ミッションクリティカルな業務を遂行する“止まらない”クラウド基盤とは?Stratus Uptime Summit 2012 レポート

日本ストラタステクノロジーは11月9日、企業のIT部門担当者やデータセンター事業者をはじめ、クラウドや仮想化システムの導入を検討する顧客に向けたカスタマーカンファレンス「Stratus Uptime Summit 2012」を開催した。同社が主力とする無停止型仮想基盤の有用性を含め、ITインフラのあるべき姿と、それを効率的に実現するための道筋が議論された。本稿ではその模様を、各セッションを通じてリポートする。

» 2012年11月30日 10時00分 公開
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持ち運べるプラネタリウムの誕生秘話

 11月9日、日本ストラタステクノロジーが主催するイベント「Stratus Uptime Summit 2012」が行われた。このセミナーのテーマはクラウドである。そこでまず、クラウド(雲)の先にある「夜空」を緻密に再現するために妥協のない技術を駆使したプラネタリウムクリエイターによる講演で幕を開けた。

大平技研の大平貴之氏 大平技研の大平貴之氏

 「雲のむこうへ、成層圏のむこうへ。空に対するあこがれがあったのです」――。高校生時代に自作のロケットを作っていたという逸話を披露したのは、星空に興味を持ち、自らの手でプラネタリウム装置を作り出した、大平技研の大平貴之氏だ。オープニングとなる基調講演「地上最高の星空作りを目指して 〜MEGASTAR開発ストーリー〜」において、大平氏は、自身が作り上げたプラネタリウム装置「MEGASTAR」がどのように生まれたについて紹介した。

 同製品シリーズは、プラネタリウム装置には不要と思われた「手軽に持ち運べ、使いやすいこと」が構想の発端だった。これは、大平氏が最初に作ったプラネタリウム装置が不慮の事故で倒れ、壊れてしまったことに起因する。そうした背景から、MEGASTARは生まれたのだ。

 壊れないシステムは存在しない。ただし、そうしたことが発生した際、リスクを最小限に食い止めるために私たちは何を考えるべきだろうか。続く以下のセッションでは、最新のITソリューションを紹介しながら、こうした課題に対する解決策が示された。

可用性技術にフォーカスし、安心を手に入れよ

 主催者セッションでは、日本ストラタステクノロジー マーケティング部 プロダクトマネージメント兼ビジネスデベロップメント部長の本多章郎氏が「安心して利用できるクラウドシステムを構築するために」と題した講演を行った。

日本ストラタステクノロジー マーケティング部 プロダクトマネージメント兼ビジネスデベロップメント部長の本多章郎氏 日本ストラタステクノロジー マーケティング部 プロダクトマネージメント兼ビジネスデベロップメント部長の本多章郎氏

 現在、多くの経営者は「クラウドは導入が早くて安い」という認識を持っている。ただし、安易な利用は多大な損失を生む可能性があることも忘れてはならない。クラウドには安心感、ITの用語で言えば、「可用性」が必要なのである。では、その安心感をどのように考えるべきだろうか。本多氏は、現時点におけるクラウド利用の課題と、日本ストラタステクノロジーが考える解法をまとめた。

 NIST(アメリカ国立標準技術研究所)が定義する「NIST SP800-145 Definition of Cloud Computing」にて記載されているクラウドの特徴を見てみよう。

 ・On-Demand Self-Service(利用者での設定が可能)

 ・Broad network access(どこからでも利用可能)

 ・Resource pooling(仮想化などによるマルチテナントが可能)

 ・Rapid elasticity(即時性)

 ・Measured Service(動的な最適化と利用量などの結果の報告)

 本多氏は「これらクラウドの5つの特徴すべてにおいて可用性が必要だ」と述べる。クラウドはコストと時間を節約できるものの、安易な利用は避けるべきだという。

 本多氏は続けて、NISTの文書から企業ITシステムの分化について説明する。効率化を図るためには、どうしても外部には切り出せない一部のオンプレミス向けシステムを除き、仮想化およびサーバ統合、そして、クラウド利用などの形態を選択して利用することが企業では進んでいる。さらにその先を考えると、プライベートクラウドの選択やハイブリッドクラウドの利用を検討し、多岐にわたる環境を業務に合わせて使いこなしていくことになる。

