弱体化した情報システム部門 高まる期待に応えられるか?ウイングアーク岡氏×豆蔵安井氏

日本経済は回復基調を見せ始めた。企業のIT投資の回復傾向も鮮明になり、情報システム部門に対する経営からの期待も高まるばかりだ。だが、情報システム部門はこの期待に応えられるだろうか? ウイングアーク協創企画推進室室長の岡政次氏と豆蔵執行役員IT戦略支援事業部事業部長の安井昌男氏が対談した。

» 2007年11月07日 00時00分 公開
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 「失われた10年」と呼ばれたバブル崩壊のショックから立ち直り、日本経済は回復基調を見せ始めた。特に大企業の復調は目覚ましく、この傾向を維持しようと攻めの経営をとる企業も多くなってきた。この方針を支えるべく企業のIT投資も旺盛になり、情報システム部門に対する経営からの期待も高まるばかりだ。

 だが、情報システム部門はこの期待に応えることができるだろうか? 2007年3月まで大手電機メーカーの情報システム部門を支えてきたウイングアーク協創企画推進室室長の岡政次氏は、“見栄えの良い”システムばかりに注力した結果、その足元が揺らぎ始めている、と危惧する。多くの企業に情報化コンサルを提供している豆蔵執行役員IT戦略支援事業部事業部長の安井昌男氏と対談してもらった。

ウイングアーク協創企画推進室室長の岡政次氏

 日本企業の景気は、多少のばらつきがあるものの上向き傾向です。わたしは3月まである電機メーカーの情報システム部門にいたのですが、IT予算は年々50%増と増えてきています。しかし、情報システム部門は単なる間接部門という意識が根付いてしまっており、ルーチンワークのシステム化以外の開発には外部のコンサルタントやシステムインテグレーターを利用しようとする傾向にあります。そこにはもう、社内でやろうという選択はありません。このように弱体化したインハウスの情報システム部門に危険を感じるのですが、安井さんはどのような印象をお持ちですか?

安井 まず、情報システム部門が本当に必要かどうか、という議論がありますね。金融・流通という大規模な部隊を抱えている業種を除けば、日本企業の情報システム部門は数十人程度の規模が普通ではないでしょうか。しかし、米国はグループ企業単位で見て数千人というレベルの部隊を抱えている例もあります。

 個人的には、情報そのものが商品や直接の付加価値になるような金融や物流という業態と、そうではない業態で「格差」があると考えています。金融などとは違い、ITが自社の商品やサービスの品質や価格に決定的な要因を与えないなら「情報システム部門はいらない、外部に出していこう」という判断はあり得ると思っています。自分の会社が、どちらなのかは、経営やCIOと呼ばれる人が自分たちできちんと判断できなければなりません。

豆蔵執行役員IT戦略支援事業部事業部長の安井昌男氏

 現実に求められているCIOはITジャーナリズムのものとは異なります。ITジャーナリズムは米国の事例などを持ち出して、格好の良いCIO像ばかり追い求めていますが、CEOやCFOと、CIOのロール(役割)を勘違いしてはいけないと思います。もっとも兼務というのはあるでしょうけどね。ともあれ、CIOというロールに、まず求められるのは、ビジネスの遂行に関する「安定性の確保」と「省力化(コスト削減)」です。経営戦略に深くかかわるというのは理想ですが、ITは“インフラ”であることを忘れてはいけません。インフラに求められる可用性やコスト削減を考えた上で、適用業務としてどのような技術が大切なのか、それを一番に考える必要があります。

 そのターニングポイントは90年代半ばにあったと思います。ホスト中心の時代というのは、堅牢性や高可用性を追及してきました。それが90年代後半から始まったダウンサイジングやERPブームなどの流れからおかしくなってきったと思います。

 企業のトップは、ITジャーナリズムが持ち込んだ事例を見て、ITと事業戦略をごっちゃに考え、「自分たちも同じ事をやりたい」「ITを導入すれば業務が整備できる」と勘違いしました。またCIOを名乗って経営から来た人たちも、情報システム部門がどうあるべきかよりも、部門長として実績を上げることしか考えていません。だから、どうしても上層部にアピールできるものばかりに取り組んでいる気がします。

