エンタープライズ:ニュース 2003/11/19 16:55:00 更新


Keynote:米SunのOpteronサーバ発表が意味するものは?

COMDEXにおいてキーノートスピーチを行った、米SunのマクニーリーCEOは、Opteron搭載サーバの発表や、Java Desktop Systemの中国における契約など、生き残りをかけてユニークな新戦略の数々をアピールした。

 米ネバダ州ラスベガスで開催されている「COMDEX Las Vegas 2003」において11月17日、米Sun Microsystems CEOのスコット・マクニーリー氏がキーノートスピーチを行った。ハイエンドサーバの分野ではIBMやHPなどの猛追を受け苦境に立つ同社だが、近年発表されたユニークな新戦略の数々で、新たな生き残りの道を開拓しようとしている。

現実味を増すSunのデスクトップ戦略

 マクニーリー氏の基調講演は、9月に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催された「SunNetwork 2003」の発表内容をほぼ踏襲したものとなっている。「Complexity(複雑さ)を排除し、シンプル化されたソリューションの提供でコストを削減する」というアイデアを強調しつつ、サーバアプリケーションスイートである「Java Enterprise System」のユーザーあたり年額100ドルというシンプルなライセンス料や、「Java Desktop System」によるシンプルで安価なクライアント管理ソリューションを提案した。

スコット・マクニーリーCEO

Java Desktop System戦略に自信を見せる米SunのCEOのスコット・マクニーリー氏。最近はマイクロソフト批判のコメントも減って、だいぶおとなしくなった印象を受ける


 同氏はこのJava Desktop Systemの最新の成果として、CSSC(China Standard Software Company)という中国における業界団体との同ソフトウェア展開に関する契約を結んだことを発表した。この契約により、2004年にはJava Desktop Systemをベースにしたクライアントが数百万台の単位で展開されることになるという。

 一昔前であれば、Java Desktop Systemのようなソリューションはマイクロソフト対抗としての意味合いが強く、現実的な選択肢として見るのは難しいものだった。だがネットワークがシステムの中心になり、シンプルに管理することの重要性が見直され、特にビジネス用途においてシステムの階層化が進んできたことで、Windows以外のクライアントを採用するという選択肢も浮上してきた。キーノートの壇上でマイクロソフトのサイトからExcelやPowerPointのファイルを取り出してきてStarOffice上にインポートするデモを行っていることからも見られるように、現在では、オフィスアプリケーションやネットワーク技術の進化が、この傾向をさらに後押しするものとなっている。

 その究極の形態が「Sun Ray」だろう。クライアントは表示と入力機能のみを受け持つという、ターミナル型のソリューションであるSun Rayでは、IDとなるJava Cardを端末に挿し込むことでユーザー認証を行い、該当するユーザーのデスクトップ画面を表示する。カードを抜くと自動的にログアウトして、次回カードを挿入した時点でログアウト直後のデスクトップを再現する。これは、別のSun Ray端末に移動しても有効だ。自宅にSun Ray端末が配置された場合、帰宅したビジネスマンが自宅マシンにJavaカードを挿せば、やはりオフィスとVPN接続でデスクトップが再現され、すぐに作業を再開することが可能になる。このSun Rayのようなソリューションは、管理のシンプル化とコスト削減を目指すサンの戦略と完全にマッチするものだ。

AMDとの戦略提携でOpteronサーバ発表へ

 すでに業界内で噂が流れていたが、このマクニーリー氏の基調講演の中で、AMDとの戦略的提携とそれにともなう「Sun Fire」のOpteron搭載版の発表が行われた。同社の進めるハイパフォーマンスコンピューティングへの長年の取り組みへの成果の一つとして、今回のAMDとの提携が行われたとし、壇上で米AMD社長兼CEOであるヘクター・ルイズ氏とともに、その最新プロダクトであるOpteron搭載のSun Fireを紹介した。

米AMD社長兼CEOのヘクター・ルイズ氏とマクニーリー氏

米AMD社長兼CEOのヘクター・ルイズ氏をゲストに迎え、Opteron搭載Sun Fireのお披露目を行った。製品自体は2004年前半に市場に多く出回る見込みだという


