ITによるグローバルサプライチェーン変革は国内製造業再興のカギとなるかERP&SCMカンファレンス2011

11月18日に開催された「ERP&SCMカンファレンス2011 〜製造業のさらなる成長に向けて〜」の基調講演に立ったソニー アドバイザリーボード議長の出井伸之氏は「国内製造業も産業の水平化に対応すべき」と指摘。ユーザー企業も自社の取り組みについて語った。

» 2011年12月09日 10時00分 公開
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不安定な社会を切り抜けるため、ビジネスの再定義が重要

クオンタムリープ代表取締役 ソニー アドバイザリーボード議長 出井伸之氏

 「マクロ環境は変節点にある。日本だけでなく世界全体が悪い状況にあり、安定した社会は当面考えられない情勢だ。どこに自社の本拠地を置くか、ということまで考えなければ」

 ソニーのアドバイザリーボード議長を務める、クオンタムリープ代表取締役の出井伸之氏は、基調講演「岐路に立つ日本の製造業、大転換で新たな創造へ」をこう切り出した。

 米国発のリーマンショックに続き、ユーロ危機も迫っている。今までグローバリゼーションの中心だった米国やEUの経済的地位が相対的に低下しつつあるのは明らかだ。そして日本もまた、地位低下が懸念されている。一方で中国など新興国にも、急成長に伴うひずみが生じてきている。

 「かつて企業のグローバリゼーションといえば、まず欧米に進出することだったが、今それが崩れてきている。そして新興国の成長、IT革命や金融革命が進行中だ。世界経済がどうなっていくか分からない中で、まず考えるべきは、20世紀型社会から21世紀型社会への転換ではないか」と出井氏は話す。

 例えば製造業では、産業の水平化が進行中だ。サプライチェーン中にいる企業の繋がり方が変わってきている。まだ日本では従来型の垂直統合が主流だが、世界的には水平統合でのモノ作りが主流になってきている。そうした状況の中で日本の製造業が生き残っていくためには、どうしたらいいのか。出井氏は次のように指摘する。

 「新しい時代の強い企業へと大転換していかねばならない。転換していく方法はいくらでもあるが、どう変わっていこうとするのか、どういう企業にするのか、そういった視点での自社の再定義が重要だ。もちろん変わっていくには10年15年の時間もかかるのだから、経営者は決意を持って取り組まなければ」(出井氏)

 一方、グローバルに経済が停滞しつつある現在の流れを考えると、東日本大震災からの復興を目指している日本は、相対的に悪くない位置につけているとも説明し、次のように呼びかけた。

 「復興により、短期的とはいえGDPが上向くはず。日本はこれから、世界にほめられるフェーズに入ってくるのではないか。ただし、それを一時的なものにしてはいけない。自信を持ち、より魅力的な新しい日本を作っていこう」

製造業は複雑化するサプライチェーンに対応を

東洋ビジネスエンジニアリング 取締役 プロダクト事業本部長 羽田雅一氏

 製造業のサプライチェーンを考える上で、産業の水平化は大きなトレンドだ。これまでサプライチェーンの中間に位置し、納入先だけを見ていれば安定していられたような企業であっても、グローバルなサプライチェーン変革が進む今、これまでにない環境でのビジネスが求められる。製造業のこうした変化に、IT環境も適応しなければならない。東洋ビジネスエンジニアリングの取締役である羽田雅一 プロダクト事業本部長は、「製造業向けSCMシステムの現在と未来 〜世界で闘う覚悟はあるか?〜」と題したセッションの中で、これからの製造業SCM・ERPソリューションに求められる機能を紹介した。

 東洋ビジネスエンジニアリングの「MCFrame」は、製造業に特化したSCMソリューションで、16年余の実績がある。その最初の開発から携わっているのが羽田氏だ。長年に渡ってSCMやERPに関わってきた氏は、日本の製造業SCMの置かれた状況を次のように分析している。

 「生産コスト抑制、現地および周辺国の市場拡大、サプライチェーンのリスク分散、こういった背景から日本の製造業の海外展開は進む一方。システムも、日本の大きな本社を核として在外拠点が接続するようなシンプルな構造ではなくなり、日本が占める割合が相対的に小さくなった。しかも拠点間の連携は複雑になっている。言うなれば『点と線』から『面』への構造転換が進んでいる」