 多岐にわたる環境を選択して使うと口で言うのは簡単だが、実際にはさまざまな環境を横断した運用が不可欠だ。当然、可用性が確保されないことには運用は回らない。では、どの部分に可用性が必要なのだろうか。

 プライベートクラウドの管理者やパブリッククラウドのプロバイダーにとっては、24時間365日、サービス停止が許されないプラットフォームは「止められない」。そこで常に使える状態にするため、監視システム、ログ収集システムは「止められない」。

 一方、クラウドのユーザーにとっては、従来システムとプライベートクラウド、パブリッククラウドの環境が混在するため、データ仲介を行うゲートウェイやオーケストレータは「止められない」。また、さまざまなシステムのユーザー管理を行うシングルサインオンシステムは「止められない」。

 このように、クラウドサービスを提供する側、利用する側それぞれで可用性を必要とする個所が多く存在する。障害が発生するとシステム全体が利用不可能となる「シングルポイント」を見極め、正しいシステムを導入しなくてはならないのだ。

“止めないシステム”をクラウドで

 可用性の確保においては「コストと信頼性は両立できない」と考えられることが多い。とにかく止めないシステムを作るためには、湯水のごとくリソースをつぎ込む必要がある。果たして、これは正しいのだろうか。

日本ストラタステクノロジー 常務執行役員兼Avance事業本部長の河谷徹孝氏 日本ストラタステクノロジー 常務執行役員兼Avance事業本部長の河谷徹孝氏

 続いて登壇した日本ストラタステクノロジー 常務執行役員兼Avance事業本部長の河谷徹孝氏は、同社が“止めないためのシステム”を30年以上提供してきた経験から、「クラウドのサービスレベル確保と採算性両立」を高信頼性仮想化プラットフォームである「Stratus Avanceソフトウェア」で可能にできることを強調する。

 通常、企業がITインフラストラクチャを整理することで、システムは共通アプリケーションと差別化アプリケーションに分けられる。現在、この作業に試行錯誤する企業が多い中、自社のシステムを棚卸しし、どの機能をオンプレミスに残し、何をクラウドに移行するかを戦略的に考えるべきだという。

 コンピューティング形態を選択する指標として、共通化できるようなアプリケーションはパブリッククラウドへ、事業の柱で戦略性の高い差別化アプリケーションはオンプレミスのシステムで構築するということがある。このとき、仮想化/サーバ統合を行い、統一インフラの上ですべてのシステムを動かすのが最終目標のように思われるが、これは必ずしも最適とは限らないという。システムの中には、高い可用性が必要なものがあるからだ。

 そこで、「クラウドインフラの中で“止められない”システムを、高い可用性を実現したプラットフォーム上で動かすべきだ」として河谷氏が紹介するのが、日本ストラタステクノロジーの「FT Pool」という考え方である。採算性を重視しつつ、シンプルかつ低コストで運用できるプラットフォームを利用したいというニーズは大きい。

 このFT Poolをシンプルに実現するのが、Stratus Avanceソフトウェアだ。一般的なIAサーバ2台を用いて、ソフトウェアで可用性、信頼性を確保するとともに、企業が差別化すべきアプリケーションを同社の提唱する「完結型無停止クラウド基盤」上に導入することで、システム全体の信頼性を高められるという。既にこのソフトウェアを基盤とし、クラウドサービスで導入した採用事例も多く存在する。北米で歴史と実績のあるMarathon Technologiesを買収したことで、同社が持つロックステップの技術が今後統合される計画もあるという。

新たな潮流、ネットワーク仮想化の可能性

 ソリューションセッションでは、クラウドを止めないために重要な要素である「ネットワークの仮想化」について解説がなされた。ネットワーク仮想化技術として注目されるSoftware-Defined Network(SDN)について、ストラトスフィア社長の浅羽登志也氏が「SDNの可能性とストラトスフィアSDNプラットフォームの展望」と題した講演を行った。

