エンタープライズ:コラム 2003/10/20 21:12:00 更新


Gartner Column:第115回 SunはMicrosoftに学ぶべきだ

今のSunが苦しい状況にあることは否定できない。この苦境を乗り切るためには、彼らはMicrosoftに学び、ドラスティックな方向転換をする以外の道はないだろう。

 2001年初め、Sunは歴史的好業績を達成した。その後、私はこのコラム(第23回 サン・マイクロシステムズは勝ち組でいられるか?)で、ドットコムブームとも相まって向かうところ敵なしであったSunの経営陣に対し、Gartnerの某アナリストが述べた「今のSunは10年前のDECに似ている」という発言を紹介した。

 あれから約2年半後の現在、Sunの現状を見るに残念ながらこの某アナリストの観測は正しかったと言わざるをえない。連続10四半期にわたり同社の収益は継続的に低下しており、先の9月に終了した四半期ではキャッシュフローすらマイナスになってしまったからである。

 Sunの業績低迷の理由としては、ドットコムブームが去り、世界的にIT投資が控えられる傾向にあるという点はある。しかし、最大の理由は、Digital(DEC)の凋落の理由と同じ、つまり、SPARC/Solarisというプラットフォームにほれ込みすぎ、ほかの選択肢に目が向かなくなってしまったことであろう(DECもVAX/VMSというプラットフォームが優秀でありすぎたために、RISCとUNIXへの転換が遅れてしまったといえる)。

 英語の言い回しでは、「victim of its own success」(自らの成功の犠牲)という状態である。

 Linuxへの対応が遅れたことはSunの大きな誤りだった。LinuxがMicrosoftにとって大きな脅威となっているのはもちろんだが、現時点での市場のインパクトと言う点では、LinuxはUNIX市場においてより大きな脅威となっている。

 そして、Linuxが積極的に採用されているインターネットインフラの領域は、SPARC/Solarisが優位性を維持してきた分野でもある。実際、多くのサービスプロバイダーでWebサーバとして使用されているSPARC/SolarisからLinuxへのリプレースが行われている。

 さらに、Sunは、最近までIntelプラットフォームの販売、Linux向けのソフトウェアやサービスに積極的でなかったことから、結果的に最もLinuxの台頭によってダメージを被ったベンダーとなってしまった。ほかのベンダーは仮にUNIXサーバがLinuxで置き換えられても、IAサーバの販売、ソフトウェアやサービスの提供によりある程度収益を取り戻せるからである。

 もちろん、SPARC/Solarisのテクノロジーは現時点でも最高レベルであるし、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)のサポートは依然として強力である(ほかのUNIXでの標準化を強制している企業であっても、特定のソフトウェアの稼働のためにSolarisを使用せざるを得ないことも多い)。テクノロジー的にSolarisとLinuxを比較すれば、Solarisが遥かに上だろう。

 しかし、ITの歴史の中では「best」のテクノロジーが生き残ってきたとは限らない。「best」テクノロジーの最大の敵は「good enough」なテクノロジーなのである。

 もちろん、Sunも、Intelサーバ製品における価格攻勢、比較的最近のコラム(第110回 Sunの新戦略はMicrosoft流ではなかった)に述べた斬新なソフトウェア提供形態、デスクトップにおけるWindows代替案の提供など積極的攻勢に出ている。しかし、これらの方策は遅きに失したことは否めない。

 ところで、ITの世界で「自らの成功の犠牲」となることを最も巧みに避けてきたベンダーのひとつはMicrosoftではないだろうか? かつてのコラム(第4回 マイクロソフトの.NET戦略は何故わかりにくいのか?)においても述べたが、従来型のパソコン通信の世界から大きく舵取りを変え、インターネットの世界でも重要プレーヤーとなることに成功した同社の変革のスピードの速さは驚嘆に値する。

 Microsoftの強みは、リスクをいとわず先行投資すること(実際、Microsoftの長期的イニシアチブの多くが失敗している)、競合の脅威に対して過剰なほど反応する「超心配性」企業であること、いったん、戦略転換を決定した場合には過去を否定することをいとわないこと、そして、「embrace and extend」、つまり、「(競合を)積極的に採用し、(自社に都合の良いように)拡張する」という戦略にある。

 Sunにとっては耳が痛い話かもしれないが、今、同社に求められているのは、このMicrosoftのような貪欲な姿勢であると言えるだろう。

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[栗原 潔,ガートナージャパン]