鉄道業界でも進む「クラウド化」 東急、京王の先進事例が語るその効果業務効率化から新サービスまで

首都圏を中心に多くの利用者がいる鉄道は、なくてはならない重要な社会インフラだ。ITシステムを含めてレガシーなイメージが強いかもしれないが、昨今ではAIやIoTを含めたデジタル化が進んでいる。その変化の最前線を東急電鉄と京王電鉄が語った。

» 2018年12月10日 10時00分 公開
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 通勤から旅行まで、市民の“足”として日々使われている交通インフラ「鉄道」。レガシーな業界ではあるものの、最近では、AIやIoTといったトレンドも含め、列車の運行管理から業務効率化まで、さまざまなシーンでIT活用が進んでいる。

 では、先進的な企業はどのようにITを活用しているのか。クラウド型コンテンツ管理プラットフォームを提供する米Boxの日本法人であるBox Japanは2018年11月、鉄道業界におけるクラウド活用に関するイベント「Box Japan 鉄道業界フォーラム 2018」を開催した。この記事では、IT活用のヒントになるさまざまな講演の内容をご紹介しよう。

ダイヤ乱れ時における「情報共有の重要性」

photo 千葉工業大学 情報科学部 情報工学科の富井規雄教授

 フォーラムではまず、千葉工業大学の富井規雄教授が「鉄道におけるダイヤ乱れ時の対応」をテーマに講演を行った。

 富井氏は、ダイヤ乱れ時の復旧や、遅延の波及防止などに関する鉄道のスケジューリングアルゴリズムを研究している。ダイヤ乱れの原因には、機器故障や事故、自然災害、計画運休などが挙げられる。国土交通省の報告によると、2017年度において、列車の運休や30分以上の遅延などの“輸送障害”は5846件発生したという。

 首都圏を中心に多くの利用者がいる鉄道は、なくてはならない重要な社会インフラだ。ひとたび電車が止まると、多くの乗客に影響が出てしまう。特に再開時期や迂回路の有無といった情報伝達が適切に行われないと、ユーザーの不安や不満が膨らむ要因になる。

 台風の際など、ダイヤが大幅に乱れた際、終点が変わったり、ダイヤが変わったりした経験はあるだろう。こうした「運転整理」は、駅間で長い時間電車が止まるのを防ぐために行われる。

 運転整理は一般的に「混雑状況、顧客の数などの状況把握」「方針の決定、運転整理案作成、コンピュータへの入力」「利用者を含めた関係者への連絡」といった手順で進む。しかし、複雑で大規模な路線変更の組み合わせを迅速に解く必要がある一方で、情報の収集と伝達に時間と労力がかかっていた。また、利用者からの苦情を最小にするような工夫も求められる。

 富井氏は、欧米や中国において、運転整理に関する研究や実例化の動きが進んでいることを事例を示しながら紹介。運転整理のアルゴリズム技術は今後も発展すると説明し、「利用者を含めた、より良い情報共有の仕組みが必要になる」と語った。

“インフラ点検部隊”が提供する、東急の新サービスとは?

photo 東京急行電鉄 鉄道事業本部 電気部計画課 課長の矢澤史郎氏

 富井氏に続いて登壇したのは、東京急行電鉄(東急電鉄)の矢澤史郎氏だ。矢澤氏が所属している「電気部計画課」は、電気設備の点検などを行う「電気部」の中で、業務効率化のアイデアなど、新たな取り組みを進めるのがミッションだ。現在は矢澤氏を中心に、ICTを活用したさまざまな取り組みやサービス提供を推進しているという。

 電気部計画課は、2015年から始まった中期3カ年計画の一環として発足。近年、東急電鉄は沿線人口が増加し、設備の数が増える一方で、少子高齢化で労働力が確保しづらく、知識が属人化するといった問題を抱えていた。その中でも「異常時の早期復旧」が喫緊の課題だったそうだ。

 こうした課題を解決すべく、2015年度には現場業務の支援端末として「iPhone」「iPad」などのiOS端末を導入。異常時における現場状況の早期共有や利用者サービスの向上、そして業務効率化を図った。現在では、2800台程度が配布されており、その約8割が毎日、そしてほぼ全員が週2、3回以上利用しているという。

