なぜITとマーケティングの協業はうまくいかないのか?MarkeZineとITmediaエンタープライズの編集長が解決策を探る

相次ぐ競合参入とスマート化する消費者により、企業にはこれまでにないほどのスピードや変化対応力が求められている。そんな中、IT部門は情報戦略をリードしていかなければならない。そのために、顧客を掌握するマーケティング部門との協業は大前提となるはずだが、組織の“壁”に阻まれているケースは多い。日本IBMが、マーケティング部門の代弁者としてMarkeZine編集長の押久保剛氏、IT部門の代弁者としてITmediaエンタープライズ編集長の大津心氏に、ITとマーケティングの協業のあるべき姿を聞いた。

» 2014年07月28日 10時00分 公開
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※この記事は、IT部門へのメッセージをより多く掲載できるよう編集しています。マーケティング部門向けはこちら

IT部門は“ファーストペンギン”を目指せるのか?

−スマートフォンやSNSの普及は、顧客が積極的に情報を収集し、購買活動を行うことを可能にしました。このような顧客の変化に伴って、企業の採るべき戦略も必然的に変わっていくと思います。企業における現状と、今後採るべき戦略についてお話いただけますでしょうか?

MarkeZine 編集長 押久保剛氏 MarkeZine編集長 押久保剛氏

大津氏 そうですね、発想の転換が必要なのかもしれません。見えているものを改善するというだけでなく、見えていないものを生み出す、つまり新たな価値を生み出すために顧客の声を利用するという発想が重要だと思います。今はまだ、改善のためにだけ顧客データが使われているという状況ではないでしょうか。

押久保氏 マーケティング部門も同じ状況です。この施策は反応が良い、あるいは悪いといった結果だけに関心を払っていると、どうしても効率化やコスト削減に偏りがちになってしまいます。マーケター本来の仕事は、新たな顧客を自社に振り向かせ、自社のマーケットそのものを拡大していくことです。そのための顧客データだと思っています。

大津氏 なるほど“ファーストペンギン”、つまり新しい市場に最初に飛び込むために、顧客の声を聴くということですね。ビッグデータの活用環境が整いつつある中、膨大な顧客の声は既存のビジネスの延長ではなく、新たな市場を作るために活用する、という考え方の方が現実に合っていると思います。

押久保氏 そうですね。データを活用して顧客のインサイトを発見するような、攻めの方向性を大きな戦略とするのが良いのではないでしょうか。企業には、顧客の声を中心に据えた顧客中心の戦略が求められていると思います。

大津氏 クラウドの出現により、インフラの運用保守業務が不要となり、予算と人が削減されている現状は深刻です。IT部門が考えるべきことは、売り上げに貢献していく“攻めのIT”です。ここに、チャンスがあるのだと思います。

ITとの連携が前提に!マーケティングによるスピード重視の“個客”対応

−顧客中心の戦略を実現するために、現在のマーケティング部門とIT部門に求められる役割、果たすべき役割とは、どのようなものでしょうか。

押久保氏 マーケティング部門が求められていることは、スピード重視の“個客”対応です。B2Cの企業なら24時間365日、顧客に対応しなければならないことも珍しくありません。マーケティング施策が、従来のマス広告から、パーソナライズを可能にするデジタルマーケティングへと大きくシフトしています。一人一人に的確にアプローチしなければ、企業側の発信するメッセージもなかなか伝わりません。そのためには、IT部門と連携していくことは大前提となっています。

ITmediaエンタープライズ編集長 大津心 ITmediaエンタープライズ編集長 大津心

大津氏 クラウドサービスの利用により、保守運用のための作業は削減されつつあります。今IT部門が考えるべきことは、業務部門と一緒にビジネス課題に取り組み、その課題を解決するための“攻めのIT”を実現することです。また業務部門のITリテラシーを高めていくという役割もあります。

−そうした役割を果たすために、今後両部門にはどのような取り組みが必要となってくるのでしょうか。

押久保氏 Amazonやセブン−イレブンなど、勝ち組と言われている企業は、膨大な顧客データを分析することで、消費者が何を欲しがっているのかをリアルタイムに知ることができる。言い換えるなら、顧客データを発想の源にして自社のビジネスを組み替え、データ活用のPDCAサイクルを効率的に回すためにITをうまく活用しています。それが勝てる企業の条件だと思います。マーケティングにおいて、ITの利用はもはや必要不可欠です。人力では到底対応することができません。IT部門と連携し、スピード重視の“個客”対応を実現することで、具体的な成果を上げていくことが可能になると考えています。

大津氏 “攻めのIT”を実現するためには、新しいテクノロジーを日々、積極的にキャッチアップして、使えるものはどんどん取り込んでいくことが必要です。ITは、いわば道具に過ぎません。IT部門は、いかにユーザーに意識させることなく、新たな仕組みを提供していくかに配慮する必要があります。運用だけのIT部門は将来的になくなっていくでしょう。

売り上げを作る観点を持てないIT部門、ITを理解しないマーケティング部門

−実際の現場では、両部門の連携がうまく図られていないという話をよく聞きます。なぜそのような状況が生まれるのでしょうか。

押久保氏 マーケター側はITに明るくないことも多いため、「こうした施策がやりたいので、すぐ環境を用意して欲しい」とお願いした場合に、IT部門から「不可能ではないがコストがかかりすぎる」や「そのスケジュールでは…」と言われるケースがよくあります。さらにマーケティング部門には「ITは難しい、分からない」といった先入観があり、積極的にITを勉強しようとしないところは問題ですね。

