エンタープライズ:インタビュー 2003/07/02 18:10:00 更新


Interview:「ボリュームによる経済性」をエンタープライズ分野にも持ち込むIntel

ほとんどすべての大手コンピュータメーカーにMadisonを売り込むことに成功したIntel。目指すのはPCで実現した「ボリュームによる経済性」をエンタープライズ分野にも持ち込むことだ。

 Intelは、Mckinleyの不具合という問題を抱えながらも、MadisonではDellの参入という大きなポイントを稼ぐことに成功した。ISV、システムインテグレーター、販売チャネルといったパートナーらとの関係もさらに強固にし、PCで実現した「ボリュームによる経済性」をエンタープライズ分野にも持ち込もうとしている。東京でのMadison発表会のために来日したエンタープライズ事業本部エンタープライズマーケティング担当ディレクター、アジェイ・マルフォトラ氏に話を聞いた。彼は11年前、Pentium Proの設計チームの一員として働き、同社エンタープライズ向けプロセッサのルーツを知る一人でもある。

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元々はマイクロプロセッサの技術者だというマルフォトラ氏


ZDNet 5月にItanium 2(コードネーム:McKinley)の電気系統に不具合が発見され、一部のメーカーは搭載モデルの出荷を見合わせています。そうした中、第3世代となるMadison(1.5GHz Itanium 2 6Mプロセッサ)が発表されました。経緯を振り返ってもらえませんか。

マルフォトラ McKinleyからMadisonに至るまで、いろいろありました。パートナーや顧客との関係を良くすることに力も注いできました。McKinleyの採用を見送っていたメーカー(Dell)も戻ってきてくれました。これは、プロセッサが十分成熟してきたことと、業界の受け入れ態勢が整ってきたことを示していると思います。これで1社(Sun)を例外としてすべての大手コンピュータメーカーがItanium 2を搭載したサーバを出荷します。

 IBM、Hewlett-Packard、Dell、Unisys、そして、日本の発表会でも事例が披露されたSGIのほか、富士通、NEC、日立製作所、沖電気工業といった日本のメーカーも多くの製品を出荷しようとしています。Itanium 2は40以上のモデルに搭載され、そのうち、いわゆる「ビッグアイアン」と呼ばれる8CPU以上が10モデルを超えています。

 本番稼動環境として使えるOSがHP-UX、Linux、Windowsと出そろい、エンタープライズアプリケーションもSAP、Oracle、BEA Systems、SASなどからリリースされています。

 そして、国内の発表会では、富士フイルムコンピューターシステム、みずほ信託銀行、東京大学地震研究所といったユーザーを紹介することもできました。顧客らは、リアルなシステムを使って、リアルな作業を行い、リアルなベネフィットを生み出しているのです。Madisonの登場で、今年はいよいよItaniumの年になります。

ZDNet 米国のWindows Server 2003ローンチイベントでは、Itanium 2サーバが樹立したベンチマークの世界記録が矢継ぎ早に発表されました。これで一気にItanium 2とWindowsの組み合わせが注目を集めるようになりましたね。

マルフォトラ IAクライアントの普及では、デスクトップもモバイルもWindowsが大きな役割を果たしました。IAサーバがエンタープライズの領域に入るときも、やはり同じような役割を果たすだろうと期待されています。その意味でも、Windows Server 2003のローンチは大きな意義のあるイベントだったと思います。

 しかし、どのOSを使うかは、顧客が決めることです。企業のバックエンド、つまりミッションクリティカルなシステムは、歴史的にUNIXが大きな役割を果たしてきました。ですから、エンタープライズ分野で広く普及させるためには、HP-UXや、UNIXと親和性の高いLinuxをサポートし、選択できるようにすることが重要なのです。

 われわれは、Intelのブランドが「セーフティ」や「テクノロジー」以外にも、「フレキシビリティ」や「チョイス」を意味するようにしたいと考えています。顧客がItaniumサーバ向けのOSとして、Windowsを選択しても、Linuxを選択しても、HP-UXを選択しても、最高のパフォーマンスが得られるようにしていきます。

ZDNet 大手コンピュータメーカーが支持し、OSも出そろい、ユーザーもコストを意識して、64ビットのIAサーバを検討するようになりました。もはや、Intelが黙っていても成功が約束されたようなものではないですか?

