユーザー企業の思考能力と実践能力の復活、そしてそれに突き動かされる形でのベンダー側の変化、これが2003年の展望と期待である。

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[浅井龍男,ガートナージャパン]