 こうした状況の変化に対し、製造業SCMは「グローバルな標準化・統一化」と「地域の特性に合わせた多極化」の両方が求められてくるという。例えば、拠点を置く国や地域の消費者ニーズに合わせて商品の戦略を練るなどといった多極化が必要な部分もあるが、一方で原材料費や為替の変動に対し柔軟に対応できるようにするには、管理会計だけでもグローバルに標準化・統一化しなければ難しい。

 「システムには、その両立が求められる。ただし、具体的にどのようなバランスにするのか、どういう風に進めていくのかは、各企業の事情によって違ってくる。もはやグローバル製造業SCMに単純な解などない」(羽田氏)

 また羽田氏は、将来的には教育研修のコストを下げ、各地の現地語でマニュアルを作ったりサポートしたりする負担を軽減し、またこれから会社に入ってくる人材がスムースに使えるように、UIや使い勝手を向上させ“マニュアル不要”なシステムが求められてくるだろうと指摘する。

 「在外拠点の進出や撤退が頻繁になることを考えると、現地の管理者の問題が出てくるので、クラウドやモバイルなどへの対応も必要になってくるだろう。我々としては、そういった背景を踏まえて開発を進めていき、それと同時にユーザーやSIerを交えたコミュニティを立ち上げ、継続的なサポートを展開していく」(羽田氏)

言語を共通化し原価計算をグローバルで統一

THK 生産技術統括部 加工開発部 技術支援課 副課長 吉永昭生氏

 「全社6拠点横断型の原価管理で経営情報を可視化、コストセンターからプロフィットセンター化による業務改革事例」と題した事例講演を行ったのは、THKの生産技術統括部 加工開発部 技術支援課の吉永昭生副課長である。

 直動システムのパイオニアであるTHKは、90年代から海外にも生産拠点を展開、2001年に策定した経営目標では、連結売上3000億円、海外売上比50%を目指している。

 そして2009年4月には、収益性向上による経営基盤強化を目的として、経営、開発・生産、営業・販売の各部門にミッションを持たせる「P25プロジェクト」を立ち上げた。そこで必要となったのが、より精度の高い原価管理システムだった。

 「原価管理システムには、各工場や営業拠点などが責任を持つことのできる“責任会計”の仕組み、全部門で同じ基準となる“共通言語”、そして全社横断の分析が可能な“経営分析”の3つが求められていた」と吉永氏は説明する。

 こうした要件を満たすためのシステム基盤として選ばれたのがMCFrameだ。「全工程を通じて原価を積上計算できる」「さまざまな切り口で原価計算ができる」「きめ細かい配賦設定機能」「永続的なサポート」といった点が選定理由だったという。

 MCFrameの導入は、まず岐阜工場でパイロット導入を実施、その結果を踏まえて他の工場に順次展開していくというスケジュールで進められた。パイロット導入は約6カ月を費やしたが、その後は「毎月本稼働というようなスケジュールで」(吉永氏)順調に進んだという。そして現在では国内6拠点の導入を終え、現在では中国の3拠点に導入を進めている段階だ。

 各拠点に共通の環境を整えたことで、これまで拠点ごとの判断に任されていた管理が共通化された。

 「例えば、レールは用意されている長尺材を注文に応じてカットして使うが、その端材を再利用するかスクラップにするかといった扱いは最終的に現場判断だった。これまではシステムの上で全ての端材をスクラップ扱いとしていたのに対し、MCFrameを導入してからはより精度の高い実績データの入力が求められるようになり、再利用可能な端材についは入庫処理を行うなど管理のレベルが向上し、適切な費用計上と原価把握が可能になった」(吉永氏)

 また、製造オーダー単位での原価計算が可能になり、複数の工場が工程に関わるような場合でも、各工場の原価や各製品の原価を正確に積み上げることができ、責任の所在が明確になった。会計についても、財務会計は品目別、管理会計は個別と、異なる粒度で行われているのが、メッシュ切り替えで両方に対応できるという。

 「そして、共通言語を持つことで、部門間で同じ基準で議論することが可能になった。原価や利益、収益について、全社員が同じ基準で議論できる。最終的には、グローバル統一基準で原価計算を共通化する計画だ」(吉永氏)

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