エンタープライズ:ニュース 2003/02/28 21:38:00 更新


基調講演:Oracle9iとLinuxが夢のユーティリティーコンピューティングを招来

日本オラクルが「Oracle Unbreakable Summit」を開催した。基調講演には、そのOracle9i RACのアーキテクト、アンジェロ・プルシーノ副社長と、米オラクルでCSOを務めるメアリー・アン・デビッドソン氏が登場し、「Can't break it」(止まらない)、そして「Can't break in」(侵入できない)という同社のUnbreakableテクノロジーをアピールした。

 日本オラクルは2月28日、都内のホテルで「Oracle Unbreakable Summit」を開催した。22日を皮切りに同社は、「Oralce9i on Itanium 2 Processor」「Oracle Collaboration Suite」、および「Unbreakable」をテーマとする一連のイベント「“東京版”OracleWorld」を連続開催している。

 冒頭挨拶に立った新宅正明社長は、「Oracle9iとOracle9i Real Application Clusters(RAC)は、世界最高のセキュリティと究極のRAS(Reliability、Availability、Scalability)機能によって、ビジネスや社会のインフラをアンブレーカブルにする」と話した。

 基調講演には、そのOracle9i RACのアーキテクト、アンジェロ・プルシーノ副社長と、米オラクルでチーフセキュリティオフィサー(最高セキュリティ責任者)を務めるメアリー・アン・デビッドソン氏が登場し、「Can't break it」(止まらない)、そして「Can't break in」(侵入できない)という同社のUnbreakableテクノロジーをアピールした。ふたりとも東京で顧客やパートナーに話をするのは初めてという。製品開発だけでなくオラクル社内の情報システムのセキュリティ施策を統括するデイビッドソン氏は、「Unbreakableは、顧客へのコミットメント(約束)」とし、広範な同社のセキュリティへの取り組みを話した(「企業のDNAにセキュリティを」とオラクルのデイビッドソンCSO )。

 一方、5年前にオラクルに入社し、Oracle9i RACプロジェクトを率いてきたプルシーノ副社長は、RACのアーキテクチャやその優位性を話したほか、導入企業のケーススタディなども紹介している。

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RACのアーキテクチャを分かりやすく説明したプルシーノ氏


 クラスタ技術自体はオラクルにとって、決して新しい技術ではない。かつてミニコン時代を築いたディジタルイクイップメントは、1982年に世界初のクラスタソフトウェア、VAX Clusterを開発しており、オラクルもOracle 5でこれに対応した。ただ、その後のOracle Parallel Server(OPS)でスケーラビリティを追求したが、複数のノードがディスクを介してデータを共有していたため、なかなかノード追加によるリニアな性能向上が図れなかったという。

 プルシーノ氏によれば、ノード間通信のフレームワークはもちろんRACに必要だが、それ以上に重要なのが「キャッシュフュージョン技術」だと指摘する。

「これこそがRACをスケーラブルにしている。シェアード“ディスク”方式とわれわれの(ラリー・エリソン)CEOが言うので仕方ないが、私としてはシェアード“キャッシュ”方式と呼びたい」とプルシーノ氏は話す。

 ディスク(キャッシュ)を共有するため、シェアードナッシング方式のような人為的なパーティショニングの必要はないし、ノードの追加による再パーティショニングも不要だ。何より、どんなアプリケーションも変更を加えることなく、そのまま動作する。エリソン氏がしばしば、「SQL Serverのクラスタで動作するアプリケーションはただ1つ。それはベンチマーク」と皮肉るのは少し大げさにしても、プルシーノ氏によれば、シェアードナッシング方式では意思決定支援システムのように用途が限られるという。

技術進化の波に乗れ

 キャッシュを共有することで、従来は難のあったスケーラビリティも大幅に改善された。ほぼリニアにスケールするOracle9i RACは、キャパシティプランニングも容易にしてくれる。厳しい経済状況だが、まだまだ潜在的な成長力を持つ企業はたくさんある。

「1000人の従業員が3年後に3000人になることだって考えられる。これまでであれば、3000人分の初期投資を行ってきたが、Oracle9i RACは成長に応じてノードを増やしていけばいい」(プルシーノ氏)

 プルシーノ氏は、「待つことによるメリット」についても触れた。つまり、技術は時間とともに進化し、CPUの性能は向上し、価格はこなれていく。技術の進化の波に乗れば、さらに優れた価格性能比を享受できるわけだ。

 Oracle9i RACの優位さは、顧客の評価によっても裏付けられている。既にワールドワイドで2000以上ライセンスされ、そのうち300を超えるシステムが本番稼動している。それは、ダウンタイムによる損失が多額に上るからだ。プルシーノ氏は、ガートナー データクエスト部門が2000年にまとめたデータを示し、企業の基幹業務にはアンブレーカブルなシステムが不可欠だとした。それによると、例えば、金融機関のサービスが1時間ダウンすると、その損失は数千万ドルにも上るという。

 ブリティッシュテレコムは、これまで障害時にはコールドフェールオーバーによって対処していたが、これでは復旧まで20分という時間を必要だった。彼らは、Oracle9i RACを採用したことによって、これを10秒〜60秒に短縮できたという。

切り札はOracle on Linux

 計画停止を含めて止められない基幹システムには、これまでメインフレームやUNIXのSMPマシンが使われてきたが、小さなコンピュータを複数接続して、高い可用性とスケーラビリティを両立するOracle9i RACは、そうした巨大マシンの牙城を徐々に切り崩し始めている。特にLinuxとの組み合わせ、「Oracle on Linux」は、その強みを最も発揮する。

「なぜOracle on Linux? それは最もローコストでアンブレーカブルなシステムを構築できるからだ」とプルシーノ氏。OSは無償で、2〜4CPUのインテルマシンは、もはやコモディティとなっている。安価なシステム構成だが、Oracel9i RACが高い可用性を保証してくれる。

 オラクルは、レッドハットと共同でRed Hat Linux Advanced Serverの開発に取り組んでいるし、Cluster File Systemをオープンソースとして公開するなど、コミュニティーへの貢献も行っている。顧客に対してRed Hat Linuxのサポートを提供する一方、ISVにも支援を行い、既にOracle on Linux対応の認定を受けた製品は550に上る。

 プルシーノ氏は、「次の大きな波はブレードサーバだ。そこで選択されるOSはやはりLinuxになる」と言い切る。コモディティ化するIAベースのブレードサーバ、Linux、そしてOracle9i RACを重ね合わせると、彼には将来のコンピューティング像、つまり使用効率の極めて高い「ユーティリティーコンピューティング」の世界が見えてくるのだろう。

「自己最適化、自己管理、および自己診断の機能が備われば、クラスタ内のブレードサーバを負荷に応じてダイナミックに再配置できるようになる」(プルシーノ氏)

 オラクルは、1990年代後半から水道や電気、ガスのような「ユーティリティーコンピューティング」の重要性を一貫して唱えてきたが、Oracle on Linuxがその実現へまた一歩近づけてくれる。

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[浅井英二,ITmedia]