 その他にも、スマートフォンアプリ「東急線アプリ」内で、駅の混雑状況を配信するサービス「駅視-Vision」を提供したり、ホームドアや時刻表にデジタルサイネージを設置したり、構内カメラ画像を自動解析する「転落検知システム」の運用を開始したりするなど、鉄道利用客へのサービスも提供している。

photo 東急電鉄では、スマートデバイス活用から、新サービスの開発までさまざまな取り組みを行っている

異常時の復旧に「Box」はどう役に立ったのか

 懸案だった「異常時の早期復旧対策」には、Boxが役に立っているという。矢澤氏は、Boxの導入について「迅速な情報共有が最大の目的です。ツール導入に伴うリスクはIT部門と衝突が起こることもありますが、全社で課題が認識されていたこともあり、Box導入に反対する声はなく、検討開始からわずか2カ月半で稼働できました」と振り返る。

 異常が発生した際、従来は駆け付けた作業員が現場の様子をカメラで撮影し、現場から事務所へ移動。データをPCに取り込んだ後、ファイルサーバへアップロードするという手順を取っていた。これでは、状況を伝えるためだけに30分以上かかってしまうことからBoxを使い、スマートフォンなどで撮影した写真や、動画、音声などをすぐに共有できるようにした。

 導入当初は、主にファイルを自動で指定したBoxフォルダへ保存する「Box Capture」を使っていたが、現在は同時編集も可能なドキュメント作成ツール「Box Notes」を中心に使っているそうだ。現場の状況、指示や時系列が一目で把握でき、関係各所への報告から、上長からの作業指示まで、リアルタイムで行えるという。

 「1つの操作でストレスなく、撮影した写真や動画が迅速に共有できるところがいいですね。また、操作手順がシンプルなので、従業員への教育コストがほとんどないのも魅力的です」(矢澤氏)

photo Box導入の効果。異常時における判断や対応のスピードアップにつながったという

 また、現場だけでなく本社部門の業務も改善できた。現場にまつわる情報をすぐに参照できるようになり、資料の準備や移動にかかる時間が削減できたためだ。「ワークスタイル変革による、生産性向上にも寄与しています」と矢澤氏は強調する。

 今後、東急電鉄ではBox活用の幅をさらに広げる予定だという。個々の業務データをBoxとその連携システムに集約、蓄積することで、業務基盤としての役割を強めていく構えだ。また、蓄積したデータを解析することで「定期的な点検から、常に状態を監視する形に進化させたい」(矢澤氏)と意気込む。

 さらにAI(人工知能)による予兆監視や未然防止につなげるプロジェクトも進めているとのことで、矢澤氏は「新しい技術で保安度を高め、結果的に安心かつ安全な輸送につなげていく。これが技術側から考えるイノベーティブなアイデアだと考えています」と講演を締めくくった。

「技術の空洞化」が進んでいた京王電鉄、復活のカギは?

photo 京王電鉄 経営統括本部 IT管理部長の虻川勝彦氏

 続いて登壇した京王電鉄の虻川勝彦氏は、矢澤氏とは逆にIT部門の立場からクラウド化や業務効率化などの改革を進めている。講演では、2013年ごろから着手したクラウド導入や、コスト的にシステム化しにくかった業務をアプリ作成ツールで次々に内製し、効率化する取り組みなどが紹介された。

 長い歴史を持つ京王グループでは、オフコンを中心とした、業務と乖離したレガシーなシステムが残っていたり、個別最適中心でコード設計やデータ設計などが全社的には適切に行われなかった結果、データの重複入力が発生していたり、アウトソーシングによって技術力が下がっていたりと、さまざまな課題に直面していた。ITコスト削減も求められる中、さらなる生産性の低下や運用の破綻が起きる前に、業務改革に取り組むことにしたという。

 「IT部門は机上の作業に時間とコストをかけすぎていたように感じます。過剰なアウトソーシングで技術力も下がり、ベンダー提案の評価すら十分にできていないものもありました。その結果、コスト高・スピード感のなさ等でユーザーはIT部門に対して不信感を抱き、一方のIT部門は仕事のモチベーションが下がるという負のスパイラルに陥っていたと思います」(虻川氏)。

 そこで虻川氏は「クラウド活用」と「システム内製化」を軸にして、ユーザーの期待に応える体制を育てようと決断。短納期でローコスト、そしてアウトプットを見せながら進める「アジャイル開発」に近い手法を用いることで、ユーザーの要望に対して、柔軟に対応できるようなシステム開発体制を目指した。

