「脱PC」で働き方改革を――2万人が利用する販売支援システム開発、元SE情シスの挑戦

PCに依存しない販売支援システムを実現し、働き方改革を進めたい――化粧品販売を手掛けるAOB慧央グループの情シスは、国内では導入例が少ない「Heroku」に目を付けた。パートナーも決まり、いざ開発……という時に意外なポイントでカベにぶつかった。

» 2018年11月16日 10時00分 公開
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販売現場の情報を分析し、マーケティングに生かしたい

 AOB慧央グループ(以下、AOB)は、「アルソア」ブランドで知られる化粧品や健康食品、浄活水器などの製品開発および販売を全国的に広く手掛ける会社だ。同社のビジネスモデルは、「ビューティーカウンセラー」と呼ばれる販売員による訪問販売をベースとしており、全国に2万人以上いる販売員が同社製品の販売活動に日々当たっている。

 そんな同社のビジネスは数多くのITシステムによって支えられており、特に日々の販売活動を支える販売支援システムや、顧客一人ひとりの情報を管理する顧客データベースは極めて重要な位置を占めている。しかし、同社IT戦略推進室のマネジャーである中飯田明秀氏によれば、これらのシステムはすでに導入から17年を迎え、使いやすさという点では大きな課題を抱えていたという。

photo AOB慧央グループの本社は山梨県北杜市にある。緑に囲まれた土地で化粧品や健康食品の開発を行っているという
photo AOB慧央グループ IT戦略推進室 マネジャー 中飯田明秀氏

 「弊社は化粧品、食料品、また近年では農業と、さまざまな分野の事業を展開しており、それぞれでお客さまの情報を個別に管理していました。そこで2年前にSalesforceを導入し、事業ごとに分かれていた顧客情報をSalesforceのデータベース上に統合する取り組みを進めています。

 また、販売現場では日々さまざまな情報が生成されており、販売支援システム上には蓄積されるものの、それを販売員に共有し、情報提供を行う仕組みがありませんでした。これらの貴重な情報を広く可視化し、マーケティングデータとして、販売活動で有効活用してもらう方法はないかと検討していたのです」(中飯田氏)

 同社では現在、製品の製造から在庫管理、さらには販売までの一連のサプライチェーン全てを可視化できる仕組みの構築を進めており、その一環として販売情報を可視化、共有できる方法を模索していた。既に現場の販売員には、販売支援システムに製品の受発注情報を登録できるインタフェースを提供していたが、システム自体が古いこともあり、PCからログインして利用する必要があったため、使いにくいという声があがっていたのだ。

 訪問販売という業態であることもあり、PCを持ち歩かない販売員も少なくなかったうえ、無理にシステムの利用を強いるのも難しい。そのため、このシステムはなかなか現場に浸透せず、紙やFAXでの受発注処理もまだまだ多くの比率を占めていた。

 システムを介さない情報が流通することで、「人気が高い製品は何か」といったマーケティング上、重要な情報を十分に集約できず、中飯田氏らが目指していた、現場のペーパーレス化や働き方改革も思うように進まなかったという。

 一時は、既に導入していたSalesforceの仕組みを使って、現場の販売情報を取得する仕組みを構築しようかとも考えたが、2万人以上いる販売員分のライセンスを購入するとなると、コストがかなりかさむため、投資を回収するのは難しいと判断。この方法を見送ったという。

アプリケーション開発、運用プラットフォームとして「Heroku」を採用

 現行の販売支援システムは、Internet Explorer(IE)の利用を前提としたWebアプリケーションとして構築されていたが、IEの製品存続が不透明な状況であることからも、現行システムの古いアーキテクチャをいち早く刷新する必要性は明らかだった。

 そこで中飯田氏が目を付けたのが、Salesforce.comが2010年に買収したPaaSサービス「Heroku」だった。Herokuは、Webアプリケーションの開発、実行、運用を全てクラウド環境上で行うことができる。これを採用することで、現行システムが抱えているさまざまな課題を一気に解決できるのではないかと踏んだのだ。

 「現行システムは、当初はオンプレミス環境上で開発、運用し、その後AWS(Amazon Web Services)のパブリッククラウド環境に移行しました。しかし、ハード面でのコスト削減はできた一方で、構築や運用の手間は相変わらず削減できないという課題が残ったのです。それに比べてHerokuであれば、サーバ構築やアプリケーションの運用作業がほぼ不要になるため、コストを更に削減できるのではないかという期待がありました」(中飯田氏)

 中飯田氏は早速、Herokuを使ったサンプルWebアプリケーションを試しに開発してみたところ、わずか半日ほどでアプリケーションの開発、実装、リリースまで完了してしまった。「これは使えそうだ」。もともと、システム開発の仕事に長年従事していた技術者としての勘でそう感じ、Herokuを使った現行システムのリプレースを決断した。

 しかし当時(2016年)はまだ、Herokuを使った業務システムの開発事例は国内ではほとんど存在せず、開発を依頼できるベンダーの数も少なかった。セールスフォース・ドットコムからは3社の開発ベンダーの紹介を受けたが、その中で、最も信頼できると感じたベンダーがパソナテキーラだったという。

 「パソナテキーラさんと、現行システムの開発を担当したベンダー、そしてもう1社の計3社によるフィジビリティ・スタディーを行いました。弊社の販売業務は極めて複雑なプロセスなのですが、それを正確に理解し、かつHerokuに関する深い知見を基に、的確な提案をいただけたのが、パソナテキーラでした」(中飯田氏)

「え、請負契約じゃダメなんですか?」

photo パソナテキーラ 第一事業部 シニアマネジャー(テクニカルアーキテクト)福丸慎治氏

 パソナテキーラでテクニカルアーキテクトを務める福丸慎治氏によれば、当時、国内でHerokuを使った業務システム開発の事例がまだ少ない中、同社では、既に豊富な開発ノウハウを持っていたという。

