ソフトウェア開発のニューウェーブ、エンピリカルソフトウェア工学 (1/2)

短期間化、複雑化が進むソフトウェア開発。その開発データからプロジェクトマネジメントを定量的に行おうとするエンピリカルソフトウェア工学が今、産学連携によってより実践的なものに変化を遂げようとしている。


 近年のソフトウェア開発において、機能および開発プロセスの細分化が進んでいることに異を唱える方は少ない。こうした細分化がソフトウェア開発の短期間化、複雑化を支えていることもあらためて説明するまでもないだろう。

 さらにオフショア開発の隆盛などを併せて考えると、高度に複雑化したソフトウェア開発にあって、失敗するプロジェクトは確実に増加している。そのリスク管理や効率化といった部分を、属人的な経験則だけに頼ることはもはや不可能な状況にある。CMMI(Capability Maturity Model Integration:能力成熟度モデル統合)といったモデルが浸透しているのも、ソフトウェア開発プロジェクトの遂行能力をしっかりと判断し改善したいというソフトウェア産業界のニーズにほかならない。

 こうした中、最近大きな注目を集めているのが「エンピリカルソフトウェア工学」である。ソフトウェア開発の実証データや実績データを定量化/評価し、それをフィードバックすることでソフトウェア開発を効率的かつ確実なものにしていこうとする同研究。2003年からは、文部科学省リーディングプロジェクト「e-Society基盤ソフトウェアの総合開発」の一環として、奈良先端科学技術大学院大学、大阪大学が中心となりEASE(Empirical Approach to Software Engineering)プロジェクト(代表: 鳥居 宏次)を産学連携で進めている。そこでは、データ収集ツール「EPM」、分析ツール「EPM Pro*」、データ品質診断ツール「Magi」、後述する相関ルール抽出ツール「NEEDLE」などの成果物も生まれている。

 エンピリカルソフトウェア工学の海外動向や学術的な知見を有する大学、そして、ソフトウェア産業のフィールドデータを有する産業界との連携。産学連携といえば、産業界から得たフィールドデータを基に分析結果を渡すタイプのゆるやかな連携が一般的であるが、奈良先端大、大阪大では、もっと進んだ形の緊密な産学連携を十数社と進めている。

 以下で紹介する企業も、それぞれ奈良先端大ソフトウェア工学講座との緊密な産学連携の体制の下で、自社内にエンピリカルソフトウェア工学の導入を図ろうとしている。

製品にエンピリカルソフトウェア工学を取り込む日本ユニシス

photo 日本ユニシス共通利用技術部データサイエンス技術室グループマネジャーの海老原純二氏

 日本ユニシスでは、自社製品の中にエンピリカルソフトウェア工学の分析手法を取り入れようと考えている。

 日本ユニシスとの産学連携によって開発されたのは、NEEDLEと呼ばれている相関ルール抽出ツール。一般的な相関ルール抽出機能、知識駆動型/仮説駆動型例外ルール抽出機能をエンピリカルソフトウェア工学が対象とする数値データを扱いやすいよう拡張している。知識駆動型/仮説駆動型例外ルール抽出は対象データからほとんどの場合でうまくいく(常識ルール)ものと、それに当てはまらない(例外ルール)もののペアをみつける。他分野で成果が出ている手法であり、奈良先端大がソフトウェア開発データからも有効な知見が得られないかと目をつけたものだ。

 奈良先端大ソフトウェア工学講座の出したツール要件に基づき、日本ユニシスが同社のデータマイニング製品「Mining Pro21」で培ったノウハウをもとにNEEDLEを実現した。その後、NEEDLEで新規に追加した機能の一部をMining Pro21の次期バージョンで、新機能として組み込む予定でいる。製品という目に見える形で産学連携が企業のビジネス活動に寄与しているという点で、産学連携のメリットとしてより直接的なものであるといえる。

 日本ユニシス共通利用技術部データサイエンス技術室グループマネジャーの海老原純二氏は、産学連携のメリットを次のように回顧する。

photo 日本ユニシス共通利用技術部データサイエンス技術室の若狭心司氏

 「人的なものも含め、大学との交流が図れたことは大きなメリット。産学連携で培われている分析手法を、製品に取り入れる機会が得られたことは大きい」(海老原氏)

 海老原氏と同じデータサイエンス技術室の若狭心司氏は、「ツール要件にあった仮説駆動型例外ルールの論文は、たまたま大学時代に読んだことがありました。それゆえ、大学の研究者の方との話もスムーズに進めることができました。大学からもたらされるSEEDSと、われわれのNEEDS、それらを対等の関係でうまくマッチングできたことが大きな成功要因だと感じています」と話す。

 奈良先端大ソフトウェア工学講座助教の森崎修司氏も、「開発の初期に、合宿に近い形で(同講座)門田准教授や私が持っていたエンピリカルデータ分析に必要な要望をぶつけました。日本ユニシスさんからは製品開発での経験をふまえた提案をいただき、議論しながら仕様を固めていきました。そうした議論から洗練された機能や信頼関係ができたのが成功の一因だと思う」という。

 「今後、このツールを社内の別の開発部門などに利用していきたい」と海老原氏。エンピリカルソフトウェア工学に対する有効性を認め、積極的に社内での横展開を図ろうとしている。

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提供:国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2008年3月23日