ストラトスフィア社長の浅羽登志也氏 ストラトスフィア社長の浅羽登志也氏

 クラウドシステムを提供するときに、サーバ仮想化のみではなく、その「つなぎ合わせ」も仮想化することでより柔軟なシステム構築ができる。そこで注目されるのが、SDN、OpenFlow、ネットワーク仮想化といった技術である。

 散らばったリソースを組み合わせ、論理的な1つのシステムとして見せる仕組みを実現するには、論理的なネットワークを仮想的にする、ネットワーク仮想化が必要である。このためには、リソースの管理および構成管理をソフトウェアによって集中制御しなければならない。このコンセプトがSDNであり、SDNコントローラが各ネットワーク機器を遠隔制御するための標準化プロトコルがOpenFlowである。

 これらの3つの技術は、ネットワークの制御をソフトウェアで実施する枠組みで、SDNコントローラが提供するAPIによってネットワーク制御機能をアプリケーションレイヤに解放するためのものである。

 SDNの方式には、ネットワークの各ノードにおける転送方式を設定する「ホップ・バイ・ホップ方式」と、物理マシン同士をIPトンネリングでつなぐ「エッジ・オーバーレイ方式」がある。ホップ・バイ・ホップ方式は各機器に対して一貫性のあるルールを定義しなくてはならないが、きめの細かい制御が可能だ。エッジ・オーバーレイ方式では、より柔軟で詳細な制御が可能だが、トンネルの中身が見ることができないため、トラフィック制御が難しいという。

 ストラトスフィアが提供する「ストラトスフィアSDNプラットフォーム(SSP)」では、エッジ・オーバーレイ方式で、各マシンに対してバーチャルL2スライスを張り、SDNを実現する。トンネリングプロトコルとしてVXLANやNVGREに対応しているだけでなく、ハードウェアでアクセラレートを行うSTTも対応予定だ。SSPでは、従来のVLANでは対応できない1600万テナントを一意に識別できる仕組みを提供する。

 この仕組みでは、既存技術とのハイブリッド型SDNを利用できる点が特徴だ。既にVLANを導入しているシステムでも、データセンター内ネットワークにExternal Switchを導入することにより、ラック内ではVLANをそのまま利用しつつ、ラック間ではVXLANの広大なテナント識別空間を利用できるという。

 SDNの特徴として、APIが解放されることは上述した通りだが、これをもう少し分解すると、クラウド/データセンター事業者向け、二次プロバイダー向け、テナント利用者向けの3層のAPI構造が考えられる。APIを利用シーン、下位層によって整理し、中間層のインフラAPIを共通化すると、クラウド間の連携を標準の広域ネットワークインフラで構築可能になるのだとする。これが、ストラトスフィアが「Expsphere API」と呼んでいるAPIの標準化だ。

 この標準化が実現すると、事業者をまたがりクラウド連携を行うなど、SDNのレイヤを利用してあらゆるネットワークリソースを連携できる。SDNをそうした仕組みに拡張するために、ストラトスフィアは標準化に尽力しているというわけだ。また、SDNコントローラには高可用性が求められる。ここでもストラタスの無停止型システムとの組み合わせでより安定したシステム構築が可能になる。

最新技術でミッションクリティカルなシステム基盤を構築

 製品技術などに焦点を当てたテクノロジートラックでは、日本ストラタステクノロジーが持つ最新のハードウェアおよびソフトウェア、ソリューションなどが紹介された。

日本ストラタステクノロジーでソリューションサービス事業本部 課長代理を務める山下佳寿氏 日本ストラタステクノロジーでソリューションサービス事業本部 課長代理を務める山下佳寿氏

 日本ストラタステクノロジーといえば、ハードウェアによる連続可用性を実現したサーバ製品「ftServer」が著名である。これに加え、Stratus AvanceソフトウェアやMarathon Technologiesの無停止型システム「everRun MX」を用意することで、幅広い分野での適用が可能となる。

