64ビットコンピューティングが飛躍する
AMDは2003年春、同社初の64ビットプロセッサであると同時に、同社初のサーバ向けプロセッサでもある「Opteron」を正式発表した。AMDはデスクトッププロセッサ市場並みの大競争時代を巻き起こすことができるだろうか。

 AMDが2003年4月にOpteronを正式発表したとき、いくつかのサーバメーカーやチップセットメーカー、ソフトウェアベンダーの支持は得たが、大手メーカーでは、IBMがHPC向けサーバへの採用を、富士通シーメンスがワークステーションへの採用を発表したにとどまった。しかし正式発表以降、OpteronはHPC分野で採用が相次ぎ、さらに11月にはSun MicrosystemsがAMDとの戦略提携とともに、Opteron搭載サーバを発表、Solarisをサポートしていくことも明らかにしている。「2003年はレボリューション、2004年はエボリューションの年」という、日本AMDのCPGマーケティング本部長ローガン氏に、Opteronを中心とした戦略について聞いた。

ITmedia プロセッサメーカーの立場から見て、2003年のPC市場はどのようなものだったでしょうか。

ローガン 2001年2002年のPC市場が低調だったのに比べて、2003年はだいぶ元気になりました。対2002年比で1割くらい売り上げが伸びています。日本市場において2001年2002年と販売台数は純減状態でしたが、2003年はおそらく1300万台を超え、2004年は1400万台を超えると思います。

ITmedia ワークステーションやサーバ市場の動きはどうでしょうか。

ローガン 2003年の日本市場におけるサーバの売り上げは年間41、42万台くらいと見ています。この数字は2001年、2002年と比べると、多少上向きになってはいますが、ほぼ横ばいというところです。おそらく2004年もそう急に増加するということはないでしょう。

ITmedia 2003年はAMDにとってはどのような年だったでしょうか。

ローガン AMDにとっては、2003年はレボリューションの年、そして2004年はエボリューションの年と言えますね。

 レボリューションの年とはどういうことかといいますと、2003年に3つの大きな発表があったからです。まずレボリューションNo.1は、Opteronです。OpteronはAMDとして初のサーバ市場向けプロセッサであり、かつては低価格のコンシューマーデスクトップ向けプロセッサに資源を集中しようとしていたことから考えるとまさに革命です。

 レボリューションNo.2は、8月にNational Semiconductorから(情報端末向けの低消費電力x86系プロセッサ)「Geode」の資産を買収したことです。いまAMDは、マイクロソフトのOSとx86系プロセッサを組み合わせ、上から下までシームレスに提供するという戦略をとっています。Geodeを手に入れたことで、サーバ、ワークステーション、デスクトップ、ノートブック、ハンドヘルドまで1つのアーキテクチャでカバーできるようになりました。レボリューションNo.3は、2003年9月にAthlon 64を発表したこと。これによってデスクトップ/ノートブックPCで64ビットと32ビット両方をサポートできるようになりました。

ITmedia 2004年のエボリューションとは?

ローガン インテルの64ビットプロセッサItaniumは何年も前に発表されたわけですが、Opteronは4月に発表されてから12月までにItanium 2の倍の数を出荷しています(編集部注:インテルはItaniumの出荷数を明らかにしていない)。2004年、Opteronの採用は一気に広がると考えています。Opteronの採用が最初に進んだのはHPC分野ですが、なぜ入り込めたかというと、HPCを利用する人たちが一番気にするのはブランドやサポートではなく、性能とコストだからです。東京工業大学や同志社大学ではOpteronを採用してもらうことができました。TOP500スーパーコンピュータリストにも、Opteronを搭載した製品が上位に食い込んでいます。


SunのOpteron/Athlon採用は、企業のIT担当者に大きな安心感を与えるというローガン氏

 次に食い込みたい市場は、もう少し一般的な企業のHPC分野です。保険会社の状況シミュレーションや、自動車会社の衝突シミュレーションなど、HPCは企業でも使われ始めると思います。さらに2004年の後半から2005年にかけて、企業のデータベースサーバやWebサーバなどにOpteronが採用されていくと考えています。HPCであれば、おそらくそれを直接利用する現場の技術者/開発者が採用を決めているわけですが、データベースサーバやWebサーバなどはIT部門が採用を決めています。IT部門の人たちは保守的なので、ある程度安心できるだけの事例がないと採用してもらえません。今後事例が増えることで、IT部門が握っているサーバにも食い込む機会が多くなるでしょう。11月にSun MicrosystemsがAMDプロセッサ搭載サーバやSoLarisのサポートを発表しましたが、企業のIT担当者への影響は大きいと思います。Sunが使うなら信頼できる、と考える企業は多いでしょうから。

 また、これまでAMDプロセッサが強いところはコンシューマー向けPC市場であり、企業向けPC市場にはなかなか導入が進みませんでした。企業向け市場では、サーバに採用されることがクライアントでの採用にもつながります。Opteronの投入によって、ほかのAMDプロセッサが企業のクライアント製品として採用されることも期待できるのです。いままで(コンシューマー向け/企業向けを含めた)PC市場全体におけるAMDのプロセッサシェアは20%程度でしたが、企業向け市場でのシェアが上がることで、全体のシェアを引き上げることができると考えています。

ITmedia Opteronの企業での利用が進むためには何が必要でしょうか。

ローガン 一般企業に浸透するのは単に時間の問題です。RISCプロセッサを搭載したサーバやワークステーションと、Opteronを搭載した製品では導入コストに大きな差がありますから。ただ、その時間がどうすれば短くなるかということは考えています。

 企業への浸透を加速する要素技術として、ユーティリティーコンピューティングとブレードサーバの組み合わせがあります。証券会社や金融機関では、ラックマウントサーバが多く使われていますが、そこでは設置面積やトランザクションあたりのコストが重要視されます。単位面積あたりの実装密度の高さや、状況に応じたダイナミックな運用管理など、ブロードサーバが有利な点が多く、移行が進むでしょう。Opteronは演算性能が高いだけでなく、低消費電力モデルも予定しており、メモリコントローラやHyperTransportをプロセッサに内蔵しているため周辺チップが少なくて済むなど、ブレードサーバに適しています。

 また一般企業での利用がさらに進むためにはやはりマイクロソフトのOSが必要でしょう。Opteron対応の64ビットWindowsが正式リリースされれば、一気に浸透するのではないかと思います。

2004年、今年のお正月は?
AVが趣味で家には大スクリーンのホームシアターがあるというローガン氏は、正月はDVD鑑賞をして過ごすという。「実は毎年この時期に観ると決めている作品があります。『七人の侍』を10年ぐらい前から必ず観ているんです。観るたびに違うメッセージを得ていますね」

2004年に求められる人材像とは?
一度方針を伝えたあとは、あとはいちいちこちらに判断を仰ぐことなく、自分で判断を下して行動してくれる人材が欲しいですね。

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日本AMD

[聞き手:佐々木千之,ITmedia]