 Sunは今年から、PCアーキテクチャーへの傾注を始めている。同社は以前、Intel x86版Solarisに関しては、32ビット版のみを提供し、64ビット版はSPARCで提供するという方針をとっていた。またx86版に関しては、最新版のポーティングも遅れがちだった。今年に入り、インテルのXeon搭載サーバとx86版Solarisをリリースすることで、x86/PCアーキテクチャへ本気で取り組み始めた。また同社はLinuxのサポートも同時期にスタートしている。当初はサン独自のLinuxディストリビューションをリリースしていたが、サポートや新技術への対応迅速化を狙ってRed Hatなどの他の大手ディストリビュータと提携を進め、広くLinuxディストリビューションをサポートする方向に戦略転換を行ってきた。

 このように、SolarisとLinuxという2つのOSとUltraSPARCプロセッサベースとx86プロセッサベースの2種類のサーバを同時にサポートするという多方面戦略をとるのが、現在のサンだ。今回のAMDとの提携発表で、新たにOpteronという64ビットベースの新しいアーキテクチャが加わった。同社では、OpteronでのSolarisとLinuxの2OSのサポートを表明しており、数年前のSolaris+UltraSparcという単一プラットフォーム路線から大きく舵を切ったことになる。

Opteronサーバ発表の意義

 同社では、XeonベースのPCサーバを発表した際に「ライバルはDell。価格競争力で十分に勝てる」と、近年サーバ業界で急上昇中のルーキーを非常に意識したコメントを発表していた。だが、今回のOpteronが対抗とするのはIBMやHPなどといったハイパフォーマンスコンピューティングにおけるライバルであり、XeonベースのPCサーバとは異なる領域である。ハイパフォーマンスコンピューティングは、科学技術計算などのスーパーコンピュータ的な用途を指すケースが多い。サンは現在、ハイパフォーマンスコンピューティングの分野ではIBMとHP、下からはDellの猛追を受けている状態だ。XeonサーバがDell対抗だとすると、OpteronサーバはIBMとHPへの対抗ということになる。

 だがマクニーリー氏によれば、Opteronサーバがターゲットとするのはエンタープライズ分野であり、その上で動作するのは一般的な企業向けアプリケーションだという。OpteronのライバルであるItaniumは、当初研究機関などを中心として導入が進み、一般企業にはなかなか入り込めなかった。その理由として、Itaniumはx86プロセッサとバイナリ互換ではなく、x86で築かれてきた数多くのプラットフォームやアプリケーション資産を継承できなかったことが挙げられる。ゆえに、その性能を生かす方向として科学技術計算などのハイパフォーマンスコンピューティング分野を目指さざるを得なかったという背景がある。

Las Vegas Convention Centerの入り口

COMDEX Las Vegas 2003が開催されている、Las Vegas Convention Centerの入り口風景。例年より規模が縮小したものの、やはり多くの来場者であふれている


 サンは今回のOpteronサーバ発表で、Itaniumの轍を踏まないようにし、広くボリュームゾーンを狙うために、この点を強調したと思われる。マクニーリー氏は、基調講演の後に開かれたQ&Aセッションにおいて「価格性能比を考えて最良のパートナーだと判断した」と、AMDとの提携の理由を説明した。

 もう一つの理由として、Opteronが従来の(x86の)32ビットコードをサポートしている点が挙げられる。マクニーリー氏は先ほどのQ&Aセッションの席で、「UltraSPARCのケースでも、顧客は32ビットから64ビットへの移行への抵抗を見せた。コードの変更なしに移行可能なOpteronは、この問題を解決してくれるだろう」と話している。いずれはSolarisとLinuxの両方で64ビットネイティブなOpteronコードをサポートすることになるだろうが、Itaniumに比べるとそのハードルは低いように思われる。

 今回の発表でサンは、エンタープライズ向けPCサーバで大々的にOpteronサポートを表明した最初のメーカーとなった。うがった見方をすれば、HPなどのライバルがいっせいにItaniumサポートを推進する中で、同じ道を進んでいては差別化が難しいと判断したサンと、強力なパートナーを探していたAMDの思惑が一致した結果だとも考えられる。UNIXサーバの分野で闘っていたライバル同士が、こんどはPCサーバの分野に舞台を移したようで非常に興味深い流れだ。

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[鈴木淳也,ITmedia]