左)大津、右)押久保氏

大津氏 「これがやりたい」や「それは無理ですね」というやり取りは、IT部門とマーケティング部門の間ではよくありますよね(笑)。1000万円くらいかかるところを、相場が分からずに100万円くらいで依頼されることもよくあります。そもそもIT部門にとっては、システムを落とさないこと、コストを抑えることが最大のテーマでそれが評価軸になっています。売り上げに貢献した業務が評価対象となれば、モチベーションは大きく変わるでしょうね。例えば、業務部門の下にIT部門を配置するのも一つの解だと思います。もしくは、社内クラウドのように、サービスとして立ち上げ、各部門が利用した分をIT部門に支払うような形でも良いかもしれません。KPIを業務部門と同じにしてしまうような、目標の統一があると良いですね。もちろん、これは経営者の判断となりますが、「鶴の一声」で組織が大きく変わる企業も出てくるのではないでしょうか。しかし、今のIT部門はコスト削減や運用保守に関わるKPIばかりを追わざるを得ない。だから業務部門を積極的にサポートする気にもなりにくい。つまり今のIT部門は、業務部門と向いている方向が違うのです。

押久保氏 ITとマーケティングの向いている方向が違うというのは、私も同感です。相手の業務内容を理解していないため相互理解ができず、いがみ合ってしまうという状況になるのだと思います。先ほど、IT部門は仕事がなくなっているというお話がありましたが、実はマーケティング部門もオートメーション化が進み、状況としては似ています。IT活用の基盤が整えば、非常に優秀なマーケターが一人いるだけで事足りる可能性もあります。顧客にアプローチするためのシナリオを100パターン作っておいて、それらの施策の仮説検証をたった一人で回すことも不可能ではありません。つまりITを有効に活用すれば、マーケティング部門にはそんなに人は要らないのではないかという話にもなってきます。

大津氏 IT部門の方が状況は深刻ですが、インフラのところは削減して、それ以外に投資しましょうという流れは同じですね。

押久保氏 はい、マーケティング部門も人ごとではないんです(笑)。むしろテクノロジーに詳しいIT部門の人が、知識を身に付けてマーケティング領域に乗り出してきたら、今のマーケターは不要になってしまう。IT部門の人たちがマーケティング部門にとっては脅威になるということです。だから私は技術のことをよく知っているIT部門の人がとてもうらやましいんです。

大津氏 そんな風に思われているとは知りませんでした。IT部門は、コスト削減のような内向きの施策だけを見るのでなく、もっと外に目を向けるべきだと伝えていかないといけないですね。経営側にIT部門の有用性を分かってもらうためにも、自分たちから声をあげていかないといけないと思っています。

顧客中心のシナリオを軸にしたコラボで生き残れ!

−よりスムーズな連携を図ることが、会社全体の業績アップにも繋がると思いますが、自部門を相手に理解してもらうために、どんな取り組みが必要だと思われますか。

大津氏 システムを落とさない、コストを下げるという今の評価軸がある以上、IT部門の視点を内向きから外向きに変えることはなかなか難しい。だからこそ、IT部門をコスト削減の方向しか考えていない経営側に、自らボトムアップで伝えていく必要があります。攻めのITで積極的に投資して他社を出し抜いていくことを伝えていかなければなりません。

押久保氏 マーケター側は、テクノロジーを使えばどんなことができるのかといった基本的な知識がなければ、ITの効果的な活用もままならない。そのことは十分肝に銘じておくべきだと思います。ただしマーケティング部門単独では、なかなか難しいところです。ここはIT部門の人たちとぜひ協業したいですね。

大津氏 両部門が同じ方向を向くために、顧客シナリオ、あるいは顧客体験といったものをマーケティング部門と一緒に作り上げることは非常に有効だと思います。顧客を中心に据えて、彼らの要求をいかに吸い上げられるか。その課題に対し、まずはマーケティング部門と一緒に取り組んで、顧客により高い価値を提供できれば、会社全体の価値が上がるからです。

押久保氏 そうですね。顧客中心の戦略を企業全体で取り組むために、技術やITを活用する、この順番が大事だと思います。その時にテクノロジーを理解せずにIT部門と会話をするのは、とても非効率です。これからのマーケターは、IT部門の人たちがマーケティング領域に乗り出して来る前に、顧客シナリオを生み出すという自分たち本来のスキルに磨きをかけることにも専念していく必要があると思います。

大津氏 現在は両部門の間には壁があり、経営視点でなければなかなか解決しにくい問題だと思いますが、顧客を中心に据えた現場レベルでの取り組みは、その壁を壊す一つの突破口になるのではないでしょうか。それが厳しい競争を生き抜く原動力となり、企業活動で潜在的な顧客を見つけ出せると思います。

−企業が勝ち残るためには、顧客中心のシナリオを企業全体で取り組むことが必要だということですね。日本IBMでも、企業戦略やサービス戦略等を具現化し、関係者全員で共有するためのコンサルティングサービス「顧客体験シナリオ・アプローチ・サービス」で、顧客中心の一貫したサービス提供の実現までをご支援していきたいと思います。

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提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2014年8月27日

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