 情報システム部門のスタッフもしょせんはサラリーマンですから、実績を上げないと評価されないという弱い面があります。だから、見栄えの良いフロントばかりをつくるようになり、ベースの部分が軟弱になり、結果としてスピードや柔軟性を失ってしまいました。本当はスピード感を持って早くやりたければ、基盤にしっかり取り組み、インフラを整えておくことが一番なのに、です。

コーポレート・システムの中でのIT

安井 そもそも経営者は、もうかるというかビジネスが成功すればれよいわけで、ITを特別扱いするような意識なんかは、あるはずがない。ITというよりも、インフラとして「顧客と電子メールやデータのやり取りができなかった」とか「ATMや自動改札機が止まった」とかいう問題が重要なのです。

 インフラと言いましても、現在のものを維持していくだけではなく、新たなものを構築するというシーンもあります。そのような場合に、情報システム部門に期待されているのは「本当にそれを実現できるのか」「どうしたら効率良く安くできるのか」という点をテクノロジーの面から考えることだと思います。ITをビジネスにどう使うかという議論も重要です。しかし、テクノロジーという基盤がなくては、いかなる構想も実現は出来ないのですから、やっぱりテクノロジーを軽んじてはいけません。

 基盤とかインフラとかいう話をしていますが、ビジネスのインフラという観点では、アプリケーション・システムもインフラなのです。ネットワークの構築やミドルウェアの整備だけではなくて、アプリケーションソフトウェアの開発においても、要は「基礎的な素養としてのテクノロジー」を疎かにしてはいけないということです。

 これはネットワークやミドルウェアなどITシステムのインフラに関する話なのですが、そういうインフラをやっている人達の評価は非常に低いのではないでしょうか。彼らがつくっているバランススコアカードの項目といえば、ネットワークのMTTF(Mean Time To Failure)ぐらいしかありません。これではインフラをやっても評価されないでしょう。

 一昔前に「情報システム部門はコスト部門からプロフィット部門に転換しなければいけない」という話がありましたが、こういう話が出てくると「華々しいアプリケーションをつくらなきゃ」と考え、どうしてもインフラというか基盤となる部分の重みが縮小してしまう。そうすると、運用部隊が推奨していない技術を使って構築したりして、安定しないし、定着もしない。土台をちゃんと評価してしっかりしたものをつくるということは、テクノロジーという観点からも基本だと思うのですが。

安井 いま考えなければいけない「基盤」には2つの意味があります。1つは、いま論じていたITというテクノロジーという観点からの「基盤」です。そして、もう1つは「組織」という観点からの「基盤」です。どんなに立派なアプリケーションを開発しようとしても、システムのOSに欠陥があれば良いものは開発できません。企業を、1つのシステムとしてみた場合にも同様で、管理部門という企業のインフラ(基盤)、つまりOSがしっかりしていないと、どんなに立派な仕事をしていたとしても不祥事や事故などで企業価値そのものを損ねてしまいます。

 昨今の内部統制などもそのような流れの1つと読めます。“管理部門の復権”といったとらえ方は単純すぎます。本当は、単に「企業が企業としての体を成すために、効率の良いOSからのコントロールが、やっぱり必要だった」と言うことが再認識されてきているだけなのです。

 よく全体最適という言葉が使われます。企業全体を1つのシステムとしてとらえて、基盤から個々の業務に至るまで、きちんと階層化され効率的に機能する構造を設計することが重要です。このようなハイパフォーマンスな企業構造を、豆蔵ではコーポレート・システムと呼んでいます。企業の組織構造や職掌規定などもコーポレート・システムを構成する重要な要素になります。そしてITも、独立した「システム」としてではなく、コーポレート・システムの一環として見るべきものなのです。

IT部門に求められるもの

安井 こうなってくると、もはやムード先行型のITは通用しません。このシステムを取り入れると、業務にどのような良いことがあるのか、コーポレート・システムとしてロジカルに説明できる必要があります。つまり、企業全体のアーキテクチャーを見て、個々のアプリケーションや要素技術がなぜここにあるのか、マッピングして説明できなければなりません。