 「パソナグループ内のシステム開発でHerokuを採用した事例が複数あり、Herokuに関する技術的なノウハウは蓄積されていました。従って、AOB慧央グループ様からうかがった要件も、技術的には特に問題なくクリアできる見込みがありました」

 しかし、思わぬところで課題が生じた。システム開発の発注は一括請負で行われるのが一般的だが、パソナテキーラからは一括請負契約ではなく「準委任」での契約を提案されたのだ。

 準委任契約とは、「定められた期間中、開発業務を行うこと」をコミットする契約形態であり、請負契約のように「期間中に製品を完成させること」や「開発物に瑕疵(かし)があった際に無条件で対応すること」といった点には責任を負わない。一見すると発注者側に不利な契約形態のようにも見えるかもしれないが、「本当に良いシステムを作ろうと思えば、請負契約より準委任契約の方が適している」と福丸氏は述べる。

 「請負契約では、あらかじめスコープとして定めた範囲しか開発を行いません。また、必ずモノを完成させなければいけないため、どうしても技術的なチャレンジを避ける傾向があります。結果として、期間や予算に余裕があったとしても、そのプロジェクトのリスクを回避するために、新たな機能や技術を導入してより良いものを作ろうという動機は生まれにくくなり、投資対効果の低いシステムが出来上がってしまいがちです」(福丸氏)

 その点、準委任契約はもろもろの制約に縛られない分、プロジェクト途中で発生した新たな要件にも柔軟に対応でき、かつ新たな技術にも積極的にチャレンジしやすいという。また開発の進め方も、請負契約では全ての作業をベンダーに任せ、発注側は進捗管理のみを行う、いわゆる“丸投げ”開発になりがちだが、準委任契約は発注側とベンダー側が密接に連携しながら共同作業を行う、アジャイル型の開発と親和性が高い。

 「システム構築に関わるタスクを全てベンダーに任せるのであれば、確かに請負契約の方が適していますが、『自分たちの方がこのシステムに詳しいのだから、より良いものを自分たちで作ろう』というお客さまの場合は、明らかに準委任契約の方が適しています。弊社では、このような考えを持つお客さまと準委任契約でシステム開発を行っています」(福丸氏)

準委任契約のメリットを生かして実現したLINEアプリケーション

 こうした準委任契約特有のさまざまなメリットを検討した結果、AOB慧央グループでも最終的には準委任契約でパソナテキーラに開発を依頼することになった。当初は若干の不安もあったものの、実際に開発プロジェクトが始まると、不安はすぐに払拭されたと中飯田氏は話す。

 「要件定義、設計、開発と、プロジェクト内で実際に行うことは、請負契約も準委任契約も同じです。むしろ、準委任契約では発注側と受託側の間の距離が近く、開発の進捗度合いがより細かく具体的に把握できるので、逆に安心感が増しました。

 また準委任契約は、追加開発の多発で費用が制限なく膨れ上がるというイメージを持つ方もいますが、実際には作業内容が可視化され、開発の優先順位なども細かく調整できるため、コストはむしろ大幅に低減できました」(中飯田氏)

 今回、準委任契約のメリットを存分に生かして実現できた機能の1つに、「LINEを活用したアプリケーションインタフェース」がある。販売員が日常的に使うITツールはさまざまだが、全員に共通しているのが「LINEを使いこなしていること」だった。

 たとえPCに不慣れな人でも、気軽に使えるような“ユーザーに優しい”システムを作ることをプロジェクト当初から目標にしていたこともあり、LINEから商品の受発注や顧客情報の照会などを行えるアプリケーションを作れば、現場でも積極的に利用してもらえると中飯田氏らはにらんだ。

 そこで、既に開発プロジェクトは走り始めていたものの、パソナテキーラに「LINE向けアプリケーション開発の追加」を打診したところ、他の開発スコープとの優先順位を調整した上で、LINEからアプリケーションを呼び出して利用できる機能を、新たに開発スコープに加えることで合意。スマホのLINEアプリ上から、わずか数タップで販売支援アプリケーションの画面を呼び出せるようにした。

 ユーザーIDとパスワードの入力すら不要なため、ストレスなく気軽に利用してもらえるほか、スマートフォンに対応したことで、場所を問わずに使うことができる。

photo 開発したLINEアプリケーションの構成図

 さらに、このアプリケーションはバックエンドの販売支援システムとつながっており、受発注データをその場でシステムに登録することで、販売員の業務負担を減らせるだけでなく、現場の販売情報をその場でシステムに反映することで、より正確な経営指標をリアルタイムで経営層に提示できるようになるという。

 既にこのアプリケーションの試験運用は始まっており、現場の販売員からは使いやすいと好評だという。2018年10月から段階的に導入を始めており、徐々に適用範囲を広げていく予定だが、その際のシステム拡張も、Herokuのアプリケーション実行プラットフォームが備える高いスケーラビリティによって担保できるという。

 今後も適宜新たな機能を加えていく予定だが、中飯田氏によれば、今回新たに準委任契約を採用したことで、システム開発を発注する側の意識も大きく変わったという。

 「ベンダーと密接に連携しながら、共に開発を進めていくことで、発注側もベンダーに丸投げするのではなく、『自分たちの手でより良いモノを安く作るのだ』という意識がチーム内にも高まったと実感しています。このように今後は、『より良いモノを作る』という共通の目的の下に、発注側とベンダーが歩み寄ることで、互いにWin-Winの関係を作れるようになると期待しています」(中飯田氏)

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提供:株式会社パソナテキーラ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2018年12月10日

パソナテキーラ