 そのハードウェアおよびソフトウェアの両輪を円滑に回すのが“人”、つまり、ストラタスのプロフェッショナルサービスだ。日本ストラタステクノロジーでソリューションサービス事業本部 課長代理を務める山下佳寿氏によると、同社のソリューションサービスでは、既存システムの運用から移行、さらにはソフトウェアの開発まで手掛けることが多いという。アライアンスを組み、その枠組みの中で製品選定しがちだが、コンサルティングから設計、構築、保守をワンストップで行える同社のサービスはさまざまな業種で選ばれているという。

 そのほか、「クラウドとストラタスの融合」をテーマにした講演では、IAサーバ群に加えftServerを導入し、ミッションクリティカルなシステムのための基盤として利用するという提案が行われた。

 次いで、ftServerの実機を、実際に「CPUを停止させる」「電源を落とし、CPU/I/Oエンクロージャを抜く」という疑似障害デモンストレーションが行われた。片系のCPUが壊れたときでもその障害検知を即座に行い、二重化しているもう1つの安全なCPU/ハードが継続して処理を行う様子が聴衆に示された。アクティブ/スタンバイ方式だと、フェイルオーバーの時間が発生し、全体の性能劣化が起きてしまうことと比べると、ftServerのこの挙動は止められないシステム基盤には必須である。加えて、CPUだけでなくエンクロージャ全体を止めるために電源を引き抜いたとしても、ftServer上で稼働するシステムにはまったく影響しないことが証明された。

法的側面からクラウドを考える

 本イベントの最後には、内田・鮫島法律事務所の伊藤雅浩弁護士による特別講演「クラウドサービス利用における契約上の留意点」が行われた。

内田・鮫島法律事務所の伊藤雅浩弁護士 内田・鮫島法律事務所の伊藤雅浩弁護士

 ユーザーがクラウドを利用する上で必ず目を通すべき「利用規約」。実はこの内容は、事業者にとって有利な点が多いという。例えば、「当社は、利用規約を随時変更することがあります」「当社は契約者への事前の通知または承諾を要することなく、本サービスの提供を中断することができるものとします」といった文言だ。これらは、情報サービス産業協会(JISA)が定義したモデル規約として記載されているものだが、実際にこのような文言を読み、その上で「同意」せざるを得なかった担当者も多いことだろう。

 クラウド利用時にデータ障害が起きたとき、はたして事業者に損害賠償責任を問えるのだろうか。伊藤氏は、損害賠償責任を問うために「利用者には超えなければならないハードルが多い」と説明する。先日もデータセンター事業者がオペレーションミスによりデータを消失させた事件があったが、失ったデータの経済的価値の算定が困難であること、免責規定の存在、賠償額上限の設定など、多くの課題が存在するという。これらの課題を無視し「これだけひどい事件を起こしたなら、常識的に考えて免責規定は無効になるはずだ」というユーザーの心情は分かるが、法律の世界では難しいのだとする。

 クラウドの利用においては、クラウド事業者自体がサービスから撤退する可能性もある。これも契約上、「廃止日のN日前までに契約者に通知した場合/サービスを廃止できる」という条項が設定されているものの、企業が倒産するなどの理由で撤退する場合、守られる保証もない。

 さらに伊藤氏は、著名なクラウドサービスのほとんどが海外の事業者によるサービスであることを指摘する。伊藤氏は「多くの有力クラウドサービスは海外のものであり、日本に窓口があったとしても、実際の契約相手は海外である。そのため、準拠法も現地のものが適用される」と述べる。その場合、日本の弁護士では対応が難しく、コミュニケーションの負担や訴訟費用が無視できない。

 クラウドは多くの利点を生んでいるが、リスクも少なくない。一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)からは「クラウドビジネスと法」などの書籍も刊行されており、参考資料も増えてきた。ここで再度、クラウドの法的な側面でのリスクについても洗い出しを行うことが肝要である。

 このように、同セミナーイベントの最後を締めくくる伊藤氏の講演では、パブリッククラウドについての留意点が述べられた。従来型システム、プライベートクラウド、パブリッククラウドの併用、共存、または使い分けをいかに行うかは、ユーザー側でも熟慮し判断せねばならない。その要所において起こり得るリスクへの防衛策を考える上で、可用性の必然性をストラタスは聴衆に対し改めて強調した。

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提供:日本ストラタステクノロジー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2012年12月31日