マルフォトラ ただ黙って座っているだけでうまく行くと考えるほど、われわれは厚かましくはありません。過去もそうだったのですが、インテル、ただ一社で成功を収めることはできません。業界のパートナーや顧客らとの関係をより良くし、彼らのビジネスを拡大できる優れた製品を投入する努力を続けていかなければならないと考えています。

 これまで、多国籍企業を念頭に置いて64ビットマイクロプロセッサ技術に投資を行ってきましたが、今後はより規模の小さな顧客や、彼らとのパイプを持つチャネルのビジネスが成功できるように投資をしていく必要があります。

ZDNet そのための課題は何でしょうか。

マルフォトラ われわれのチャレンジは、「デモクラタイゼーション」(民主化)と「コミュニケーション」です。

 かつて最新のPCは、エントリー価格でも5000ドルから6000ドルもしましたが、今や劇的に引き下げられています。われわれが投資を継続し、また、日本や台湾のメーカーらが参入し、競争によって製造コストが改善された結果です。それによって、世界中でコンピュータが使われるようになりました。いわゆる「ボリュームエコノミックス」(ボリュームによる経済性)です。

 われわれはこうした経済性をエンタープライズ向けサーバの分野にも持ち込みたいと考えています。何千というプレーヤーが参加し、価格競争が起こり、それによってより多くの人が採用してくれるようにしたいのです。これが「民主化」です。

 そのためにも、「コミュニケーション」が欠かせません。われわれは、堅牢で強力なポートフォリオをそろえ、パートナーも支持してくれていますが、まだまだ「サーバカンパニー」として広く認識されているわけではありません。インテルにとって、これを伝えていくことが重要であり、私自身の仕事でもあります。

ZDNet PRという点でいえば、「Unwired」のキャンペーンは凄いですね。至るところで見かけます。

マルフォトラ ワイヤレス接続されるモバイルデバイスが増えていけば、コスト効果に優れたIAサーバの需要が伸びることになります。こうしたエンドツーエンドのソリューションが受け入れられていくというのは、インテルにとって良いストーリーです。

 しかし、たいていの場合、サーバの購入は、IT管理者やCEOが決定するものです。コンシューマー向けの広告手法をサーバ製品で実施してもうまく行きません。エンタープライズシステムでは、顧客企業の意思決定者はもちろん、SAP、Oracle、BEA Systemsといったパートナーや、顧客を訪問しているシステムインテグレーターといった「エコシステム」を構成する当事者たちへの働きかけの方が、ファンシーな広告よりも重要なのです。

ZDNet マルフォトラさんは、これまでずっとマーケティング畑でしたか。

マルフォトラ いいえ、元々はマイクロプロセッサの設計者です。11年前は、インテル初のサーバ向けプロセッサとして「Pentium Pro」(コードネーム:P6)の開発チームの一員でした。私のデザインした6万9000のトランジスタがPentium Proには組み込まれています(編集部注:Pentium Pro全体のトランジスタ数は600万個)。そのときのボスがマイク・フィスター(上級副社長兼エンタープライズプラットフォーム事業本部長)でした。

 残念ながら米国での特許は一つしか持っていませんが、「システムバスのアドレスエラーをどのように修正するか」については、いろいろとお話しできますよ(笑い)

ZDNet は、はい……。

マルフォトラ 冗談のように聞こえるかもしれませんね(笑い)。でも、この技術は、信頼性、可用性、サービス性を高めるために極めて重要なのです。Pentium Proは、1992年から設計が始まり、1995年から1997年に市場導入されました。その後、Pentium II Xeon、Pentium III Xeon、Xeonと32ビットのサーバ向けプロセッサの系譜が続きますが、Pentium Proが始まりでした。フィスターは、あのころのことを誇りに思っています。



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[聞き手:浅井英二,ITmedia]