 「いきなり多くのことに取り組むのではなく、クラウド活用と比較的簡易なアプリの内製化に絞ることで、開発現場の混乱を防ぎました。クラウド化については、SaaSでできることはSaaSで、どうしてもできないものはPaaS、IaaSに落とす方針を決め、業務への影響が少ない部分からスタートしました」と当時を振り返る。

 例えば、虻川氏が6年間在籍していた京王バスでは、2011年からクラウド活用を始めた。活用当初は、eラーニングやプロジェクト管理といった、仮にシステムが停止しても業務への影響度の低いシステムから手を付けはじめ、徐々にグループウェアや公式Webサイト、ファイルサーバなど、多くの人に触れるシステムもクラウド化。

 最終的には、ダイヤ編成やネットワーク監視、高速バスの予約システムなど、ビジネスに直結する基幹システムにも導入し、コストの最適化やBCP対策、ビジネス変化への対応といった効果が得られたという。

photo 京王グループにおけるクラウドインフラの構成図

システム内製化の効果は「ユーザーからの信頼」と「意識改革」

 一方、システム開発の内製化については、aPaaS型アプリ作成ツール「kintone」とEAI(システム間連携)ツール「DataSpider」を活用している。虻川氏はkintoneについて「簡単に言えば、データベースとワークフローとコミュニケーションツールが組み合わさっていると考えると分かりやすい」と解説した。

  「kintoneは“文字通り”誰にでもアプリが作れるのが特徴です。IT部門でなくても一般的なオフィスアプリが使えれば、60分もレクチャーすれば簡単なアプリは作れるようになります。Kintoneは多少機能面や使い勝手を犠牲にしている部分もありますが、その分、構築スピードやコストについては大きなメリットがあると考えています。現場からは『そんなシステム信用できない』という声も上がりましたが、そういった方ほど、システムを知るとよく使ってくれていますね」(虻川氏)

 京王バスでは「遺失物管理システム」「添乗評価システム」「指導履歴システム」などを開発。遺失物管理システムについては、既存のパッケージソフトの約5分の1以下のコストで構築できたという。現在では、京王電鉄でもkintoneやAWSを導入し、スピーディな業務改善に取り組んでいる。

photo 実際に京王バスがkintoneを使って開発した「遺失物管理システム」

 「ユーザーとの意識の乖離が減り、信頼を得られるようになったこと、そして、IT部門の意識改革のきっかけになったことが、内製化の大きな効果だったと考えます。机上の検討ではなく、まずやってみることが大切ですね」(虻川氏)

 2018年5月には、電気通信大学の坂本真樹教授とベンチャー企業「感性AI」を設立。「感性とテクノロジーをAIでつなげる」というコンセプトのもと、オノマトペ(擬音語・擬態語など)を活用し、企業の製品開発やマーケティングをサポートするべく、事業を展開している。

 AIやIoTといった新技術を用いたビジネスにチャレンジするのは、新たなノウハウをグループ各社に還元し、デジタルディスラプターのような企業に「手を組むべき企業」としても認めてもらうことを目指しているためだという。

企業の情報管理とコラボレーションの在り方を変革する「Box」

photo Box Japanの高山清光氏

 イベントの最後には、Box Japanの高山清光氏が「未来の働き方、未来の事業創出に効くBox」というテーマで講演を行った。

 Boxは現在、米国では約9万社が利用しており、日本国内では約4000社が導入している。高山氏は「企業向けに特化しているので、高いセキュリティが担保でき、容量無制限というコストメリットがある。検索性にも非常に優れており、Boxを使うことで検索時間をゼロにできる」と自社製品の優位性を強調した。

 また、多くの企業が「コンテンツの断片化・分散化」という課題を抱えていると指摘。その傾向は、クラウドの導入後も変わらないという。Boxは他の業務システムとAPIで連携できるなど、企業の情報を一括で管理できる仕組みを備えており、ユーザーはストレージのことを気にすることなく、さまざまなデータを活用できるという。

photo Boxの概要

 さらに高山氏は「コンテンツ共有や、ペーパーレスなどによる“働き方改革”、欧州のGDPR(一般データ保護規則)などのガバナンス/リスク対策基盤などにも幅広く活用できる」と説明。現在、「IBM Watson」「Microsoft」「Google」などのAIツールとの連携を図るといった機能強化も進めているという。

 それらを踏まえて高山氏は「Boxの使命は、企業の情報管理とコラボレーションの在り方を変革すること。Boxを活用して世の中を変えたい」と意気込みを語った。

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提供:株式会社Box Japan
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2019年1月8日

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