図1:会社全体を一つのシステムとして考える

 その解になるのは、やっぱりテクノロジーの理解だし、もう1つは物事を整理する力だと思います。企業の情報システムは、ホストからクライアント/サーバ、そしてWebへと変化してきましたが、情報システムの世界というのはテクノロジーに引っ張られる世界です。その意味でもテクノロジーは軽視できません。とはいえ、何も細かいパラメータの設定やAPIの知識を要求しているわけではありません。基本的、基礎的な知識で十分なのです。そして、もう1つの整理する力とはモデリングの力とも言えるでしょう。複雑な概念や見えない事柄を、モデリングや抽象化などのテクニックで整理していく力です。これにより、共通する機能は共通する機能として、整理、基盤化していくことが求められるわけです。

 本当に、アプリケーションの構築の仕方は下手ですね。いまはインフラに近い部分から業務の先端で使われる画面や帳票出力まで、個別に構築しています。

安井 確かにそれは言えていますが、ある意味、避けることはできなかったとも思います。テクノロジーの急激な進化の中で、これは誰も避けられなかったのではないでしょうか。そこで、まずは、これをすっきりさせなければなりません。そうしないと、今後もIT部門は保守に追われ続けて、高いコストも払い続けることになります。経営とITも良いですが、経営から戦略が落ちてくるのを待っていても、いま困っているこの問題は解決されないわけです。

 日本企業の場合は、トップがやれと言ったからといっても、現場がノーといえば「それは仕方がないね」という傾向もあります。現場は個別採算でやっているのだから、自分たちが成果を出しやすいスタイルでやりたい、自分たちの改善は取り入れてほしいと思っているわけです。まずは全体の仕組みをつくって、徐々にマイグレーションしていくソフトランディングなやり方が適しているはずです。

 そうすれば、業務のコアの部分だけを基盤化して、その上にアプリケーションをつくれるようになる。すべて個別に開発するのではなく、最初に共通する部分を最適化して、その上に個別ニーズを載せられるシステムになります。このようなデザインを行うのが情報システム部門の本来の役割ですよね。

 業務の現場の目線で見ると、ITは自分たちのやりたいことを助けてくれればいいだけです。スタンドアロンだろうが、ホストだろうが、ネットワークだろうが、そんなことは関係ないわけです。しかし、いまの現場はITへの被害者意識が強いから、まずは現場の人から信頼されないと、何もできません。

 そのためには、現場の要望を積極的に反映させる必要があります。しかし、これが難しい。現場は、いろいろなことを言ってきます。担当者が変わると、言うことも変わります。全ての「わがまま」を聞いていては、システム部門も疲弊しますし、コストも高く付いてしまう。だからといって、システム部門側の理屈が現場に通じるわけでもありません。そこで、アジャイルというか豆蔵さんの言う「計画された試行錯誤」が必要になるわけです。現場とシステム部門との気づきのスパイラルで開発を進めていけば、急激なやり方でなくても理想的な方向にもっていけると思います。ただし「試行錯誤」を低コストで行うには、良いツールが欠かせません。

 また、現場中心という視点からは、どの業務にもあるデータの入り口と出口を共通化していくアプローチは、わかりやすい方法なのかなと思います。現場との接点であるばかりか、システム全体の統合化と切っても切れない関係にあります。まずは、現場の個別ニーズを吸収しながらも、全社的な集中化と単純化に導いていける。これは、いまの情報システム部門が取り組める現実的なひとつの解だといっていいと思います。

図2:企業全体のシステムから俯瞰した帳票分野からの改善アプローチ

安井 そうですね。“人とシステムの接点(バウンダリー)”に注目するのは自然だと思います。業務がすべてシステムでまかなえるわけではありません。必ず人との接点があり、それが次々に連携して業務が完結するのです。人との接点がある限り、環境の変化に応じてその接点も変化しなければなりません。だから、その接点は変化に強いツールを活用して「安く」「速く」「軽く」さらに「使いやすい」仕組みにすることが重要です。基盤を階層化して人とシステムの接点となる入力基盤や出力基盤をスクラッチによらずツールを活用して実装を考えるのもその1つですよね。

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提供:ウイングアークテクノロジーズ株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年11月26日